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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
20/27

last White Christmas***

  ***last White Christmas***




 僕らは思いで創りをした。いっぱいの。沢山の二人の思いでと言う記憶を。






 僕は沙織と出会う事が出来て、本当に良かったと心から感じている。


 偶然が引き起こした人との出会い。


 運命という悪戯が引き起こした出会いと切っ掛け。


 今思えば、こうして沙織と一緒にいられるのは美野里のおかげかもしれない。


 美野里は僕から沢山のものを貰ったと言っていた。でもそれよりももっと沢山の事を僕にくれたのは美野里の方だ。僕はそれにようやく気付いた。


 「あ、達哉さん、先にお風呂入っちゃって。お夕食もうちょっとかかるから」


 キッチンに居るお母さんが僕に告げる。


 「はい、分かりました。今日はお父さんは」


 「今日は定例の飲み会。あの人ね、大学時代の人達と毎月日を決めて飲みに行ってるのよ」


 「いいですね。ずっと続いてて」


 「そうね。あの人だからね。さ、沙織あなたも手伝って」


 「はぁい」少し面倒くさそうに沙織は言う。でも


 「達哉ぁ、先にお風呂入ってて、その次私はいるから」


 「解ったよ」「うん。お風呂上がったら一緒に飲も。お父さんだけ飲んでるなんてずるいじゃない」


 「ああ、それじゃ先に入ってくる」


 暖かい湯が体に染みる。


 もう12月になる夕暮れの外は寒さを増すばかりだ。


 冷えきった体には風呂が一番温まる。体も心も。


 そう言えば、12月にはクリスマスと言うイベントがある。


 何か沙織にプレゼントしたいな。そんな思いが心を揺さぶる。


 まだ、12月の始め。街はその季節の表し方を悩んでいる。でも、もう少しすれば、街の夜は幻想的で華やかでそれでいてもの悲しいイルミネーションが街行く人々に、あのイベントがもう間近かであることを告げさせる。


 僕と沙織はどんなクリスマスを送るのかな。にやけながらも心のどこかに寂しさを感じていた。


 ガラッ。風呂の扉が開いた。


 「達哉、まだ上がんない」「ああ、ごめんもう少しで上がるよ」沙織はふうんとして「私も入っちゃお」と言って服を脱ぎだした。



 「おい沙織、お母さんもいるぞ。それに佑太だって」


 沙織は平然としながら裸になり


 「佑太なら大丈夫。さっき電話していたから。多分彼女ね、あと30分は電話しているわよ」


 「ハハハ、彼女だったらそんくらいかかかるだろう」


 沙織は湯船にある湯をすくい体にかけた


 「熱い」と言いながら


 「それにね。お母さんがあなたも早く入っておいでって」


 「まいったな」


 「いいじゃない私たちは親公認以上なんだから」


 そう言って湯船につかる僕にキスをした。


 そして濡れたた沙織の体が、ゆっくりと湯船に落ちていく。


 僕は沙織を後ろから抱く様に一緒に湯船の中で湯に浸かった。


 「なぁ、沙織」「うん。なあに達哉」


 「もうすぐクリスマスだろ。沙織プレゼント何がいい」


 僕は沙織にほしいものを訊いてみた。



 うーんと考えていたが。ぼっそりと「赤ちゃん」と答えた。



 「ええ、まだ早いよ。それに……」「それに」と沙織は返したが。


 「でも駄目よね。赤ちゃんがいたら、私その子の事解らなくなりそうだから。自分が生んだのに、どこの子なんて言いそうだから」「そうか」


 「でもね、そうなれば達哉の事は覚えていられるかもしれないね」


 「どうかな」「どうして」


 「俺の子だろ。お前はその子と俺を一つに想うだろうからな。別々じゃなく一つに。そうなれば、俺らお前の一番大切な思い出になっちまう。二人ともお前からは消えちゃうだろうからな」


