ギルドにて②
少なーい!!
「おい、起きろって!おい!」
(え、なにがどうなっているんですの????)
突如倒れてしまった彼らの中から一人、一番近いエルフ?っぽい綺麗な人をひっぱたく。
ぺちぺち
ぺちぺち
ぺちぺちぺちぺち
「だめだ、起きねぇ………」
(起きませんね…)
「…………」
無遠慮に視線に晒された彼女が放った行動で、このフロアにいる人間が全て気絶させてしまうという大惨事が発生。
これを第三者がみれば自分が悪者にされてしまう。なんとか人が来る前にこれをどうにかしないといけない、という思考に彼女は駆られていた。
(ああああああ!!このままでは『王子に婚約破棄された美少女、八つ当たりでギルドを壊滅させる!?』とかいう記事で夕刊は号外売り切れ確定ですわあああ!!??)
「おいおいおい!?冗談じゃねぇ、どうするどうする!?」
そもそもこれは故意ではなく事故であるため、100パーセント彼女が悪いとはならないし、まずもって今彼女は鎧を着ているため正体はバレない。人に見られたとしても説明すればいいだけなのだが、茜は半ばパニックになっていたため、もう誤魔化すか逃げるかしか考えていなかった。
鎧を脱いで自分も倒れる、という選択肢すら思い浮かばないほどに混乱していた。
そこで、自分と一緒にいた侍女の存在を思い出す。
(そうよ!リリアに事後処理の方法を聞けばいいのよ!)
「そ、そうか!なぁ、リリア」
「………」
「これ、どうしよう」
「………」
「お、おい?どうした?」
「………」
そして茜は気づいた。
半ば閉ざされかけて、黒目が見えない目。ピクリとも反応しない体。
きわめつけは中途半端に開かれてい口。
「こ、こいつ……!気絶してやがる……!」
(わ、私の二度目の人生は、これから獄中で過ごすことになるのですね………終わりましたわ……)
そして、事態はさらに悪化する。
突如、受付の奥の扉が蹴破られたのだ。バン!という破裂音に茜はびっくりするが、そんなことなど知ったことではない、と二人の男女が飛び出してきたのだ。
「侍女と鎧……?」
「そのようです」
二人は明らかにこちらを警戒しているのがわかる。現に視線は一回周りを見てからは、一度も視線を外していない。
男は剣、女は杖を持っており、その先をこちらは向けていた。
「………で?おたくらは一体なんだってこんなことをしたんだ?」
「場合によっては騎士団につき出さねばなりませんが」
ジリジリと間合いを詰めながら言葉を投げかける二人。
その圧迫感は、あちらの世界で警察に詰め寄られた時の記憶を茜の脳に想起させるには充分すぎた。
「……わ」
「「……わ?」」
「……私は悪くねぇぇぇぇえええええええぇえ!!」
目には目を、歯には歯を的な考えでないことは確かだろうが、彼女は入り口の扉を蹴破って、人目も気にせずに逃げ出した。
もちろん、侍女のリリアを掴んで引っ張っていったのはいうまでもない。
☆☆☆☆☆☆☆
気絶した大量の冒険者と、ギルドマスターとその副マスターの二人だけが取り残されたギルド。
「………なんだぁ?今のは」
「さ、さぁ……とりあえずこの人たち起こして、事情聴取をせねばなりません。幸い、死んでいる人はいないようですし」
そう言って一人一人に魔法をかけ始めたソーニャ。
「マスターは、扉でも直しておいてください」
「えぇ?めんどくせぇなぁ…」
「マスター?遅刻のこと、忘れてないですよね?」
「わ、わかったっての…」
そうして、先ほどのことなどなかったかのように喧騒を取り戻していくギルドだった。
「それにしても『わたし』か………女だったのか?」
そして初っ端バレそうな茜であった。
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