ベヒーモス
焼肉は次回です……
本当すみません
微ギャグ回
途中でズボンもスキルで作り出した着慣れたジーパンに着替えた彼女は、気の済むまでトレーニングをした。
2時間ほどのトレーニングを終えて、重力を解除する。ここが宇宙なのではないかと錯覚するほどの体の軽さに驚愕した彼女。
膝に両手をつく。
ボタボタと、乱れた髪から水が落ちていく。水が飲みたい。震える右手を虚空に突き出して『売買』。
金を消費してスキルが発動され、アクエリ◯◯が手に収まる。売買は、物を何かしら価値のあるものと交換するスキルだ。
レートは謎だが、一応価値のあるものならばそれ相応の値段のものと取引ができる。多分アナスタシアの所持金の銭貨が数枚消えた。
右手にあるそれを、彼女は一気に飲み干す。
「ふぅ………なぁ」
(あら、終わりましたの?)
「終わりましたのってお前、何してたんだ」
(あなたの世界の映画を見ていたのですわ)
「映画だあ?」
曰く、仮神格の機能の一つであるあらゆる情報にアクセスできる権限。それにより、暇であるから茜の故郷の情報をのぞいて見たところ、映画というものに興味を持った、と。
私が汗水垂らしてトレーニングしていたのにてめぇはのんびり映画を見ていたと?えぇ?」
(そもそも、この世界に来て初日で筋トレをしだすこと自体が頭おかしいのですわ。神に会ったり、冒険者を気絶させてしまったりしたのですから、1日くらいおとなしくするのが普通なのではないかしら?)
そう、ここまで色々あったが、この世界で覚醒してからまだ10時間も経ってないのである。
「んなことはどうでもいいだろ。それより外出るから道案内よろしく」
(あなたの人となりがなんとなくわかって来た気がしましたわ………で、どこに行きたいのですか?)
「そうだな……とりあえず塀の外に出たいな」
城とその周りの城下町があるここは、魔物が攻めて来たときのために金属でできた厚さ50センチ、高さ20メートルほどの巨大な壁が町を覆っている。
壁に使われている金属は『聖別』されているため、魔物以外の邪悪なものを振り払う効果もあるのだ。
(なら、まずエントランスを出て右ですわね)
「よっしゃ、右だな!」
そう言って彼女は窓を開け放ち、そこから勢いよく飛び出した。
(め、目立ちたくないのではなかったのですか!?!?)
「めんどい!」
(あなたという人はああああああぁぁあ!)
これなら王子の相手の方が格段にましであったかのような気がしてならない。茜はアナスタシアに、ノリと勢いで生きる人、という某パスタの戦車道高校のような評価を下されるのであった。
「うおっ!?」
「なんだなんだ!?」
「きゃ!?」
人を避けながら走り去っていく。
「いやっほーう!」
(もう知りませんわ……そこを左ですわ)
「もういいや方角教えてくれ!」
(……ここから南南東ですわ)
「よしきた!」
タンっ!と地面を一蹴り、人様の家やら店やらの屋根を駆け抜けていく。アナスタシアは止めることは諦めて、もはやおなじみ、風魔法で光学的に茜の姿を消した。
「ママー、何あれ?」
「どれ?」
「あれー?」
「なんだ、やけにエロい格好の女が屋根の上にいた気が……」
「お前教会で頭と目の治療受けた方がいいぞ」
しかし、高速で動く茜により、魔法も所々歪み、見えたり見えなかったりを繰り返していた。
「あれか!」
パッと下を見ると、検問待ちの行列。並ぶという選択肢を即座にめんどくさいと一蹴した彼女は、そのままの勢いで20メートルの壁を駆け上がる。
今や茜の体は1gの重力に逆らうなど屁にも及ばぬ負担なのであった。
しかし、なぜトレーニング直後の彼女がここまで動けるのか、その答えはステータスにあった。
アナスタシア=イシュタル(鈴谷茜)LV5
ATK9999999 DEF9999999
VIT9999999 INT9999999
MAT9999999 MDF9999999
AGL9999999(+999999999)
LUK-
状態異常
疲労S (完全回復するまで能力値が10分の1にまで低下。特定の栄養素を取り、休息をとると成長する可能性大)
高揚S (本来のステータスより徐々に能力値が上乗せされていく状態。疲労も徐々に悪化していく)
