25「今は泣こう」
皆さんごきげんよう、アルたんよ。
話し方が何かおかしいですって?うふふ。
せっかく十歳になる寸前なのですから、淑女としての振る舞いを今後大切に…
ダメだ、違和感しかねぇ…やっぱ普段通りで行こう。
てことで、アルたん十歳だよ。
見た目も少し変わりました。
見てくださいこの長く美しい髪!
パッチリとしたお目め!成長しきっていないがそそるこのボデェ!今ならなんと!三千九百八十円!
…自分で言っときながら俺安いな。
まぁ俺の商品紹介は置いといて、そう俺は十歳になる。
十歳間近、つまり、俺が後もう少しで冒険に出る日まで遠くないと言う訳だ。
俺がロマンを求めて旅立つまで近い。
冒険者になるのは夢だし、すげぇ楽しみだけど、ここで一つ問題が生じる。
それは『女神ミーニャ』のことだ。
正直に言うが…ミーニャと離れたくない。
もうミーニャが可愛すぎて俺どうすればいいかわからない。
最近のミーニャは、俺への依存がたぶんだがかなり激しい…と思う。
俺は勿論の如くウェルカムなんだが、もし俺が冒険者になると行ったら泣かれそうで怖い…俺ミーニャの涙は正直エクスかリバー以上の威力があると思うし、何処かの騎士王さんも驚きなレベルに。
けど、ミーニャを連れて行く訳には行かないのだ。
そんな無責任な事は出来ない、これは俺のただの我が儘なのだから。
だから今日、俺はミーニャにこの事を話そうと思う。
けど…
「アルちゃ~ん♡」
今、ミーニャは前から俺に抱きつきながら座り、向き合っていると言う体制である。
明らかに距離感がおかしい。
くっ…どうやって切り出そう…。
ミーニャは成長するにつれて、俺への甘えが激しくなった。
隙あらば抱きつき、隙あらばキス。
これがもはや日常になっていた。
俺自身すごく嬉しい訳だが…デュフフ…おっと、すまない、少し脱線しかけたな。
さて…言わなきゃな。
ミーニャの反応がどうなるか、それが勝負のわけ目と言った所か、よし覚悟を決めろアル!!
「ミーニャ、話があるんだ」
「ん、どうしたの?」
「えと…その…」
覚悟を決めて、俺は言う。
「実は私、十歳になったらこの村を出て冒険者になるんだ」
言ったぞ…言っちゃったぞ…さぁ…ミーニャの反応は…?
「やっと言ってくれたね、アルちゃん」
「へ…?」
そこには、泣いているミーニャなどいなく、優しく微笑んでいるミーニャがいた。
「私ね、知ってた」
「どういうこと…?」
「アルちゃんのパパが言ってたの…それを聞いたのは八歳の時かな…」
ミーニャは少し声のトーンを下げて言うと、俺から離れて目の前で女の子座りをしながら下を向く。
ミーニャはこのことを知っていたんだな…それならどうして…どうして…
「…どうして、ミーニャは笑えるの…?
私はミーニャと離ればなれになるって言うだけでもう涙が出そうだよ」
冗談っぽく俺は笑う。
冗談でなく本当に泣きそうだけどな。
すると、ミーニャは俯いていた顔を上げ、俺を真っ直ぐ見る。
その目を見るとミーニャは…泣いていた。
「仕方ないじゃん…アルちゃんが選んだ道だもん…私が邪魔出来る訳ないよ…私の勝手な気持ちを優先なんて出来ないよ…」
けど、ミーニャはすぐに視線をそらし、無理に笑いながら言葉を続ける。
「…寂しいよ…もう何回泣いたかわからかいよ…でも…でもアルちゃんの夢だってそう言うなら私は…わた…し…は…うっ…ひっく…嫌だよ…嫌なんだよ…?私はアルちゃんお離れるなんて…でも…でも!」
ミーニャの感情の波は激しく揺れる。
そして、ミーニャはこちらに笑い、言葉を再び続ける。
「最後は笑って見送るから、絶対に笑って見せるから…だから今だけは…泣いても…うっ…ひっく…うわああああん!」
そしてとうとうミーニャの募りに募ってきた感情の波が一気に押し寄せてきて、爆発した。
俺はそれに対して、ただミーニャを抱き締めた。
ミーニャが一緒につれてって、と言うと思っていたが、ミーニャは自分で気付いてたんだな…。
俺がまだ、ミーニャを守れる程の実力も責任も、背負えないってことを。
なんだよ…ミーニャって俺が思ってた以上に大人じゃんかよ…。
「っ…!」
俺は涙を抑えきれなかった。
いや、抑える必要なんてない、今は泣こう、泣いて、泣き喚いて、ちゃんと大人になろう。