4「いざ、ドラゴンの元へ」
「なぁアル、その…何で本なんて持ってきてんだ?」
「これは時と場合によっては必要なのです」
「そ、そうか…」
現在、俺達はドラゴンを退治するべく『ルクア山』と呼ばれる山に向かっている。
ドラゴンは高い所を好み、この近くの高い所と言えばルクア村の皆なら必ず知っているであろう先程言ったルクア山しかないという訳である。
てか…この本重い!流石に五歳児にはこのでかさの本はキツい…六法全書並みじゃないかこれ…?いやでもこれは必要だ。
俺が何故、この『強化系魔術教本』を持ってきているか、疑問に思ったことだろう。
戦闘では確実に邪魔になるのに何故、と。
答えは実に簡単である、俺は父様の後方支援に徹するからだ。
流石に馬鹿見たいにドラゴン相手に突っ込んだりはしない、それに父様とも約束したしな。
だからこそ、俺が出来る最大限を尽くすために、強化系の魔術教本って訳だ、流石にそんなすぐに詠唱覚えられないし。
けどさ…本当にこれ重い…うぅ…辛いぃ…。
「はぁ…ん?」
俺が息を切らすと、父様が何故かこちらをじっと見てくる。
ん?なんだなんだ?実の娘に欲情でもしたのか?もしそうだとしたら父様の守備範囲の広さに幻滅せざるを得ないな…まぁそんな冗談は置いといて。
「どうしました?父様、私の顔になにかついてますか?」
と、俺が聞くと、父様の口元がニヤリと笑った。
なんか嫌な予感がすーー
「よっと!」
「うわぁ!?」
「どうだ?随分楽になったろ」
「…えぇなりました、なりましたけれども、なんでお姫様抱っこしてるんですか父様!?」
男を軽々しく持ち上げやがって!
いや今は確かに五歳児の女の子ですけども!
「いいじゃないか、お姫様抱っこは女の子の夢だろ?」
俺は男だから夢どころか屈辱的な行為をされてる気分だよ!!
「いいから下ろしてください!!」
俺は断固として抗議する。
こんなの神が許しても俺の男としてのプライドが許さない!!
「よし!んじゃこのまま行くぞ」
「いーやー!!おーろーしーてー!!」
父様は俺の嘆きなど聞く耳も持たないまま俺をお姫様抱っこした状態でルクア山へと向かったのだった。
そして俺は決意する、いつかこのクソ父様にもお姫様抱っこして俺の気持ちを味会わせてやると。
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「よし!着いたな、んじゃ登るか」
父様は一度俺を下ろすと、腕を伸ばし始め、登る準備をしている。
うぅ…俺のプライドもうズタボロだよ…。
なんでドラゴン退治の前にメンタルブレイクされなくちゃいけないんだよ…ってそうだよ!ドラゴン退治だよドラゴン退治。
よし、今はお姫様抱っこは水に流そう。
トイレに全てを今は置いていってやる、すぐに流し戻すけどな…。
「それじゃ父様、ちょっとこちらを向いてください」
「ん?なんだ?」
「少し待っててくださいね…」
俺は強化系魔術教本をペラペラと捲る。
よし、そんじゃ、手を前に出してー詠唱開始!
「《我、アルトリア=シューレルの名のもとに、他の者に強き鋼の心を》」
「お?おお!何か力が沸いてくる気がする!」
「身体強化の魔術です。
これで少しは動きやすくなるでしょう」
ドヤ、と俺が上に人差し指を立て言う。
「ほう、んじゃちょいと確認するか」
そう言うと父様はポケットからカードの様な物を出した。
「父様、なんですかそれ?」
「ん?これはな『ギルドカード』と言って、ギルド登録するさいに必ず発行される物なんだ。
これに自分の個人情報とか、ステータス、レベル、そう言うのがわかるんだ」
おいなんだそのココロオドル単語達は。
ギルドカード?ステータス?レベル?
最高じゃないか!ん~!俄然この世界でのやる気が沸いてくるね!
こりゃ冒険者コース確定じゃないか!?
ギルドカードの内容はどんな風になってるんだろうか…気になる…。
「父様!そのギルドカード見せてもらっても!?」
「おう!ほれ」
そして俺はワクワクを抑えながら父様のギルドカードを受け取りそれに目を向ける。
「…父様、何も見えないんですが?」
「あ、すまん、パス解くの忘れてた」
父様はそう笑うとギルドカードに手をかざし「解除」と、唱えた。
すると、そこに文字が浮かび上がってくる。
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名前:アトリ=シューレル
性別:男
LV:101
職業:【剣士】【双剣士】
体力:5860/5860(+500)
攻撃力:3580(+500)
防御力:4220(+500)
魔力:1001(+500)
所持スキル
剣士スキル所持数(16)
双剣士スキル所持数(7)
ユニークスキル
【武技武装】
どんな武器でも瞬時に達人かの如く扱うことが出来る。
称号
【武器を征し者】
称号付与効果。
武器全ての効果が大幅にアップする。
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おぉ…父様強い…レベル101って…。
「んじゃま、無駄話もこれくらいにしてそろそろ行くぞ」
「そうですね!『終わった後で』たっぷりと聞くことにします」
「終わった後で…ねぇ…」
父様はニヤリと笑う。
「えぇ…終わった後で、です」
俺もニヤリと笑い返す。
どうやら父様は俺の勝ち宣言がお気に召した様だ。
それじゃ、ドラゴンの元へレッツゴー。
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「はぁ…はぁ…後どれくらい…ですか?」
俺は近くの木に手をあて、ふらふらの体を支える。
「後十五分くらいすりゃ頂上だ、もう少しだからがんばれー」
「とは…言っても…この山…はぁ…登ってもう二時間は経ちますよ?疲れない訳ないじゃないですか」
俺が弱音を吐くと
「それじゃまたお姫様抱っこするか?」
「さっ!父様、頂上まで一気に行きますよ!」
「どれだけ嫌なんだよ…」
当たり前だろ!?あんな屈辱もう一回味わうくらいならこの山を全力ダッシュした方がまだ増しだぜ。
それにしても、道が歩きやすいな…父様が歩きやすい様に先人をきって道を開いてくれている。
こう言う所は本当、お父さんって感じがするよ。
そして、山を登り、段々と坂が平地へと変わり、そこで父様が「止まれ」と、合図を出す。
そして父様は木々が開けた先を指を差し、静かに言う。
「あれが…『ファントムドラゴン』だ…」
そこにいたのは、黒く、何処までも黒いドラゴンだった。
読んでくださりありがとうございます!
感想の方で意見をくださったのでそれを参考に書いてみました!
そして、とうとう、親子とドラゴンとのご対面です。
次回はアルとアトリのドラゴン退治開始です!
ではまた!