9「初めての友達」
はぁ…なんか男としての感覚を色々と取り戻した気がする、うん確信した。
俺絶対に女の子しか好きになれんわ、もう百合系女の子確定だわ。
俺はそんな事を思いながら母様に風属性の魔術で髪を乾かして貰っていた。
「ふわぁ~…気持ちいいですぅ…」
俺はなんともダラしない声を漏らす。
「ふふふ、アルはいつもは子供らしくない言動ばっかだけど、たまに愛らしく見えるわね」
む?それっていつもは愛らしくないと?
ふふふ…ならば父様の時には通じなかったけど、進化した俺の可愛さを見せてやる!
「ママ…たまになの?」
どうだこの上目遣い!
ふっ…これで俺の勝利は確信ーー
「アル~今更遅いわよ~?」
クソ!!ダメか!!
またの挑戦をお待ちになっていやがってくださいコンチクショー!
いつか俺の可愛さに震えるがいい。
俺がそんなリベンジを胸に秘めていると、母様は俺の頭に自分の顔を乗っけた。
「母様?」
俺が呼ぶと、母様は優しく頬笑む。
「でもまぁ、アルはいつでも可愛い私達の娘だけどね」
「…たまにじゃないんですか?」
俺が少し茶化すと
「ふふ、たまに物凄く可愛く見えるって意味よ」
こりゃ一本取られたな。
楽しい母親との会話を楽しんだ所で本題だ。
俺は今日の夜、ご飯を食べ終わった後を狙う。
自分のしたいこと…やりたいこと、それを正直に伝える。
「よし」
俺は小さく意気込んだのだった。
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「ふぅ…ありがと、母さん。
今日のご飯も最高に美味しかったよ」
「相変わらず言葉が上手なんだから貴方は」
「あはは」
「うふふ」
爆発しねぇかな、この夫婦。
おっと、危ない。
今の俺確実に母様と父様を人を殺しそうな目で見てたわ。
いや正確には童貞がリア充を睨む視線、の方が正しいか。
てか脱線したな、本題に戻ろう。
あれを言わなきゃいけない。
よし!言うぞぉ…言えぇ…言うんだ!
俺は覚悟を決めて顔を上げた。
「父様!母様!お話があります」
「「?」」
「えっと…私その…冒険者になりたいんです!!」
言った。
言っちゃったぞ。
さて、二人の反応は…って、え?
俺が顔を上げると、何故かふたりは笑みを浮かべていた。
その顔には、やっぱり、と書いてある。
「アルは昔から俺の冒険者の頃の話を聞くのが好きだったからな、もしかして、と思ってたんだ。
だから覚悟は出来てた」
「そ、それじゃ?」
「あぁ…俺と母さんは反対しない。
お前の人生だ、好きに生きなさい」
「父様…」
俺の目には涙が溜まる。
本当に…父様と母様には敵わないなぁ…。
「けどアル、冒険者ギルドに登録出来るのは十歳からなんだ」
「つまり後三年…ですか」
三年…短いようで長いな。
「だからその三年間を利用して、俺はお前に剣を教えたいと思っている」
「いいんですか!?」
剣術はずっと教わりたいと思ってたんだよなぁ…異世界来たらやっぱ剣と魔法だろ!
「あぁ、厳しく行くから覚悟しろよ?」
「はい!」
こうして、俺の三年間が始まる。
よし、んじゃ冒険者目指して本気で頑張るとしますか!
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「よし!それじゃ剣術の稽古をしましょう父様」
「あぁ!」
俺はいつも通り、中庭で父様と剣の稽古をしていると「あれは…」見覚えのある人影が走ってきた。
あれはここの村人の一人で確か父様と仲のいい、リコックさんだっけか?
