11「覚悟は出来てるか?」
「ふふ~ん♪」
俺は鼻歌を歌いながら中庭で魔術の練習をしていた。
今日は俺のマイエンジェルミーニャが来るからな。
中庭待機である。
「えっと、次はこれをーー」
そこで俺は手を止める。
俺は魔術の練習をするときはかなり集中する。
だから結構周りの様子とかわかり、空気やその日の違いがわかるのだ。
今日はなんか村の方がやけに騒がしいな。
まだミーニャも来ないだろうし…。
「ちょっと行ってみるか」
俺は気になり村の方へ足を進ませた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
村の中心に行くと大人たちが集まっていた。
そこには父様もいた。
みんなの表情にはいつもの優しい顔はなく、焦りと不安が募りに募っていると言う顔だ。
俺はそのただ事じゃない様子が気になり、声をかける。
「どうしたんですか?皆さんそんな暗い顔して」
そう言葉をかけると、その中にいた父様がこちらに近寄り俺の両肩を強く「いっ」掴んだ。
少々痛みを感じながらも俺は耐え、父様を見た。
父様の顔はとても辛そうだった。
「アル…落ち着いて聞いてくれ…」
そして、父様は俺に静かに告げた。
「ミーニャちゃんがいなくなった」
は…?
「なに…いって…」
俺が混乱していると、リコックさんがこちらに近寄り顔をそらし言う。
「昨日…俺が強く叱ってしまって…ミーニャが家を出ていったっきり帰ってきてないんだ…」
「た、探索は!?」
俺が叫ぶと
「探索はもう既にした。
けど見つからなかった…」
リコックさんが説明する。
「まだ探してない場所があるはずです!」
「確かにまだ一つある…けどそれはあそこなんだ」
リコックさんが指差した先は、森だった。
「『鬼獣の森』…」
『鬼獣の森』
この森には魔獣よけの結界が貼られいる。
そのため村に魔獣の被害はない…だが、あの森は一度入ればもう出られない。
狂暴な魔獣達が徘徊していて、脱出は不可能、死に至るまで数時間はかからない。
この村にとっては恐怖の象徴と言える場所だった。
そしてそれを知った瞬間、俺は震えた。
もしミーニャがあの森に行っていたとしたら…
もし魔獣に襲われていたら…
もし…もし一人で泣いていたとしたら…
「…ッ!!」
俺の足は勝手に、一直線に、『鬼獣の森』へと駆け出していた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「うっ…ひっく…パパ…ママ…」
ミーニャは泣いていた。
もう自分の位置すらわからず、ただ大木の下で涙を流す。
「ごめん…なさい…」
何度も、何度も謝る。
誰一人とここにはいない、孤独。
それが更にミーニャの脆い心を煽った。
『アォーーン!』
「ヒッ!」
不気味な声が森中に響く。
更に不安は募る。
その時ーー
『ガルル…!』
ミーニャの目の前に、一匹の赤い狼が現れた。
「い、いや…いやぁ…こないでぇ!」
ミーニャは強く抵抗する。
だが、赤い毛を纏う狼はじりじりとミーニャによって行く。
よだれをダラダラとたらし、牙を見せる。
目は語っている。
ー食ってやるー
と。
幼いミーニャにですら、それはわかった。
それほどに、狼の目は獲物を狩る瞳を宿していたのだ。
「こわい…こわいよぉ…」
ミーニャは後ろに下がるも、木がぶつかり下がれない。
その場でへたりこみ、涙をただ流す。
あまりの恐怖に立つ勇気すらない。
「うっ…ひっく…」
涙を拭い続け、目を瞑り、掠れた声で最後に呼んだ。
「アル…ちゃん…」
『ガオオオオオオオオオオオ!!』
狼は、ミーニャに飛び掛かる。
「ミーニャから離れろおおおおおおお!」
その時、森にその声は思いっきり響いた。
声が聞こえると共に、ミーニャは目を開いた。
そこにいたのは、神々しく光る金色の髪の毛を靡かせた、騎士の姿だった。
「もう…大丈夫だよ」
「アル…ちゃん?」
アルは、ミーニャに優しく微笑むと、狼に視線を鋭く向けた。
「覚悟は出来てるか…?クソ犬ッ!!」