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26「髪を切ろうかな」

一頻り泣いた後、ミーニャと色々と話した。

これまでの事、これからの事。

そこで、俺とミーニャは一つの約束を交わした。


「ねぇアルちゃん、一つ約束して?」


「ん?」


「また…絶対に会おうね!」


「…うん」


こうして、俺達はまた絶対に会おうと言う約束をした。

必ず、必ずまた…あぁ…やば…また泣きそう…ダメだな俺…涙脆すぎる…。


その日、俺は枕を濡らして眠りについた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「ん…?」


いつの間に寝たんだろ…。

とりあえず、顔洗いに行こう。


目を覚まそうと顔を洗っている最中にふと鏡を見ると、目の下が真っ赤だった。

昨日あれだけ泣けばそうなるかも知れない。

瞼にさす痛みがこれからの事を実感させる。


俺は明日、旅立つことになる。

ここから、この村から、覚悟は出来てる。

もう、俺は後ろを振り向かない。


「ん~…それにしても髪伸びたなぁ…」


鏡を見てみるとこの目の次に気になるのがこの髪の毛だ。

お尻の辺りまで伸びているこの金髪、そろそろ鬱陶しい…。

旗から見れば綺麗な髪…とか思えるんだろうが、自分の事となると別である。

邪魔だし、風呂に入るときにこの髪の手入れがめんどくさい…。

まぁ母様にさんざん注意されてるからちゃんと洗うわけだが。


母様に頼んで切って貰うかな…。

思い立ったが吉日、母様の元へ行こう。


「母さ…ま?」


俺が台所へ向かうと、母様の姿はあった。

あったのだけれど…寝てるし…。


そーっと起こさないように母様の元へ。


「ん~…あるぅ…愛してにゅ~…」


なんて可愛らしい寝言。

それにしても…


「はは…幸せそうな寝顔してるなぁ…母様」


俺はついその顔を見て頬が緩んでしまう。

母様に育てて貰って…本当に幸せな毎日だったな…もう母様のこんな顔も見られないのか…。


「やっぱ…寂しいなぁ…」


震えた声で、そう呟いてしまう。

せっかくの異世界…だから冒険したい…その気持ちが、揺らぎそうになる。

悔いのない人生を送る、この目標は転生したときに、この世界に生まれた瞬間に、決めていた事なのだから。


「ん…?」


「あ、母様、起こしてしまいましたか」


眺めていると、母様を起こしてしまった。

母様はこちらを向き、バッと立ち上がる。


「ねねね寝てなんかないわよ!?」


「母様、流石に無理があります」


「うぐっ…すみません、寝ていました…」


「はは、いいですよ、あ!それより母様にお願いがあるのですが」


「ん、なにかしら?」


「髪を切って欲しいのです、最近伸びすぎて邪魔なのですよ」


俺は前髪をちょちょいといじって邪魔ですアピール。


「そうねぇ…どれくらい切ればいいかしら?」


「そうですねぇ…もう一気にバッサリと「それはダメよ!」え…?」


俺の台詞が母様の声によって遮られた。


「アルの髪をバッサリ!?

勿体無いわそんなの!前髪を少し切る程度でいいのよ!!

後後ろ髪は背中辺りまで!これ以上は譲歩できないわ!!いいわね!?」


「あ、はい」


勢いに負けて、俺は妥協した。


場所を写し、中庭へ。

その真ん中に椅子を置き俺はそこに座る。

首から下を白い布で巻き、セット完了である。


「じゃあ切るわよ?」


「お願いします!」


母様はサッサッと軽快に音を鳴らし、ナイフで丁寧に俺の髪の毛を切って行く。

この世界にハサミはなく、髪の毛を切るときはこの様にナイフを小刻みに操り切って行くのだとか。


その中でも母様はかなりうまい方らしい、父様が言っていた。

これまでにも、何度か切って貰っていたが本当にすごい、切られる時まったく痛くないし、早いし、仕上げ完璧だし、もうプロ顔負けじゃないかと思うくらいだ。


「相変わらず母様のナイフさばきは凄まじいですね」


「あら、ありがと」


そんな会話をして数分「はい、出来た」母様がそう言うと俺に鏡を持たせて、確認させる。


「おぉ~」


見ると前髪は綺麗に整えられていた。

目元にかかっていたのが嘘のように不快に思わない。

後ろ髪もかなり軽くなった。


俺はその出来映えに満足する。


「ありがとうございます!母様」


「これくらいお安いご用よ…アル」


俺がその出来映えに喜んでいると、母様が俺を呼ぶ。

視線を向けると、母様は笑っている。

だが、その顔は酷く無理をしていて…今にも泣きそうな顔だった。


「母様…?」


「アル…私は貴女のお母様をちゃんとやれたかしら…?」


その問いに、俺は目を丸くした。

母様がそんな事を聞くなんて思いもよらなかったからだ。

こんなの…答える台詞なんて決まってるのに…。


俺は胸に手を持ってきて、ぎゅっと握り満面の笑みで答える。


「母様は私にとって、誰よりも、どんな人よりも、誇れる、掛け替えのない…母様です!」


涙が、またポタリ、ポタリと、俺の頬から零れ落ちる。

我慢する必要のない涙を、何度も溢す。


「アル…うっ…アル…」


いつの間にか、俺は母様に抱きついていた。

これが最後のお別れではない、そんな事はわかってる。

それでも…それでも…悲しいものは悲しいんだ、泣いてしまうんだ。


俺…泣いてばっかだな…。


すると、母様は俺からゆっくりと離れ、頬笑む。


「さっ…朝食を作りましょうか」


「…はい!」


俺と母様は、一緒に朝食を作った。

いつ、今度は作れるのか、それはわからない。

けどまた必ず、母様とここに立って料理の手伝いをしたい…いや、今度は俺が皆に料理を振る舞うのはどうだろうか?

きっと皆驚くだろうな…その日を、楽しみにしよう。

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