つまり、疲労でステータスが低下している状態なのだが、高揚によりステータスが上がっている状態なのである。
そして、彼女は無事に壁の外へと出ることができた。
外に出た彼女はどんどんスピードを増して走っていく。目が開きづらくなると風魔法でプロテクトした。
そうこうしていると、いつのまにかSランクモンスターが跋扈する、通称「死の山」へとたどり着いた。
死の山、とは。
ここらでは有名な山の名である。
曰く入ってしまうと迷って出れない。モンスターに食べられる。龍やフェンリルが住んでいるなんて噂もある。
「いうこと聞かないと死の山に放り込むわよ」なんて子供に躾ける時にも使われたりするほどだ。
好んでここに来る人間は皆無である。
しかしそんなことなど意に介さず、どんどんどんどん登っていく。
すると
「おっ?」
「…………!」
「……!?」
「………!!」
数十キロ先から声が聞こえた。
「アナスタシア、わかるか?」
(えぇと……はい、このままいくと、少しひらけた場所に出るらしいのですが、今冒険者がモンスターと交戦中らしいですわね)
「モンスターは?」
(Sランクモンスターのベヒーモスですわ)
ベヒーモス。フェンリルや龍と並ぶ、Sランクモンスター。ギルドが害獣認定しているモンスターでもある。
その肉と素材は高値で取引される。アナスタシア調べ。
(ここで颯爽と現れてベヒーモスを討伐……まさにヒーローですわね!)
「厨二病かってんだ」
(なんとでも言ってくださいまし。あと少しですわ)
「はいよっ」
前方に向いていたエネルギーを上方へ変換。そのまま飛び上がってその全体を俯瞰した。視認。女女女男の典型的ハーレムパーティ。うち二人は奴隷だろうか?首輪がついている。
対峙しているのはアナスタシアの言う通りベヒーモス。
まだこちらにはどちらも気づいていない。
「アナスタシア、銃」
(どうぞ)
手元に現れる『パゴダ傘・UVカット=魔法陣付与=概念銃』。照準をベヒーモスの頭部へ。右手で引き金に触れ、左手を本体の下へ。20のうちの1、爆裂術式起動。
(ファイアー!ですわ!)
とてつもない音と衝撃で空間を振動させる。茜は空中にいたため、その反動をもろに受ける。右手が跳ね上がるが、その瞬間スイッチを入れる。バサッと言う音とともに傘が開いた。
ふわふわと浮きながら地面に着地。
「き、きみは!?」
「話はあとだろうが」
男の方を一瞥し、ベヒーモスの方へ視線を向ける。その頭部は、爆裂術式により、爆ぜて中身が飛び散っていた。
「やったか?」
(まだですわね)
「マージかよ」
言う通り、その巨体が動き出す。頭を飛ばしても死なない生き物などどう殺せばいいのだ。鑑定。
ベヒーモス LV2584
ATK258600 DEF899872
VIT99999 INT24
MAT0 MDF7899993
AGL352890
LUK30
skill
魔核 突進AA 危機察知E 再生AA
これか
魔核 核が本体。魔力を消費し、体を再生する。
「無駄だ!あいつは体の中心にある核を潰さない限り再生する!」
「ふーん」
「とにかく助かった!君も今のうちに逃げるんだ!あいつが再生するまで5分くらいはある!」
しかし、ベヒーモスはなんと既に再生を終えていた。
「な!?早すぎる!?」
おそらくスキルによる補正だろう。そう考えながら、叫ぶ男を尻目に銃を投げ捨てる。『パゴダ傘・UVカット=魔法陣付与=概念銃』は、魔力の光となって霧散して消えていった。
「やっぱ日本人ならこっちかな」
茜の手には概念之速=刀。何もかもが地味。見た目も西洋剣より柔そうであるが、見た目に反して極めて丈夫。
「お、おい!やる気か!?無茶だ!」
「少し黙ってろや」
右足で砂をかき、グリップを確かめる。そして、次の瞬間音を置いて突撃していった。地面にはヒビ、後ろはその反動で突風。そんな馬鹿げた威力で地面を蹴りだした初速は凄まじく。
「grrrrrrRRRRRRrrAAA!!!」
「一つのステータスも種族値上限到達してない奴がオレに敵うわけねぇだろうがああああ!!」
(オレ!?)
そのままベヒーモスを真っ二つに斬り伏せたのであった。
次回は必ず焼肉!!
そして誤字脱字報告求む




