27「親子」
朝食を食べ終わると、俺は村の方へ行った。
皆に別れの挨拶をしに、すると別れを惜しむ人や応援してくれる人、泣く人、沢山いた。
『アルちゃんならやれるわ、頑張ってね』
『村の英雄様はきっとどんな困難にぶち当たっても問題なしだぜ』
『また会える日を楽しみにしてるわ』
皆から暖かい言葉を貰った。
また泣きそうになったけど、流石に皆の前では堪えた。
本当に、いい村だな…。
ここに生まれて、良かった…。
今日で本当に最後なんだよな。
「よし、もう全部回ったし、帰るかな」
俺は少しでた涙を拭って家へと帰った。
母様、父様、そしてミーニャ…。
皆と楽しい一日を過ごした。
いっぱい遊んで、話して…父様とはこんな話をした。
「アル、お前が冒険者になるって言った時な、実は俺嬉しかったんだよ」
「え?」
「俺の実の娘がさ、俺に憧れてそう言ってくれたって思うとさ…俺としては最高に誇れる事なんだよ」
「父様…」
「でも…でもな…別れは結局悲しいのは変わらないんだよ…だから…今だけは…今だけは情けない親でも…我慢してくれよ?」
そう言った父様は泣きながら、俺を抱き締めた。
この日、父様が泣くのを初めて見たかも知れない。
だからこそ、涙脆い俺はまた泣いた。
今日程泣く日は、もう今後有り得ないだろうな…きっと、それほどに俺はこの人達を…皆の事が、好きになってしまっているんだ。
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夜。
「そろそろ寝ようかな…」
明日は早いしな…本当に明日…「うっ」クッソ…急にまた感情の波がぁ…ビックウェーブがぁ…いつもの調子がまだ取り戻せそうにないなこれ…。
いつものお調子者の俺に戻るまで、少々の時間が必要だ。
と、俺が涙腺と戦っていると、母様と父様の寝室の扉がガチャリと開く音がした。
そちらに視線を向けると、母様がこちらを覗いていた。
「アル、こっちに来なさい」
「どうしました?」
「いいからいいから」
すると、母様は俺を寝室に入れる。
そこには父様も目を開けていて、母様が俺に言う。
「アル、今日は一緒に寝ましょ!」
「え!?」
驚いている俺をおいてけぼりにし母様はベッドに連れ込み、真ん中に俺を置いた。
俺が少し居心地悪くしていると父様はニヤニヤしながら頭を撫でて来やがった。
「ふふふ…アル、とうとう俺のベッドに来たな、今日は可愛がりまくるぞ」
「父様、少し気持ち悪いです、後ナデナデが雑です」
「お前本当俺に対してだけ当たり強いよな!?」
まぁお互い男同士だし、仲良くしようや。
「うふふ、相変わらずアトリとアルは仲がいいわね、母様も混ぜて貰おうかしら」
すると母様にも頭を撫でられた。
相変わらず母様のナデナデは優しくて癒される。
ヒーリング効果ありすぎ。
「気持ちいいです…母様の撫ではアルだけの物です」
「そうよ、私が撫でるのはアルだけなんだから」
「おい…俺との扱いの差がありすぎだぞ…」
「そんなことないです、父様は自意識過剰ですね」
「そうよ、アトリ、被害妄想よ」
「娘と妻が俺に対して冷たい!」
そんな会話をし、つい俺は笑ってしまう。
これが親子なんだな…俺にこんな幸せ、いいのかな…勿体無い気がする。
前世の俺が一生賭けても手に入らない幸せが、ここにはある。
この世界は、優しくて出来すぎている。
そんな、幸せを感じながら眠りについた。
その日はとても、心地いい眠りにつけた。
そして、明日俺はこの村から旅立つ。
読んでくださりありがとうございます!
そしてとうとう、次の話で第一章完結です。