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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
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失ったもの***あれから3年後


 ***失ったもの*** 

    **あれから3年後***

 

 「いやぁ先生。今日は暑い中サイン会にご出席いただいて、誠にありがとうございました」

 

 編集部担当の中田真由美なかた まゆみが礼を言う。話し方はどことなく叔父さん臭いが、彼女はまだ二十代前半のうら若き乙女であることは確かだ。それはその容姿を一目見ればわかる。


ただ話し方がと言うか、まあ特徴がある。彼女が相手をする人たちがそうだからかもしれない。


 僕は編集社の主催するサイン会に駆り出され、その帰りにこの町に寄った。


 およそ3年と少しぶりにこの町に足を運んだ。


 以前、僕がバイトしていたカフェはもうその建物もない。区画整理により移転を余技なくされた。もっともあの場所よりいい場所に移転したようだ。


 そこにいた恵梨佳さんと支配人は、すでに結婚をして恵梨佳さんはなんと双子のお母さんになっている。


あの支配人、今では恵梨佳さんの旦那であるが、あれから独立をして自分が求めるカフェを追求し今では名の知れた、雑誌などにも紹介されるほどのお店のオーナーとして頑張っている。


 僕の親友、宮村孝之は大学を卒業後、ある大手商社に入社したが、昨年そこを退社した。今は自分で事業を起こしそれなりに成功しているようだ。宮村が会社を退社した事には訳もあった。


 宮村が大学4年になる2か月前、愛奈ちゃんは元気な男の子を産んだ。その時の宮村は手の付けられないほど喜んでいた。


 出産後愛奈ちゃんは少しの間、薬の量が増えたが、今は落ち着いている。


そして昨年なんとこちらも双子の赤ちゃんを授かっていた。宮村もやるが、それ以上に愛奈ちゃんがもっと子供がほしいとせがんだらしい。


今ではあの愛奈ちゃんもたくましい、と言う訳でもないがちゃんと暴れん坊の長男と、生まれて間もない長女と次女に囲まれて幸せに暮らしている。


 だから、時間が取れるよう宮村は商社をやめたのだ。あいつらしい選択だ。



 僕は今、作家として活動している。



 あの時、最優秀賞に選ばれ作家としての道が見え始めていた。


 ついこの間まで僕は有田優子のところで彼女の「弟子」かどうかは判断に困るが彼女の執筆の手伝いをしたり、日常の……世話と言うのだろうか。逆に僕の方が随分と彼女に世話になっていると思う。


 それも彼女の想いからなる事は十分に僕は感じ取っている。


 僕が彼女と一緒に作家への活動を始めて間もなく、優子はあのマンションから、海と山が望める小さな町に引っ越した。もちろん僕も一緒に行くと言う条件で……


 「そろそろここも契約更新だし、この景色も飽きちゃった」と言ってはいたが、僕への配慮である事は言うまでもなかった。


 新しい環境で僕は、自分の物語を彼女の暗黙の指導のなか、執筆をさせてもらった。


 彼女の実母。そして作家である「榊枝都菜」は彼女に手紙を送りつつも、その中に僕の事もねぎらいそして励ましてくれた。


 そして美野里もその彼女、榊枝都菜の元で自分の小説を書きながら頑張っていた。


 美野里も僕が優子と一緒にいることを知り、「いっその事子供でも作ったら」なんて茶化していた。でも僕のあの……あの今も鮮明に残る記憶に美野里らしく言ってくれた事だと思っている。


 そんな美野里もようやく日の目を見た。


 美野里の作品が、かの有名な大賞に選ばれたからだ。



 美野里の作品 「私に声をくれた人」


 このタイトルを見て、美野里が今でも僕の事を思ってくれている事が感じられた。


 でもその内容は、あの時図書館で僕が黙ってみた彼女の小説を主軸に彼女の気持ちの変化を映した物語だった。

 僕と目ではなく想いの中で出会い愛しそして別れた。


その時の主人公の気持ちを、美野里の気持ちを多分素直に表したものだと思う。


 それはようやく美野里が、僕と言う心の想いから卒業できたことを報告していた様だった。



 「私に声をくれた人」第○○回○○○賞受賞 冨喜摩 美野里 


 彼女の物語に付けられたキャプションは


 「初めて出した彼女の声は 天使の囁きだった」


 まさにその通りだと思った。

 

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