30「王都」
「お~い可愛い嬢ちゃん、そろそろ着くぜ」
「ん…?」
馬車のおっちゃんの渋い声で目が覚めた。
荷台の固い板の上をゆっくりと起き上がる。
まだうとうとした瞳を擦り、馬車の外を眺めた。
その向こうにあった光景はーー
「で、デカー!!!」
信じられない程大きな城が見えた。
その周りを壁で囲い混んでいる。
あの壁五十メートルあったりして、ならあの馬鹿見たいな名前の奴がわざわざフラグ立てて回収したりするんじゃないの?
なんて馬鹿見たいな考えをしていると、渋いおっちゃんがニヤニヤしながら俺を見てきた。
なんですかい?俺に惚れた?すみません俺ノンケなんで勘弁してください。
ん?いや今俺女だから普通なのか?
「王都に初めて来た奴は皆嬢ちゃん見たいな反応をするぜ」
あ、そゆことね。
「確かにこんなのを見れば誰だってこうなりますね…それにしても本当にデカイですね。
中心都市と言われるだけあります」
「嬢ちゃん若いのに随分大人びた話し方するねぇ、普通に話してもらっていいんだぜ?もっと可愛いげを大切にしな」
おいなんだこのおっちゃん、俺の父様とまったく同じこと言いやがる。
そう言えば結局父様にリベンジを幾度としたが全部失敗に終わったな…よし、ならば俺の可愛さをここで証明するべし!!
俺はおっちゃんを見詰め、満面の微笑みを向けて言う。
「ありがとうおじさん!」
ふふふ…これぞアルたん必殺『微笑みの伊吹』!!って…はいはいわかってますよ。
どうせこの人も違和感が~とか言うんでしょ。
もうわかってますよ。
俺はわかりきっている結果に落胆しながらもおっちゃんを見た。
「お、おう…」
あれ…?
「俺に娘がいたらこんな感じなのかね…よーし!嬢ちゃん、嬢ちゃんの可愛さに免じて馬車代安くしとくぜ!」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ!んじゃかっ飛ばして行くぜー!」
おいおいなんだよ!俺やっぱ可愛いんじゃん!!父様達俺の攻撃に身悶えもしないと思ってたけど実は効果は抜群だったんじゃないの?
やはり俺の自己評価は間違ってなかったぜ!
そして俺とおっちゃんを乗せた馬車は王都へ全速力で向かった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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「それじゃ嬢ちゃん、ここでお別れだな」
「はい!ここまで本当にありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、おっちゃんはなぜか頬をポリポリとかきながら俺の方を見てきた。
「な、なぁ嬢ちゃん、最後に『お父さん』って言ってくれねぇか?」
ん…?ほほう、こいつ娘属性に目覚めたな。
まぁそう言うことなら仕方あるまい。
俺は顔を上げて、再びアルたんスマイル。
「ありがと!お父さん!」
「うおおおおおおおおおお俺の娘よおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
お、おぉ…そこまで喜ばれるとは…。
そして、俺は渋いおっちゃんに馬車代を半額にして貰った。
おっちゃんに手を振り終わり、俺はうしろを振り返る。
賑わい、活気に満ちた店、溢れる人、全てが新しい新天地にこれからも踏み入れることを実感させる。
ここから始まるのだ。
アルトリア=シューレルの冒険譚が。
「…ここが、王都」
よし、とりあえず第一優先は、冒険者登録をしにギルドへ行くかな。
ふふふ…わかっている、俺はわかっているぞ。
テンプレ中のテンプレ、野次馬冒険者に絡まれる、イベント。
野次馬イベントは強さを知らしめる為には結構重要なイベントだ、失敗のない様にイメトレしとくか。
『おい嬢ちゃん新入りか?』
『はい』
『嬢ちゃん見たいな子供に冒険者が勤まるのか?ギャハハハハ』
『なら試してみますか?』
『あん?』
『私の力を見せてやりますよ!!」
この後野次馬共をボコボコにしてぇ…
よし、イメトレおけ。
これ俺行けるわ、テンプレ展開ちゃんと受け入れる準備完了。
俺はイメトレを終えて、先程門番の人に聞いた道程を辿り、冒険者ギルドへ到着した。
「ここか」
見た目は正に冒険者達が徘徊していそうな立派な建物が構えていた。
さぁかかってこい野次馬共、テメェらなど俺の経験値にしてくれる。
覚悟を決め、冒険者ギルドの扉を開けた。
「ようこそー!冒険者ギルドへー!」
「へ…?」
扉を開けたそこには、俺が予想していた野次馬共の舐めるような視線などなく、一人のギルド員っぽい女の子が俺を迎えてくれた。
あんれぇ…?俺のイメトレと違うぞい。
俺が唖然としていると、ギルド員の女の子が前に立ち、満面の笑みでこちらに問いかける。
「初めての方ですよね?」
「あ、はい」
「えーではこちらにどぞー!
