15「幸せだ」
やぁ皆、アルたんだよ。
今俺は部屋で天使と遊んでいるよ。
「アルちゃんは好きな食べ物なに?」
「母様が作ってくれた料理なら全部好きだよ」
「アルちゃんのママの料理おいしもんねぇ~!」
是非君の事も食べたいな。
なんて口が滑っても言えない。
「じゃあミーニャ、今日の夕飯ミーニャも食べてかない?」
「いいの!?」
「勿論」
「ありかどー!アルちゃん大好きー!」
ミーニャは俺の胸にダイブしてくる。
仄かに香る天使の匂い、素晴らしいの一言であります。
「それじゃ、今日はミーニャも夕飯を食べるって伝えに行かなきゃね」
俺がそう提案すると「それはダメ!」と、ミーニャが大声で言ってきた。
「なんでダメなのかな?」
「そ、それはその…とにかくダメなの!アルちゃんはまだ私と遊ぶの!」
ミーニャは絶対に離さないと言わんばかりにぎゅ~っと俺に抱き着いてくる。
この感触、マジ癖になる。
けれど、そんな天使の行動に違和感を覚えないはずもなく、さっきから俺が部屋から出ようとするとミーニャが必ず止めに入るのだが…どゆこと?
いやそら、天使のミーニャが俺を求めているのなら嬉しいよ、けどさ、明らかに何か隠してるっぽいんだよなぁ…。
部屋から出てはいけない何か、かぁ。
よし、少し鎌をかけてみるか。
「ねぇミーニャ、部屋の外が何か騒がしいんだけど、なにかあるのかな?」
「なんにもないよ!!アルちゃんにバレない様に準備してるとか全然ないよ!!!」
ふむ…俺のために準備?何故に?
今日なにかあったかなぁ…いや、特質する点が見当たらん、強いて言うなら今日天使が家に舞い降りた事くらいだろ。
ん~…もっと探りを入れてみるか。
「ねぇミーニャ」
「な、なに?アルちゃん」
「ミーニャは私の事好きだよね?」
「うん!だーい好き!!」
この女神めが。
「うん、私もミーニャの事は大好きだよ。
だからもし、ミーニャが私に嘘をついているなら悲しいな…ねぇミーニャ、父様と母様はなにをしているのかな?」
どうよこの俺の天才子役張りの名演技は。
少し儚く、それでいてあどけなく、これぞ秘技『アルたんの悲しい顔なんて見たくない!』だ。
「えっと…えっと…」
ふふふ、困ってる困ってる…。
さぁ吐け!吐くんだ!吐けば美味しいカツ丼が待っているよ!
俺がミーニャを後もう少しと言う所まで追い詰めていると下から
「アルーミーニャー!下に降りてきなさーい!」
と、母様の声が聞こえてきた。
「う、うん!いまいくー!
行こ?アルちゃん!」
「うん」
慌てた様子のミーニャに手をひかれて階段を降りて行く。
ネタバラシの時間ですかい?
