3「信じるから俺を信じろ」
朝、俺は目が覚めた。
どうやら昨日魔力を全て使い果たしてぶっ倒れたらしい。
どうにも頭が痛い、昨日の記憶が曖昧。
父様から聞いた話だと、俺が魔術を使って母様の傷を完全に塞いだらしい。
そう、ここまではいい。
ここまでは、だ。
ついにバレてしまったのだ。
俺が、隠れて魔術を練習してた事が。
まぁてな訳で、現在家族仲良く(雰囲気最悪)テーブルを囲んで家族会議中です。
「あ、あの父様…?母様…?」
耐えきれず俺は声をかける。
「「…」」
何で無言なんでしょうか。
後すごい威圧感なんですが。
え?怒ってらっしゃる?確かに何も言わずに魔術の練習をしてたのは悪いけど、そこまで?
「あのな…アル、父さんはお前には感謝してる。
母さんを救ってくれた。
その事は本当にいくらお礼を言っても言い足りない。
自慢の娘を持った俺は幸せ物だ。
だけどな、魔術を使えるって事を、父さんや母さんに隠してたのは別だ」
俺が心の中で喚いていると父様が口を開いた。
勿論、そんな俺には反論などなく…
「ごめんなさい…」
と、俺が素直に謝ると、父様はにこりと笑みを浮かべてくしゃくしゃと俺の頭を撫でてくれた。
俺はこの雑に撫でられる感じが嫌いじゃない。
「よし!許す、それじゃ飯にするか、母さん」
え…?それだけ?
「あの…父様お説教は…?」
「んー?そんな恩知らずの事はもうしたくないな、アルが隠し事を家族にした、だから叱った、それだけだよ。
だからもういいんだ」
父様がニッコリと笑うと母様が俺の頭をゆっくりと撫でながら言う。
「…アル、昨日は本当にありがとうね」
母様は俺に優しく微笑んだ。
あぁ…良かった…本当に、この人が生きていてくれて、まだ笑っていてくれて…本当に良かった。
「うん!」
今日のシチューは、何故か物凄く優しい味をしていた。
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翌日の朝。
うとうとした目を擦りながら階段を下りリビングに行くと、そこには父様が銀色の鎧と二つの剣を腰に刺して立っていた。
「…?」
その姿を見て俺は疑問に思った。
いつもは剣一本の軽い装備で狩りに行くはずの父様が今日はかなりの重装備のご様子。
なにかあるのか…。
「っ!」
俺は気づいた。
そして父様に詰め寄り問う。
「父様、もしや一昨日襲った魔獣の退治に行かれるのですか…?」
俺がそう言うと、父様は優しく微笑んで俺に言う。
「そんな顔するな、父さんが凄い冒険者だったってのはお前が一番わかってんだろ?なーに、パパッと倒して帰ってくるよ」
「…父様がいつものお召し物なら納得したかも知れません。
けれど、今回の相手は父様が本気を出すほどに苦戦を強いると言う事ではないのですか?」
父様は困った様な笑みを浮かべて頬をポリポリとかく。
「アルにはなんでもお見通しだな…」
「それで父様、魔獣の名と討伐ランクは?」
父様は目をそらすと共に答える。
「名は『ファントムドラゴン』、S級討伐対象だ」
「なっ!」
ドラゴンって…確かこれも本で読んだな。
ドラゴンは魔獣の中で最も討伐難易度が高いと言われている。
その姿を見ればたちまち終焉がその地に持たされると言う。
そうか…昨日の壊れようはドラゴンのブレス…だから周りが燃えていたのか。
「村への被害は?」
「それは大丈夫だ、俺達の家は村の端っこにあったからな、ドラゴンのブレスを受けている家はここだけだ」
それは良かった…けど、なんで俺の家だけ?
え?なに?ドラゴンさん嫌がらせですか?
てかドラゴンをソロ狩りなんて不可能に近い…いくら父様が強くても…そんな相手に何で…。
俺はその疑問をはらすために父様に問う。
「そもそも父様、何故わざわざ倒しに行かれるのですか?自ら危険を犯さずともいずれ冒険者パーティーが退治してくれるかと」
そうだ、わざわざ父様がドラゴンと戦う必要なんてないはずだ。
「アル、それじゃ遅いんだよ。
いつあいつが村にブレスを放つかわからない…だから悠長に構えてる暇はないんだ…それに、俺は奴に仮を返さなくちゃいけない、ルミアの為に、そしてアル、お前の為に」
父様はただ優しく微笑んだ。
けど…その顔に安心させる要素がねぇよ父様…手、震えてんじゃん…そうだ、父様だって本当は怖いはずだ。
けど、村の為には一刻も早くドラゴンを討伐しなきゃいけない。
そして、俺と母様の為に…。
でもその相手はあまりにも大きすぎる…勝算があるとも思えない…そんなの…見過ごせる訳ないだろ!
「父様!私もご一緒に「ダメだ!」
俺の台詞は父様の怒声と共に遮られる。
「どうしてですか!?」
「危険すぎるからだ!」
「ならば私に指を加えて待ってろと!?」
「そうじゃない、父さんを信じて欲しいんだ」
信じたい…信じたいに決まってんだろ…。
けど…そんだけの理由じゃ納得行くわけねぇだろ、命ってのは一つしかない。
一つしかないんだ、例えもう一度新しい命が芽生えたとしても、もしかしたらもう会えないかも知れないんだ。
俺はそんなの…ごめんだ!
「父様、私は父様を信じてます。
だから…父様は私を信じてください!」
俺は父様に自分の正直な思いを伝える。
きっと父様にはわかっているはずだ。
俺は父様を信じてる、だから俺を信じて欲しいんだ。
絶対力になるから、絶対助けて見せるから、絶対生きて一緒に帰って見せるから。
俺は父様の視線を一心に受け止める。
俺の今の決意が伝わると、父様は乱暴に頭をかく。
「だぁー!わかったよ!!てかアルがこう言う事になると絶対に引かないのは昔からだったなチキショー!
けど絶対に前に出るなよ?絶対だぞ!?」
わかってるじゃん父様。
「はい!肝に命じます!
援護は私に任せてください!」
「はぁ…まさか俺の背中を実の娘に預ける日が来るとはな…アル、自分の年齢自覚してるか?」
父様は苦笑いと共にとても失礼な事を言ってきやがあった。
むぅ…ならば我の可愛さを見せてやろう。
「五ちゃいだおー!」
「今更そんなお茶目入れても遅いぞ?」
チッ…ダメか。
そして、父様は無邪気な子供の様な笑みを浮かべて言う。
「それじゃ、親子でドラゴン退治と行きますか!」
「はい!」
読んでくださりありがとうございます!
感想に書かれていた疑問を後書きに書きます、本編の方では書く隙がなかったのでw
アトリがドラゴンのブレスで無傷なのはただ単に、ルミアとは違う部屋にいたというだけです。
アルよりか近くの部屋にいたためいち早く駆け付けれたと言うことです!
それでは!
また読んでくださると嬉しいです!