公爵令嬢鈴谷茜爆誕!②
誤字脱字報告ほしい
「お嬢様!?なにをやってるんですか!?」
メイドの人が私に言う。ええと
「…………わたしにいってるのか?」
「あ、当たり前じゃないですかっ!ほ、他に誰がいるというんです!」
怒ってるのか焦ってるのかよくわからない顔で私に叫ぶメイドさん。……………少し状況を整理してみよう。私のことをお嬢様呼ばわりするので自分に腕をきめられているジジイ。メイド服を着ている知らない女の人。みたこともない部屋の内装。そして
「なんだこれ」
金髪になっていた。私は銀髪だったはずだが。というか服も違う。
「どういうことだ……」
私はジジイの拘束を解いて立ち上がる。部屋に姿見があったのでそれの前に立った。
映ったのは当然私だった。整った目と鼻と口を備えた顔。カラコンをいれたかのような碧眼。
いつもと違うのは、この髪の色と、フワフワのキラッキラの可愛らしい過ぎて今にも吐きそうなほどに悪趣味なパジャマだけだった。
「………メイドさん」
「は、はい、なんでしょう」
「ここどこ」
「ええと、お嬢様の家でございますが……」
そんなわけないだろう。私はこんな部屋初めてだし、ジジイもメイドさんも初見である。今まで殴った奴の顔のなかにも彼らの顔は入っていない。
「ジジイ、あんたの名前は何」
「ク、クラウドですがそれが何か……」
「メイドさんは?」
「メ、メイド?私なら、リリアですけれど……」
やはり本来なら聞いたことない名前であったし、横文字の名前であった。私はカーテンがかかっている窓に近づいた。カーテンを思いきり外し、窓を全力で開ける。
風で髪が靡いた。
目の前に広がる見たことのない光景。
「…………で?私の名前は?」
目の前に広がるまたしても見たことのない光景に絶望しながら、返答を待った。
「「アナスタシア=イシュタルお嬢様でございます」」
どうやら私はお嬢様らしい。
★★★★★★★
「まぁ、なんとなく察しはついたけどね」
「そ、それはそうと、今日は髪を梳かさないので……?」
「んなかったりぃこと飯のあとでいいだろうよ」
「は、はぁ」
実はというと、起きてから徐々に頭が覚醒していくと何らかの記憶らしきものが脳内に浮かんできたのだ。私は異世界で覚醒した。この体の持ち主は、ここの領地の土地神の血筋で、尚且つ公爵令嬢であるらしい。クソみたいな組み合わせの名前も、異世界であるというのなら説明がつく。(つかない)
(ほんっと、どういうことなんだか………)
私は起きる前まで確かに『私』であったはずなのだ。なのにどういうわけか、いまは頭のなかに二つの記憶が混在している。幸い混乱したりする気配はいまのところないが、注意しておくに越したことはないはずだ。
「お、お嬢様、どこにいかれるのです?」
「あぁ?」
「ひっ」
気づくとメイドさん、もといリリアを追い越してた。
「あぁ、そういやそこだったな。リビング」
「は、はい」
リリアは扉を開けて私を促した。要するに入れってことだろう。今が朝の何時なんだかしらないが、腹が減っては戦はできぬとかなんとかそんな格言があった気がしないでもないのでリビングへと入る。
「おはようございます、お姉さ、ま……………?」
入って早々声をかけてきた自分より一回りほど小さな少女。それは二つ目の記憶が確かならば、自分の妹であるノア=イシュタルであった。
「ん、おはよぅ」
私は席に座る。テーブルにはすでに朝飯が並んでいた。よく分からない野菜とよく分からない果物とよく分からないスープとよく分からないジャムもどき………。よくわからないもので埋め尽くされていた。
そんななかでただひとつ知っていたパンのみが唯一の救いであった。
パンを手に取り口に運ぶ。ん。ちゃんとパンだな。……………ちゃんとパンってなんだろう。
「ん、なに。食わんの?」
「えっ、あっ………」
ふと顔をあげると妹であるノアは、私を見つめて固まっていた。
「はよ食わんと冷めるよ」
「あっ、はい………」
ノアはおどおどしながら対面席に座る。そしてジャムもどきを手に取りパンに塗る。……………それ旨いのか? ちょっと使ってみるか。
「あ、あのっ」
「あん?」
ジャムもどきをパンに塗る。それを口に運ぶと酸味のある爽やかな味が口に広がった。意外と旨いんだな、これ。このぶんだとスープとかも意外に旨いのかもしれねぇな。
「お、お姉様……ですよね?」
「まぁ、半分?」
「え?」
「いんや、こっちのはなし」
スズッとスープを啜る。普通にスープでだった。野菜も普通に野菜であったし、ドレッシングも普通に食べれるレベルのものであった。
「や、やっぱり、昨日のことですよね…………」
「昨日?」
「お姉さまはなにも悪くありませんっ!」
「はぁ。どうも」
ノアが昨日あったらしいことを語りだす。なんでも、昨日私は夜会に呼ばれていて、そこで婚約者である王子に婚約破棄されたらしい。しかし……そんな記憶ない。私のではない記憶の中に、それに該当する記憶はいっさいなかった。
「悪いのはあの平民の娘ですっ!やってもいないことをお姉さまに押し付け、あげくの果てには『私は王子と相思相愛だから♥』とかなんとか言いやがったんですよ!?あの平民のもあれですけど王子の頭もありえませんよね!?」
「う、うん」
その日の朝は妹の「お姉さまはなにも悪くありません」談義で潰れていった。