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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
16/27

変化***

 ***変化***

  

 沙織からメッセージが来た


 「***今村沙織  お疲れ達哉。今日ようやく終わったよ。


 いやー我ながら、高校生って若い。いいなぁあの若さは。


 今の子達


 ……そう表現するところがもうおばさんなのね。…… 


 話題についていけなく今日は苦笑いするばかりだったよ。


 お昼休みにね、いろいろ話したの。短い時間だったけど、色んな話が出来た。そしてあの子たちもいろんな悩みを持っていることも知った。


 私もその時いろんな事悩んでいたこと思い出しちゃった。


 嫌なこと楽しい事。でも強く残っているのは苦しかったこと。


 嫌なことに入ると想う。でも、またこの学校で懐かしい風景を見ながら、苦しかったこともなつかしいなぁって感じる。不思議だよね。


 明日から、お休みです。明日行くね。今日はごめん、真っ直ぐ帰る。明日。


 それじゃ、お休み達哉。


 ***


 沙織は教育実習が始まってから帰りに、毎日とは行かなかったが僕に顔を見せによってくれた。会わない日は僕がバイトに行っている日。


 始めは沙織もなんだか「ちょっと寂しいね」と今までと違って自由が効かなくなることに寂しさを感じていた。

 「大丈夫だよ、2週間じゃないか。すぐだよ」


 そう言って元気づけたが、大学を卒業して社会人となれば、これが当たり前の生活になる。それが遠いことじゃないことは二人共それとなく感じていた。


 次の日、沙織は朝早くから僕のところにやってきた。そして僕の顔をマジマジと見つめ抱き合いながら耳元で「少し痩せた?」と訊いてきた。「うん、毎日沙織と会えなかったから」と言ってキスをした。


 その日は、昼まで部屋のカーテンを開けることはなかった。


 今日と明日バイトは休みにしておいた。もちろん大学は休校日だ。


 「なぁ沙織、今日これから何する」


 「如何しよっかな。でもこうしているのもいいかも……」


 そして沙織は机に飾ってある写真立てを手にして。


 「ついこの間だったんだよね、これ」


 「そうだな、ついこの間だった」


 それは、あのヘルプに行った新店で撮った写真。慰労会で二人で制服姿でキスをしている姿を恵梨佳さんが写してくれた写真。 


 「なんだか懐かしいね」沙織がふと言う言葉に僕も懐かしさが込みあげてくる。


 2日間の休みはあっと言う間に終わり、また沙織は実習に戻った。

 

 後半の実習は沙織が担当教師と変わり授業を行わなけば行けなかった。


 その授業の前準備として沙織自身も下調べをしたり、レポートをまとめたりで、ほとんど僕の所に来る暇もなかった。


 来るメッセージも「ごめん、今日の分まとめないといけないから」「疲れたよう」「お休み」とか短くなっていった。


 多分、これが現実なんだよな。と自分でも解っていると気持ちを押し込んで「解った。ゆっくり休め」「がんばれ」そして「お休み」とだけ送った。


 そんな時、部長の有田優子から電話が来た。


 その日昼で講義を終え、学食で飯でも食べようと思っていた時だった。僕のスマホが鳴った。



 「助けて」とかすれた声で一言。



 「どうしたんですか、部長、部長……」電話は途切れた。


 急いで文芸部に行き、「極秘部外持ち出し禁止」と書かれたファイルを許可なく開き、有田優子の住所を調べた。それをメモ取って急いで大学を後にした。


 部長の住所、それを改めて見るとその住所はこの街ではなく、少し離れた郊外の町だった。


 電車を乗り継ぎようやくたどり着いた駅から歩いて10分ほどにある高級マンション。その5階にある部屋が彼女の住まいだった。

    

 彼女の部屋の高級感あるドア。インターフォンを押す。少し待つが何も応答がない再び押す。されど返事もなくそのドアは閉ざされたままだった。3回目押そうとした時、オートロックが解除された音がする。扉は開かなかった。


 恐る恐るドアを開け「済みません」と声をかけるも返す返事はない。見上げ廊下の先に壁の端から人の足が見える。僕はとっさに上がり込んでその方へ廊下を走り駆け込んだ。そこには