一名様ご案内でーす!ミシェルちゃんよろよろ~」
テンションたけ!
そんなツッコミを他所に、いつの間にか、カウンターの様な場所に案内され、用意された椅子に座らされる。
そして、目の前に、茶色の長い髪を垂らした目鼻立ちの良い女の子がこちらを隠れていない片方の目でじっと見詰める。
な、なに…?
なんか怖いんだけど…。
「あなた…可愛いわね…ぐひ」
あ、なんだろ、親近感。
「あはは…」
俺が愛想笑いで返すと、茶髪さんは咳を一つ挟むと、笑顔を浮かべる。
「冒険者ギルドへようこそ!
担当させて貰います、ミシェルと申します今後ともよろしくお願いします」
切り替え早いな、これがプロか。
そんな関心をしながら「よろしくお願いします」と愛想良く返す。
こう言うのは第一印象が大事と言うからな。
「えー初めてと言う事で、まずどういったご了見でこられたのかの確認をしてもよろしいでしょうか?」
「えっと、冒険者登録をしたいんですけど」
そう言うと、ミシェルさんは何故か目を見開きながらこちらを見る。
「見た目がとてもお若い様に見えますが…もしかしてドワーフだったり…?」
「いえ、人間です」
「お歳は…?」
「十歳です」
年齢を言うとこれまた驚かれた。
ミシェルさんからの話によると、十歳からの冒険者登録はかなり稀らしい。
確かに十歳から冒険者登録は可能だが、だからと言って好き好んでそんな歳で冒険者になる者などほとんどいないそうだ。
それほどに危険な仕事、と言う事だろう。
常に死と隣り合わせを具現化した様な職業だもんな、そら驚かれるか。
驚かれながらも、話を進めるミシェルさん。
どんなことがあっても次に切り替えるその姿勢、会社員だった頃の前世を思い出すぜ。
「えーでは、冒険者登録と言う事で、こちらを」
目の前に突然出されたのは人の頭くらいの水晶玉だ。
これで何をするかはなんとなくわかるが、一応聞いておこう。
「これは?」
「こちらは、触れた対象の魔力を辿り、これまでの経歴とステータスを読み取る水晶です。
その情報を、このギルドカードに映せば完了です。
ちなみに!もしも犯罪経歴があった場合などは水晶が赤く光、即刻兵隊さんにしまっちゃおうね~されます!」
おいまて!なぜミシェルさんがそのネタを知っている!?いや偶然だとはわかっているが。
てかなかなかに怖いな、いやま犯罪経歴は皆無だから問題ないけど、なんなら前世での俺は聖人君子と言って良いまである。
「えっと手をここに置けばいいのですよね?」
「はい!」
俺は恐る恐る手を伸ばし、水晶の上に置いた。
その瞬間水晶が青く光り、俺を照らす。
「ッ~!」
なんか中に何か入ってくる様な感覚に襲われた。
なんだこれ!すごく気持ち悪いな!!
そして、段々と光が収まり、体の中に入ってきた何かが消えて行く。
「はい!問題なしですね!
それじゃギルドカードに写して…」
ミシェルさんは持っているギルドカードを水晶の上に置く。
「では、写し終えたので一度こちらで確認させて貰いますね」
「はい」
ふぅ…これで俺もとうとう冒険者の仲間入りですかい。
俺はほっと一息、ふとミシェルさんの方に視線を向けた。
そこにいたミシェルさんは何故かギルドカードを見てぷるぷると震えていた。
その様子が気になる俺は声をかける。
「あの、どうしまし…」
俺が声をかけようとした瞬間だった。
ミシェルさんが俺の肩を掴み、そしてーー
「なんですかこれえええええええええええ!?」
叫び、ギルドカードをこちらに見せてきた。
俺はそのギルドカードに視線を向け、じっくりと見た後、出た声。
「ふぁ…?」
この一言だった。
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名前:アルトリア=シューレル
性別:女
LV:110
職業:【魔術師】
体力:3260/3260
攻撃力:6520
防御力:4260
魔力:956324
魔術ランク
総合魔術ランク『S』
攻撃系魔術『S』
防御系魔術『A』
付与系魔術『S』
治癒魔術『S』
無属性魔術『S』
ユニークスキル
【魔術適正】
魔術への適正が全て最大限に付与され、更に魔術の成長スピードが最大限に付与される。
【魔術創造】
自由に自分が思い浮かべた物を魔術で創造する事が出来る。
称号
【竜殺し】
ドラゴンを討伐した者のみに与えられる称号。
ドラゴンへの適正が最大限に付与される。
【金髪碧眼の魔術師】
ただの異名、付与効果特になし。
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長らくお待たせしました!!
久し振りの更新となります!どうも作者です。
更新頻度は毎日とは行きませんが、頑張って書かせて頂きますので、これからもよろしくお願いします!(ツェルトの出番なかったなぁ…)