 二人の間に少しの時間が流れる。そして


 「そうかもね」と言って後ろを向いて微笑んだ。


 「おれ、上がるね」うん。と少し寂しげに返事をする。


 風呂から上がり居間に行くと佑太が、キッチンのテーブルで夕飯をがついでいた。


 「あれ、もう上がってきたのか達哉さん。もっとゆっくり入ってりゃいいのによ。姉貴とよ」そんな佑太に僕はぼっそりと


 「佑太、彼女との電話今日は短いじゃないか」と負けじと返してやった。


 佑太はみるみる顔を赤くして、そんなんじゃねぇよ。と言って、急いでご飯を駆け込みニタニタしながら2階の自分の部屋に戻っていった。


 「あの子ったら」と言って、僕に「飲むでしょ」とお母さんがビールを出したが


 「沙織と一緒に」と言った。


 「そう」と言いながらも「今日は私も混ぜてね」と、にこっとして僕に言った。


 「あーいいお風呂だった。お母さんビールビール」とすぐに冷蔵庫に向かうと


 「どこがいいでしょうね。こんな叔父さんみたいな子の」と呆れるようにお母さんは、自分の娘に言い放つ。


 「叔父さんで悪いですね。お母さま」と皮肉っぽく沙織は返した。でもその顔は幸せそうだった。


 3人でビールを飲んでいる時


 「ねぇ、あなた達早く子供作りなさいよ。証拠として」


 やっぱり親子だと思った。


 「もう、さっき達哉とも話していたのに」


 「あら、そうなの」


 「そうよ、でもね子供が出来たら私、その子と達哉一緒に私の一番大切な想いになるから、そうなれば二人とも私消しちゃいそうだからダメなの」


 そう言って沙織は臆することなく言う。


 「あらそれじゃ、私が生んであげるわよ。達哉さんの子。そうすれば、沙織と兄弟になるじゃない」


 「ちょっと、私と年離れすぎていない。兄弟なんて」


 「いいじゃない。それにまだ産めるわよこの体。生理もバッチリ来てるし、第一性欲だってほら」と言いながらその大きな胸を下から揺さぶった。


 沙織はその姿を見ながら真面目に考えて


 「そ、それならいいかも」なんて言ってきた。


 「だって、もともとは私お母さんから生まれて来たんだから、元は一緒じゃない。それに兄弟として生まれてくるんだったら私忘れないと思う。その子の事」


 「あら、それじゃ今からお風呂入って来なくちゃ」


 「いけぇ、達哉ぁ。お母さんを抱いて子供うませろう」


 といいながら、酔いつぶれて寝てしまった。


 「おい、沙織。沙織、もう酔っちゃったのか」


 そう沙織に言う僕を見つめてお母さんは


 「ありがとうね、達哉さん。こんな娘を好きになって、こんなにも愛してくれて。この子はとても幸せよ」


 涙を流しながら、愛おしそうに沙織を見つめた。


 「いえ、そんな事。僕の方こそこんなに素晴らしい人を愛せるんだから幸せです」


 それを訊いてお母さんは嬉しそうだった。そして


 「ねぇ、達哉さん。さっきの事なんだけど。私は本気よ」


 「ええ、第一お父さんが許しませんよ」


 「あら、あの人だったら許してくれるわよ。娘の頼みなんだもの」


 と、その誘いに反応している自分がいた。


 「あ、あの。い、今は……考えさせてください」


 「あら、そうぉ。いつでも言ってね。私は何時でも大丈夫よ」この人は本気だと思った。流石オープンな性格。いやどうなんだろうと考えてしまった。 

 

 「沙織、沙織。こんなところで寝ちゃ風邪引くわよ」と沙織を起こし、僕らは自分たちの部屋。沙織の部屋に戻った。


 思い出を作ろうと始め僕たちは遊園地に行ったり、水族館に行ったり、一緒に買い物に行ったりあちこち歩き回った。でもそんな思い出より、ただ二人で手を繋いでいる方が二人の思い出になっている。



何もしなくても、ただ手を繋ぎ、肩を寄せ合い何もすることなく、ただ一緒に居るだけで……十分だった。



 ある日僕らは、あの暑い8月にヘルプに行った店へ行った。


 もう12月ともなれば、そこに居る客は簡素なほど少なかった。


 僕らの事を覚えていてくれたメンバーが「お久しぶり」と優しく僕らに微笑んでくれた。あの頃を思えばとても寂しく感じてしまった。


「お客さんいないね」「そうだね。あの頃が嘘のようだ」


 沙織は微笑んで「ほんと嘘みたい」と懐かしんでいた。


 「ねぇ。海岸行ってみない」「寒いよ」「いいの」


 誰もいない冬の海岸。


 砂浜に波が打ち寄せ、その音だけが耳に響く。


 柔らかい陽の光に冷たい海風。少し肌寒い。


 二人で波打ち際を手を繋いで歩いている。時折来る強い波を警戒しながら。


 「少し寒いな。大丈夫か」「うん大丈夫」


 僕が「なぁ」と話しかけたとき、沙織も「達哉」と僕の名を呼んだ。同時に。


 僕は「先にいいよ」と沙織は「ううん、達哉先に言って」と答えた。


 それじゃと僕が先に言った。


 「なぁ、沙織。あの大賞も次期発表なんだけど、結果駄目だったら許してくれる」


 沙織は少し俯いて「うん」と答えた。


 「うん。結果なんてその時の運よ。優子さんも言っていたじゃない。それに、あの小説は二人の思い出なんだもの。ほかの人が読んだって解んない事だらけよ。それが解るのは私たちだけ。そう、私たちの小説なんだもの」


