20「スパルタツェルト」
俺の頭が真っ白になる。
何も考えられない、痛い、痛い、痛い。
「どう…して…?」
振り絞って出た台詞がこれだった。
だがツェルトは笑ったまま何も答えてくれない。
クッソ…!ヤバい…死ぬ…。
死ぬ…?本当に…?
…死んだら次があるのか?
また来世が…あるのか…?
嫌だ…嫌だ!俺はまだ死ねない!!
「クッ!!」
俺は腹に刺さっている剣を掴む。
手が真っ赤に染まるが、そんな事を気にしている程余裕はない。
「抜っけろおおお!!!」
火事場の馬鹿力と言えよう、剣を抜いた。
そして俺は速やかに剣を生成し、一歩引いた状態で剣をツェルトへと構える。
腹の血が収まらない。
クソ…こんな状態で戦うって言うのか…?
「っ!?」
あまりの痛さにもはや立てることが出来なくその場で膝をつく。
ヤバい、動けない…もうダメだーー
俺がそう諦めようとしたその時だった。
「ん~やはりアルは反応速度に難ありの様だな、よしそろそろいいか」
ツェルトが訳のわからない事を言う。
それと同時に「あれ…?」何故か俺の腹の傷、いや傷所か血の後すらなくなっていた。
「えっと…どう言うこと?」
急な出来事に脳がついて行けず、俺は問う。
すると、ツェルトは手を合わせて言う。
「本当にすまん!アルの反射速度の確認をしたいが為に【幻影魔術】を使ってしまった」
「はい?」
「本当にすまない!!」
えっと…つまり俺の反射速度を見るが為に【幻影魔術】で俺が死ぬような思いをして…て言うか死ぬ覚悟をして、それでそれが嘘だったとか、そんなふざけた事を抜かしてやがるんですか、この英雄様は?
は…はは…。
「ツェルト」
「な、なんだ…?」
「正座」
冷たくいい放つと、ツェルトは涙目になりながら正座した。
この後俺が激怒したのは言うまでもあるまい。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「よぉーし!では剣の練習開始と行くか!」
ツェルトはわざとらしく元気に振る舞う。
頭の上にあるたんこぶは痛くないのだろうか?大丈夫かなぁ…心配だなぁ…え?お前がつけたんだろって?え~…そんなぁ…。
そうだけど?
「ツェルト、次あんな練習方法を実戦したらわかってますよね?」
「わかった!わかったからその拳をしまってくれ!怖いぞ!?だって仕方ないじゃないか!?昔私はこんな教え方しかしてこなかったのだから!ま、まぁ確かに皆すぐに私の元から離れて行ったが…」
だろうな!そりゃそうだよ!
あんなスパルタ方針でやられたら誰でも辞退したくなるわ。
いくら【幻影魔術】とは言え精神病む。
アルたんヤンデレルート突入するぞ。
「はぁ…とりあえず【幻影魔術】での恐怖体験はやめてくださいね?寿命が縮みましたよ…まったく…」
「う、うむ了解した!……アルは怒らせない方がいいな…いつもの可愛らしい容姿とは裏腹にあれは悪m…「なにかいいました?」なんでもない!!」
どうやら俺の笑顔はお気に召した様だな。
そしてツェルトは「コホン」と咳払いを一つ挟んで気を取り直す。
「では、模擬戦形式で稽古をつけよう」
「それが無難ですね」
「だが普通の模擬戦ではない、アル、お前は全力でかかってこい」
「全力で?」
「あぁ、お前の本業は魔術だろ?
アルの父上とは剣技のみでやってた様だが、私とは魔術も剣もありでいいぞ、逆に私は三割の力で相手しよう」
ほほう?随分となめられた物だ。
いくら英雄様とは言え、俺はこう見えても【金髪碧眼の魔術師】とか言う異名を持つくらいには強いんだぜ?
…やっぱりこの異名チェンジお願い出来ないかな?
「いいんですか?ツェルト。
後で泣いても知りませんよ?」
「泣かせられるものならな」
言うじゃねぇか。
「アルトリア=シューレル、全身全霊を持って行きます!!!」
この後、俺がぼろ雑巾の様にボコボコにぶちのめされたのでした。
いや調子に乗って本当すんませんした。
アルを楽々倒しちゃう鬼強いツェルトさんでした。