17「武器の英雄ツェルト」
さて、話を整理しようか。
まず、この魔剣は実は五が英雄の一人、武器の英雄『ツェルト』さんだった訳で、その人がいきなり俺のサーヴァントになったと。
「……訳がわからん」
「マスター、マスターのお名前を教えて頂いてもいいだろうか?」
俺が腕を組ながらハテナマークを浮かべていると、ツェルトがこちらに近寄り、しゃがんで質問してくる。
いやまぁわかるよ?俺の身長に合わせてくれてるのはさ。
『ツェルト』さんどうみても身長百六十はあるし。
それに比べて俺は百三十のチビですよ?
けど前世は百七十はあった訳で…つまりなにを言いたいかと言うと、すごい屈辱。
いや、悔しがってる場合じゃないか。
「えっと、私の名前はアルトリア、アルトリア=シューレルって言います。
マスターではなく気軽にアルとでも読んでください、ツェルトさん」
「了解した、アル。
なら私の事もさんはいらない、ツェルトと呼び捨てに」
「わかりました、ツェルト」
とか俺呼んでるけど相手英雄様なんだよな。
「ではアル、少し状況確認をしたいのだがいいだろうか?」
「まぁ突然呼び出されましたもんね、戸惑いますよ…はは…では私がツェルトを手に入れた経緯を説明しますね」
「よろしく頼む」
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「…って言う感じです」
「なるほど…」
俺が説明を終えると、ツェルトは何か納得したかの様にフムフムと頷いている。
その姿は気品溢れる騎士を連想させた。
これどこぞの騎士王様と引けを取らない程のカリスマスキルあるぞ。
「それで、ツェルトはこれからどうするんですか?」
「無論、アルに着いて行く所存だ。
私の全てはアルの物、私はあなたの剣となりて今ここにいるのだから」
なんで俺こんなに慕われてんの?
偶然に偶然が重なった結果俺がマスターになっただけって説明したはずなんだけど…。
「あのツェルト、私はあなたを偶然に召喚出来てしまっただけで…私なんかでいいんですか?」
俺が頬をポリポリとかきながら言うと。
だっていきなり英雄様が俺のサーヴァントになるとかいくらなんでも信じられんよ。
すると、ツェルトは立ち上がる。
「何を言っているのだアル!
私を【生命化】状態にさせる人間、即ち私の魔力と同調する事が可能と言う事だ。
それは私が敬うに対すると言えよう」
「えっと…色々ツッコミ所はあるけど…まず【生命化】って?」
「そう言えばスキル名としては【生命化】ではなく【擬人化】であったな。
ふむ…なら少し長話をするとしよう。
あれは、もう遥か昔ーー」
おぉ…急な回想くるぅ…。
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昔、アエリアと言う少女がいた。
その少女にはあるユニークスキルを所持していた。
【生命化】
物に命を与えると言う物だ。
だが、これには回数の制限があった。
『五回』この回数、つまり五の命を与えられると言う物。
そんなスキルを持っていた少女。
その少女の住んでいる世界は穏やかとは遠い所だった。
道を歩けば、戦場、誰もが殺し会う殺伐とした世界。
それが少女のいる世界だった。
魔獣共は容赦なく人間を殺し、それに必死に抗い人間もその相手を殺す。
終わらない戦争、終わってほしいと少女は願った。
願いに願いを重ねた。
途方のない願いをもって、少女は腐り果てた戦場を歩く。
その時、少女は出会った。
神々しく光る銀色の一本の剣が、たった一本、腐り果てた戦場で刺さっていたのだ。
その美しさのあまり、少女は見惚れていた。
少女は決意した。
この銀色の鋼の剣に【生命化】を使おうと。
そしてこの日、一人の英雄が誕生したのだ。
その英雄の名はーー
武器の英雄『ツェルト』
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「つまり、ツェルトには【生命化】スキルはない、けどその主がいなくなってしまったせいで人としての形は保てない。
けれど一度は生命を手に入れた身、その名残があって【擬人化】スキルが存在したってことかな?」
「その通りだ!」
なるほどねぇ…え?回想と説明が違う?まぁ細かいことはいいじゃない。
変なこと気にすると女の子にモテないよ?俺含めて。
いけない、脱線したな。
「じゃあ次、私と魔力が同調したと言うのは?」
「簡単な話だ。
私は元々武器の身であり、魔剣だ。
魔剣とはそもそも使い手との魔力の波長が合わなければいけない。
でなければ魔剣は何も意味を成さず、ただの頑丈な剣へと成り下がる。
けれど、その魔力の波長がアルとは完全に一致している。
魔力の同調を完璧と言える。
だからこそ、私もすぐ【擬人化】出来たのだろう」
へぇ…魔剣ってやっぱり使い手を選ぶんだな。
んでその中でも俺とツェルトはシンクロ率が四百%越えていたと。
…なんかもう色々急すぎてついていけないなぁ…急展開ってこのことかね?
よし、とりあえず大事な事を聞こう。
もうこれは俺にとって何より大事だ。
「あのツェルト、ツェルトは私の剣なのですよね?」
「その通りだ」
「つまり『絶対服従』と言う事ですか?」
「勿論だ」
銀髪美少女騎士様ゲットだぜヒャッハアアアアアアア!!!!
すみません…次回こそアトリがどうやってツェルトを手に入れたかを書きます!
おまけ↓
「アエリアとツェルト」
私は初めて、このスキルを使う。
このスキルはきっとこの剣のために使う運命だったのだ。
そう思わせる程に、その銀色の剣は美しすぎた。
ゆっくりと、剣に手を伸ばす。
私は、剣に思いを通した。
ー命よ、宿れー
その瞬間だった。
銀色の剣は、姿を変えた。
そこにいたのは、ただただ美しく、気高い、銀色の騎士だった。
「これは…あなたが私に体を?」
銀髪の騎士は今の状況を理解できていないらしく、私にそう問いてくる。
「え、えぇ…」
「そうか…ありがとう、ならばあなたは私のマスターと言う事になるのか。
これからよろしく頼む…私の名はツェルト、あなたの剣となろう」
彼女はただ、優しく頬笑み、私に手を伸ばした。
久しぶりに感じた人の温もり、彼女の手は私を安心させた。
これ程の安堵はどれくらいぶりだろう。
あぁ…やっと…やっと私は報われた…。
段々と昔の自分を取り戻して行く。
今なら心のそこからツェルトに言える。
「ありがとう…私を救ってくれて…」