記憶の行方
魔剤
朝飯をさっさと食べ終えて、リビングを出る。後ろからノアの声がするが無視して部屋に戻る。
私には昨日の記憶がないらしい。
いや、オリジナルの記憶はあるが、この体の持ち主の昨日の記憶がないのだ。ノアの話によると、たしか夜会に行って、婚約者の王子にふられたとのこと。
なにか記憶の手がかりがないか部屋を物色する。大きなベッドに可愛らしい人形。クローゼットのなかにはフワフワしまくっているドレスが何着かあった。
机の上をみると、なにやらカードがおいてある。
「?これは?」
「それは昨日の夜会の招待状ですね」
「あっそう」
後ろから聞こえてきたリリアの声に顔をしかめながらカードをみる。そこにはよく分からないエンブレムと、日本語ではない文字で確かに「夜会に招待する」という主旨の文章がかかれてあった。
「で?あんたはいつまで私にひっついてるの」
「お、お嬢様の正気が戻るまでですっ」
「ふ~ん………」
手に取ったカードをおいて机の引き出しを物色する。そこには、このアナスタシアが集めていたであろう小物類と、色々なものがたくさん入っている。
「まっ、その日はいつになるのやら」
「えっ?」
「……私にもわからないって言ってんのよ。」
「それは、どういう………」
「こっちが聞きたいわ。記憶がちょっと飛んでるからすこし発言がたまにおかしくなるけど気にしないで。」
「は、はぁ」
「大体死んだわけでもないのに眠ってたら意識がこの体にあるなんて……………ん?」
引き出しのなかを物色していると、なにやらガラス瓶の中にはいった粒状のものが目に留まった。
ガラス瓶を振り返らずに後ろへ放ってリリアに渡す。
「メイドさん、パス」
「えっ、わっわっわっ」
無事に受け取れたようで割れた音は聞こえない。
「それなにかわかる?」
「なんでしょう………?それにしてもキレイなガラスですね」
「メイドさんパス」
「え、はっはい」
メイドさんに渡したガラス瓶を投げ返してもらう。
「しっかしほんとこれなんなんだかなぁ」
私はそのガラス瓶をじっとみていると、頭に少し痛みが走る。顔を歪める。すると、頭のなかに声が聞こえてきた。
━━━━━━━━━━鑑定。
「…………っは?」
それは、誰がどう聞いても、聞き飽きた自分の声であった。
ドリアク草の抽出物体
品質C
ドリアク草の成分を抽出し、それを凝固させたもの。純度30パーセント。致死量3錠。
効果
記憶の損失、自我の混濁、目眩、吐き気、死亡
目の前にいきなり何かが現れた。その説明文らしきものは宙に浮いており、ガラス瓶を矢印で示している。
「ドリアク草……?」
「ドリアク草ですって!?」
メイドさんが私に詰め寄った。
「本当にそれはドリアク草なんですか!?」
「え、まぁ、そうかいてあるしな……」
「な、なんでお嬢様はそんなものを持ってるんですか!どどど毒薬ですよ!?一粒飲めば死に至ると言われている即効性の劇薬ですよ!?」
なるほど。どうやらこれは有名なクスリらしかった。品質Cというのをみる限り、これはドリアク草の中でも質の悪いものらしく。普通は一粒飲めば死ぬものが、これは三粒飲まないと死なないくらい不純物が混じっているらしい。
「なるほどね………」
恐らく彼女はこれを飲んだのだろう。王子に婚約破棄されたショックで自殺でもしようとしたのだろうか。多分彼女は、自ら一粒だけ飲んで、それで死んだと思い込んでショックで気絶したのだろうと推測される。この説明が現れるまでこれが品質の悪いものだなんてわからなかったしな。一粒で死ねるとでも思ったのだろう。
しかし、フラれたぐらいで死のうとするとは、アナスタシアはそんなにも王子のことを思っていたのだろうか。
「なぁ」
「と、とりあえずクラウドさんに伝えて、奥さまと領主様に知らせなければ………!あぁっでもクラウドさんは用事でさっき出て…………」
「なぁ!」
「はいぃぃ!?」
なにやらぶつくさ言っていたリリアを大声を出して強制的に気づかせる。
「ちょっと変な質問するけど答えてくれ」
「は、はい。なんでしょう」
「私は王子を愛していたのか?」
リリアは私の質問を聞いて顔を歪める。
「なぜそんな質問をするのかわかりませんが……」
一拍おいたあと、リリアは答えた。
「お嬢様は王子のことを愛してなどおりませんでした」
「政略結婚ねぇ…………」
「はい、それも今代の王直々の御願いにより、この婚約は成されました。」
アナスタシアは6歳の頃に王のたっての御願いにより第一王子と婚約。王の御願いって実質命令だと思うんだけどそこんとこどうなの。
「命令という感じではなく、あくまでも御願いでした。領主様と陛下は旧知の仲だったそうで。」
「で、なんで私と王子は上手くいってなかったの。愛がなかったからとかじゃないだろ。私は一応王子に尽くしていたはずだよな」
机のしたにあった鞄のなかには、なにやらよく分からないが資料のようなものが入っていた。これは、先程机を物色していたときに見つけたものだ。
どうみても仕事用の資料だと分かる。しかもこの領地以外のものもある。これは多分……………
「はい。お嬢様は王子に尽くしていました。王子の婚約者として。自ら王子の仕事を丸々受け持っていて、この部屋で仕事を夜遅くまでこなしていたこともあります。」
愛がなくとも王子に尽くした。尽くしていれば、いづれ愛情が沸くとでもおもったのか。それとも、ただ単に王子に仕事を押し付けられていただけだったのか。
「それで?なんで私王子に婚約破棄なんてされたの?そんな要因どこにもないでしょ」
「それが…………」
「ある時期から、お嬢様のある噂がながれ始めたのです。」
まあ見ればわかると思うけどメイドさんは薄々気づいてます。あり得ないとも思ってますが