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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
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そのキャンバスに

  ***そのキャンバスに***


 *白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように*




  偶然だった。いくらこの街に来ていたとしても、確率がどれだけ高くなったのか。そんなのびびたるものだ。

 それなのに、僕は沙織と出会ってしまった。


 沙織は元気そうだった。相変わらず綺麗で優しく、無邪気で……


 沙織が僕から本を受け取るとき、少し指が触れた

 どれだけ、そのまま手を取りその場で沙織を抱きしめたかったか。


 今、さっき沙織は僕の視界から消えた。


 沙織は元気そうだった。


-----


 僕は自分の家にそのまま戻った。何とも言えないもどかしい想いと自分に動くなと、自分からは動くなとそう言い聞かせながら。


 僕は、有田優子のところで小説を書いていた。その間、出版した本は九点。どれもその内容には、沙織への道しるべがあり、いつしかそれが主軸の物語になりつつあった。


 おかげさまでファンも多く着き、何とか作家として贅沢は出来ないが暮らしていける目途は立っていた。


 結局大学は1年間休学し、みんなとは1年遅れで何とか単位を取得できた。


 そして優子のところを出るとき


 「ああ、あ。あなたがこんなに早く私のところから巣立つとは思ってもいなかったわ」


 「そんなことないよ。僕は優子に随分と世話になったよ」


 「そっかぁ。でも、いつでも私のところに戻ってきていいのよ」


 「おいおい、出て行きにくいじゃないか」


 「そうよ。こんなんだったら、子供作っておくべきだったわ。いろいろトライしたんだけどね」


 「え、ほんと。まじで……」


 「ええ、あれに穴開けて置いたり、わざと危ない時にそう仕向けて。でも出来なかったね。子供」


 優子は残念そうに言う。


 「俺はこんな時なんて答えればいいんだろうな、優子」


 優子はふんっとして


 「慰めなんかいらない。あなたが頑張ってくれればそれでいい」と意地を張るように言い放つ。それが元の自分であるかの様に。


 「解ったよ。だから泣くな。たまにここにも来るし、俺んところにも気兼ねなく来いよ」


 「そんなの当たり前よ」と言いながらソファのクッションを僕に投げつける。


 このまま居たらきっと出れなくなる「それじゃ」と言って優子のところを後にした。



 僕はあの大きな街には帰らなかった。少しでも静かで、それでいて木々があって、近くに海があるそんな土地に今住んでいる。


小さいが一戸建ての住所。まあ、賃貸ではあるが落ち着いて執筆が出来るこの土地、この家を気に入っている。



 そんな時、僕と優子のところに招待状が届いた。



 差出人は美野里、彼女から送られてきた招待状は自分の結婚式の招待状だった。



 美野里はあれからどういう経路をたどってそうなったかは分からないが、なんと若き外科医と結婚することになった。


 もちろん美野里の障害を知っての事、全てを納得の上結婚するのだと、一緒に来た美野里の手紙に会った。


 それと、出欠の欄には必ず出席にしろと、例え欠席と書いて返信しても認めないとそう書いてあった。



 強引なところは変わっていない様だ。


 もちろん、僕も優子も出席として返信してやった。


 美野里の結婚式に出席した僕は、優子の実母でもある、榊枝都菜と会うことが出来た。


 初めて出会った榊枝都菜は、僕が想像していた通りおおらかで優しく、いつも遠くの方を見ているような、それでいて物凄く鮮明で好奇心旺盛な人だった。


 彼女からも僕の小説や、ある雑誌に掲載する連載小説を読んでいると言って


 「あなたの物語っていつも何かを投げかけているのね」と、あの道しるべを感じ取ってくれていた。多分それが読み手に取っていいものに伝わっているのだと。


 でも一言「いつまであなたはその道しるべを書くつもり」と訊かれ、多分一生と答えた。


 「でも、もしそれが途中で終わるのなら、その後のあなたはまた大きく変わるはずでしょう」と、僕の未来を予想するかの様に言った。


 美野里とは結婚式当日式の中で、綺麗にそして厳かに着飾った美野里を見たのが最初だった。


 式も終盤に差し掛かり、いきなり僕にお祝いの言葉を言えと司会者が何の断りも無しにマイクを通し言った。

 僕はもちろん断ったが


 「さてお次は新婦のご友人……いや初恋の彼。そして今や人気のあの作家、亜咲達哉さんです。どうぞ」と紹介までされてしまった。


 本当に人前で話す事は苦手だ。何を話したかは未だ覚えていない。ただ、優子が腹を抱えて笑っていた事だけは覚えている。


 お祝いの言葉と言うか分からないが、一通り終わって席に戻ろうとした時、美野里がいきなり立ち上がり、新郎に確認するように頷き、高砂をおり僕の前に来た。



 そして、僕の手を取り僕の顔を見て




 「達哉、ありがとう」と美野里の口から、美野里の声が……聞こえた。普通に、なんでもなく普通に話す様に声が、美野里の声が聞こえてきた。




 「み、美野里」そう叫んで美野里を抱きしめてしまった。結婚式で、新郎もいるのに。


 これは美野里がセッティングしたサプライズだった。


 美野里は北海道に行ってから系列の大学病院で声が出せると診断された。彼とはその大学病院で知り合ったそうだ。研修医として美野里を一緒に担当し、手術をして一緒にリハビリをして、今ようやくここまで話せるようになったんだと。



 美野里のサプライズは大成功した。会場から割れんばかりの拍手と目頭を押させる人々が皆暖かく祝福してくれた。


 美野里とその彼。そして僕に……


 僕らが帰るとき美野里が、まだ長く続けて話せないが、また会えることを願い頑張ると言ってくれた。


 美野里はもう立派に自分の道を歩いている。共に寄り添う人と共に。美野里は人生と言う中でこれからの幸せを掴んだんだと思った。



 そして、僕は心にまた誓った。


 僕は小説を書く。物語を書く。沙織に道しるべを残しながら僕はえがくあの思い出を。

 綺麗に張り替えたキャンバスに。


 白くなったキャンバスに僕は描く。


 沙織との思い出を……これからも……


                  

ここまでお読み戴、またお付き合い戴、誠にありがとうございます。


この後続き、実は執筆しています。

 

折を見て投稿いたします。……これで最後です。3ストーリーです。

失われた記憶はもう二度と戻らない。でも、想いは……


配信は、9月22日20時・21時・22時で最終になります。


「白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように」

また二人が描かれますように……

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