 「うん。そうだね。ありがとう」そして


 「沙織」「なあに」



 「沙織、年が明けたら、新年になったら。僕の両親に会ってほしいんだ。沙織を僕の両親に紹介したい。僕を生んでくれて一生懸命僕を育ててくれた両親に。そして、僕の母親に……僕の両親の娘になってほしい」



 「達哉」



 沙織は顔を上げ、僕を見つめてた。そして涙を流しながら



 「はい」と答え微笑んだ。自分は本当に幸せだとその顔から滲ませながら。


 「ありがとう」僕はほっとしながら沙織に返す。でもこれはプロポーズじゃない。言う時は決めてある。

 「沙織は、何を言おうとしたの」彼女を見て言う。


 少し口を閉ざし


 「なんでもない。もういいの」そう言って微笑んだ。


 「なんだよう気になるじゃないか」 


 「だって、達哉先に言っちゃうんだもの。いつになったら達哉のご両親に会えるのかなって」


 「そっか、ごめん先に言って」「いいよ」にこやかに沙織は答える。




 この時沙織は感じていた。もう少しでその時が来ることを。あと少しで自分に降り注ぐ災いを。多分、このまま年は越せない事を。沙織は感じていた。





 街に、イルミネーションが灯り始めた。その姿はこの街の姿を意を決したように変え、今までと違う世界を作り出す。


 街路樹は夏の葉を淡い光の粒に変え全体にまとう。


 続く光の街路樹に、ビルに描かれた光の絵。そして特設に設置された大きなモミの木。


 光に包まれ、輝き、人の心を魅了した。


 その中に漂う。寂しさ……人の心にしまわれている穢れと言うものを物語っているように。



 クリスマスまでもう少しと言った日に、その連絡は来た。優子から。


 「ハァイ達哉。元気にしている」


 「ああ、久しぶりだな優子」


 「そうね。あなたが来ないから大変よ。掃除に洗濯。早く来てよ」「行ったらそれで済まそうにないんだけど……」


 「当たり前じゃないの。そんな事」


 相変わらず、あの契約は続行されているみたいだ。


 「ところでどうした」


 「あら、何かなきゃ電話しちゃいけないの」


 「もったいぶるな」


 優子は電話口でふふふ、と


 「決まったわよ大賞。さっき知り合いの編集から連絡来て」


 「え、ほんと。で、で……どうだった」焦る気持ちを隠せなかった。そして優子は


 「残念。選考止まりだったわよ……」その言葉を訊いて一気に気が抜けた。


 「そうか……」


 期待していたが、そんなにうまい事行く訳がないと思っていた。


 「あら、随分と落ち込んだ声ねぇ」


 「ああ、でもいいんだ。多分だろうなって思っていたから」


 「そっかぁ。ほんと諦めが早いわね」


 「そうだよ。諦めが早いのも仕事の内。それってお前が言った事じゃないか。それにもう次の小説に取り掛かっているからな」


 優子はすぐに声を返さなかった。次に



 「そっかぁ。でもその小説書くの少しの間止めないとね」



 「どうしてだよ」その言葉に聞いた。




 「だって、だって……あ……あなたの小説が……最優秀賞なんだもの……」




 優子は声を詰まらせながら泣いていた。


 「え、」その最優秀賞と言う言葉がもう一度こだまする。あなたのと言う言葉と共に。


 優子は、声を詰まらせながら、まるで自分の様に歓喜際立っていた。そして心から


 「おめでとう」とその彼女の一言で弾かれたように



 僕は光り輝くイルミネーションのもと


 「やったぁ」と叫んだ。大きく、周りにいる人なんか関係なく自分の、自分の為に叫んだ「やったぁ」と

 後で聞いたのだが同じ文芸部で出稿したものが全て選考落ちであったことを。 


 僕は沙織に伝えた。僕の書いた。二人で描いた。あの小説が最優秀賞になったと。


 僕ら二人で描いた思い出が……最優秀賞になったと。


 沙織は泣きながら、声を詰まらせ、声にならない声で



 「おめでとう。達哉」と言ってくれた。まるで自分の事の様に。そう僕ら二人で一つの小説なんだから。

 「最高の思い出をもらった」と沙織が言ってくれた。


 そして



 キャンバスに、大きな思い出が描かれた。大きな大きな思い出がそのキャンバスに描かれた……  




 授賞式は、12月の23日の祝日の日だった。 

 

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