そして、ミーニャが扉を開けるとーー
「「「「「アル(ちゃん)誕生日おめでとー!」」」」」
そこには、拍手をしている皆の姿があった。
ミーニャのパパさんとママさんもいた。
俺はまったく状況がつかめず、ただ呆然としていた。
「これは…どういう」
やっと出てきた台詞はこんなものだった。
すると、父様がこちらに近寄り笑いながら言う。
「アルには教えていなかったが、八年経ったら必ずその人の『誕生日』を祝うことになっているんだ、そしてお前は今日で八歳になる。
つまりはそのお祝いだよ」
俺はやっとその状況がわかった。
この温かい空間が成す意味が、優しく皆が笑っている意味が…。
この世界には誕生日を祝うことはしないと思ってたけど…これは一本とられ…たな…。
「…ッ!」
あ…これやばい…マジで耐えられない…。
あぁもう…こう言う時だけ自分の涙腺が脆いのが本当に…ほん…とに…いやになるよ…。
「あり…ひっく…ッ…がとう…ごじゃいます…!」
溢れる涙が止まらない、つり上がる口が収まらない。
「どどどしようルミア!アルが泣いて…泣いて…」
「おおおおおおおおおおおおちついてあなた!」
「いや…ルミアさんこそ落ち着いてくださいよ…どうみてもアルちゃんのあれは嬉し涙でしょ」
「あらリコック、そう言う事言うのは野暮よ?親子との縁談に口出しなんて」
「アルちゃんが泣いてるぅ…どうしよぉ?ねぇパパママぁ…どうしよぉ!?」
皆俺が泣いてる事に驚いているらしい。
そう言えばこんな風に俺…子供らしく泣いたことなかった気がするなぁ…。
この世界に転生して、自分の事に忙しくて泣きわめいてる暇なんてなかったもんな。
あぁ…俺今、すげぇ幸せだ。
この世界に転生して…生まれてきて…本当に良かった。
涙を俺は押し殺し、精一杯の感謝をーー
「皆さん本当に…ありがとうございます!!!」
伝えた。
その後は、豪勢な食事と共に皆でわいわいと話して、盛り上がった。
母様の食事がいつも以上に美味しく感じ、またしても涙が出る。
皆が俺を心配してくれる…こんな優しい場所に今、俺はいる。
そしてそんな皆から、プレゼントが送られた。
まずは父様から。
「ほれアル」
「これは…短剣ですか?」
「あぁ、ただ普通の短剣じゃない」
「と言うと?」
「それは『魔剣』だ」
「『魔剣』!?」
「そしてその『魔剣』が持つ能力はお前にとっちゃ最高のもんだと思うぜ」
「どんな能力なんです?」
「【魔術付与】と言えばわかるか…?」
「…なるほど、確かに私には最高の武器の様です、では有り難く使わせて頂きます、父様ありがとうございます!」
「おう!」
次は母様。
「はい、アル」
「花の髪飾りですか、ありがとうございます!とても嬉しいです!ですが…私に似合うのでしょうか?」
「当たり前じゃない!!アルに似合わなかったら誰に似合うと言うのよ!?」
「か、母様?」
「あぁアルの困ってる表情も素敵ね~こうしちゃいられないわ!早く『アル日記』にこの収まらない気持ちを書かなきゃ!」
「ちょっと待って母様、今物凄く聞いたことあるフレーズが…って母様どちらに!?母様ーー!」
親子は似る。
次はミーニャのパパさんとママさん。
まずはミーニャママから。
すると何故かミーニャママはちょいちょいとこちらに手招きしていた。
俺が近づくと、コソコソとなにかを渡してくる。
「はい、アルちゃん。
私からはこれをあげるわ」
「ミーニャの母様、これはカボチャパンツですよね、なんで?」
「それは…ミーニャの下着よ?」
「ッ!!!………………家宝にします」
ミーニャママ、貴女は最高のママです。
お次はリコックさん。
「俺からはこれだ」
「絵本ですか、ありがとうございます!大事にしますね」
「あぁ、けどミーニャのお古ですまんな、家にはそこまで金に余裕がなく「リコックさん、貴方が神ですか?」はい…?」
まったく、ミーニャのパパママさんは最高だぜ!
そして最後はミーニャ。
「さて、ミーニャは私に何をくれるのかな?」
女神からのプレゼント、どんな物でも俺は跳び跳ねて喜ぶぜ、虫でだって喜べる自信があるね。
「う、うん…その…目瞑って?」
ミーニャはもじもじと頬を染めながら言う。
「わ、わかった…」
俺はそっと目を瞑る。
え?女神様一体どんなサプライズしてくれるの?
物によっちゃおじさん泣いちゃう可能性あるよ?
てかいつまで目を瞑ってればーー
「ッ!!!!」
俺が目を開けると、そこにはミーニャの顔が間近にあった。
理解不能なこの役立たずな頭がわかること、それは、唇に押し付けられてる柔らかく優しいプニプニな感触だ。
そして、ミーニャの顔がゆっくりと離れて行き、真っ赤に染まった顔で言った。
「アルちゃんには私の全部をあげる!」
女神の微笑みが神々しく俺の目に焼き付いたその時、俺の意識は既に天国への扉が開き、そこへ足を進ませたのだった。
この日、俺は確信した。
ーー女神は、ここにいるーー
と。
今日は『ミーニャ日記』お休みです。