すると家の前に着くと「アトリー!アトリはいるかー!?」リコックさんが父様の名前を叫ぶ。
その声音は切羽詰まっていると言う感じだ。
「どうしたんだー?リコック、そんなに汗だくで」
父様がいったん剣術の稽古を中断してリコックさんに声をかけた。
すると、リコックさんは青ざめたカオデ言う。
「大変なんだよ!俺の子が…急に倒れて…それでずっと苦しそうで…」
「なんだと?」
「それでお前なら知り合いの治癒魔術師とかいないかなと思ってきたんだ!なぁ頼む!俺の娘を…救ってくれよ!」
リコックさんは涙を流しながら言った。
それは本当に大切な物を守りたい一心と言うのが伝わってくる。
「知り合いの治癒魔術師…ねぇ…」
「ん?」
すると、父様がこちらに目を向けていた。
その顔は、もう七年間も一緒にいればわかる。
「アル、頼めるか?」
父様は俺に問う。
俺の答えなんてもんは決まってる。
「当然です」
俺は自信満々に笑った。
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「《我の名はアルトリア=シューレル、この者に精霊の祝福を、癒しの加護を》【ハイヒール】」
俺がそう唱え終わった瞬間、ベッドで寝ている栗色の髪の少女は、先程までの苦しそうな表情が嘘の様に晴れて行き、そしてーー
「ん…?」
「ミーニャ…?」
「パパ…?」
「ミーニャ!!」
ミーニャと呼ばれたその小さき少女は、父を呼ぶ。
するとリコックさんはもはや反射的に体が動いたのだろう。
自分の娘を強く、それは大事に抱き締めた。
いい父親を持ってなによりだよ。
俺はただその光景に、優しいその空間に、微笑んだ。
「父様、家族って素晴らしいですね」
「そうだな」
父様は少し泣いていた。
俺は涙腺は強い方じゃない、涙は出てたろうな。
「本当に良かった」
俺が最後にそう言って締め括ろうとすると、先程呼ばれたミーニャと言う少女はこちらに視線を向けてくる。
今思ったら、同い年くらいの子と会うの初めてだ俺…うわぁ…何か緊張する。
「貴女は?」
ミーニャが俺にそう問うと
「この子はアトリの娘の、アルちゃんだ。
お前を助けてくれたんだぞ?ちゃんとお礼を言うんだぞ」
変わりにリコックさんが俺の自己紹介をしてくれた。
すると、ミーニャは俺の方を見ながら「そうなの?」と聞いてきた。
俺は頬をポリポリとかきながら答える。
「まぁそうかな…私が助けた事になるのかな…」
と、俺が苦笑いを浮かべて答える。
「アルお前、敬語以外も使えたんだな」
なんて失礼な父様だ。
使い分けてるだけだと言うのに。
俺がムッとした表情で父様を睨むと、父様は「悪い悪い」と言って平謝り。
まだ俺はお姫様抱っこの件を忘れた訳じゃないぞ。
ま、父様との戯れもこんくらいにして。
「私の事は気軽にアルって呼んで、よろしくねミーニャちゃん!」
俺が手を伸ばし、握手を求める。
なぜかミーニャはずっと俺の手を見詰める。
「?」
俺が不思議に思っているとミーニャは突然「っ!?」俺の手を引っ張り、抱きついてきた。
「アルちゃん可愛い~しゅき~」
「え?ちょ!?」
ミーニャは俺の頬にスリスリしてくる。
ぷ、プニプニ幼女のほっぺが…ほっぺが…。
ミーニャの外見は栗色の髪を後ろに結び、とても可愛い顔をしている。
将来美少女になることは間違いない。
そう、つまり…幼女状態のミーニャは凄く可愛い…けど、俺は残念ながらロリコンではない。
つまり、ここは紳士的な対応が出来る訳だ。
「よ、よしよ~し」
俺はミーニャの頭を撫でる。
するとミーニャは猫の様に「ふにゃ~」と言うダラしない声を上げる。
顔は完全に緩みきっていた。
「あ、アルに初めての友達が…」
「み、ミーニャに初めて友達が…」
この馬鹿父様共、ちょっと失礼ですよ?
遠回しにボッチと言われている様なもんじゃねぇか!いやま、確かにこっちの世界では、はじめての友達になるのかな?
「アルちゃんだいしゅき~♡」
「わ、私もミーニャの事好きだよ」
俺は自分の精神年齢で幼女に好きと言った行為を躊躇ったが、今の俺は七歳。
大丈夫、可愛い幼女に好きと言うには問題ない歳だ。
そう、問題ないったらないのだ。
この日俺は初めて、同い年の女の子の友達が出来た。