 そこにはインターフォンのパネルの下で倒れ込んた有田優子の姿があった。



 「部長」とっさに声を出した。そして彼女の体に触れた。物凄い熱が僕の手に伝わった。


 僕はあたりを見回し寝室を探した。まずは彼女を寝かすために。


 一つのドアを開ける。するとそこは彼女の仕事部屋兼寝室だった。すぐさま彼女を抱き抱えた。


 彼女の体は思いのほか軽かった。その肩から延びる華奢な腕、そしてスタイルがよさそうに見える細い体。すべてが軽くそして今にでも壊れてしまいそうなそんな体だった。


 寝室に入ると散らかっていた。ごみに服、そして彼女の下着、それらが部屋中に散乱していた。でもそんなことにかまってはいられなかった。


いったん彼女をベットに寝かせ、ベットの上にあるスエットや下着を寄せ彼女に毛布を掛け寝かせ付けた。


 そしてキッチンに向かい、冷凍庫を開ける。中に凍り枕があるのを見つけ、脱衣所からタオルを取それに巻いた。洗わずに残された食器、ごみ袋にまとめられた沢山の弁当の殻。それらが彼女の生活を現していた。


 グラスに氷を入れミネラルウォーターを注ぎ、シンクで食器を寄せながらタオルを濡らした。


 彼女の所に行くとその体は汗でびっしょりだった。うなされながら荒い息をしてとても動ける状態ではなかった。


 脱衣所から残りのタオルを濡らし干してあったバスタオルを持って寝室へ戻る。


 そして彼女の着ている服を脱がし、下着をそっと取り払う。


 何も着けない彼女の肌が露わになった。少し痩せ気味のされど綺麗なその体が僕の目の前にいた。


 濡れたタオルで体を拭く、彼女のすべてのところを。バスタオルを下に敷いて近くにあるタンスを開ける。下着を探し出しそっと履かせ、近くに寄せて置いたスエットを彼女に着させた。


ブラは付けなかった。凍り枕を頭にやり濡らしておいたタオルを額にあてた。


 そして音を立てない様にとりあえずごみと散らかっていた衣類をまとめ寝室を出た。


 スマホで検索して往診できる病院へかたっぱしに電話を掛け、1時間後、近くの個人医院から医者と看護婦がやってきた。


 診察をして注射を一本してから、もう少しで肺炎になるところだったと言われた。2種類の薬と落ち着いたら病院に来るようにと付け加え、医者と看護婦は帰って行った。


 彼女のところに戻るとまだ熱は高そうだった。少ししたら薬をやるようにと言われた薬は座薬だった。


 躊躇ったが、薬を取り出した。そして下着を下げ横向きにして、座薬を彼女に押し込んだ。「う、う」と漏らす声がする。寝室を出たときには、僕の方が汗だくでぐったりとしてしまった。


 今日はバイトがある。今から動かないとここからでは間に合わない。しかし彼女を放ってはおけなかった。


 電話をした。出たのは恵梨佳さん、急用が出来ていけない事を伝える。珍しいねと返され了解してもらった。


 居間と一緒になったダイニング。その大きな窓からはすぐ近くにある小高い山が望めた。緑豊かな山、そして数多くの木々。その光景は少し懐かしさをも感じさせる景色だった。


 することが無くなった僕は、シンクに放置していた食器を洗い、使ったタオルと、ふと彼女が汗だくになって着替えた下着、と思いついでに洗濯はしてあるかもしれない、まとめて置いた下着も一緒に洗濯をした。沙織の下着も自分では洗ったことがないのにと思いながら。


 日が陰り、映し出される小高い山と木々が夕日に照らしだされてきた頃。彼女の様子を見に行った。ようやく座薬が効いてきたんだろう。あの苦しそうな息使いはなく、穏やかでスースーと寝息を立てるように眠っていた。

 僕もほっと肩を落とした。


 掃除と洗濯が一通り終わった頃にはすでに外は暗かった。


 もし彼女が起きてきた時、何か食べさせる為に御粥を煮てやった。


 僕は冷凍庫にあった冷凍ピザに買い置きしてあったのだろう、カップラーメンを見つけそれを夕飯にあてた。

 そして、居間のソファで落ちるように眠りについた。


 朝、カーテンの隙間から刺す日差しで目が覚めた。気が付くと僕には薄い毛布が掛けられていた。


 キッチンに行くと昨日作った御粥がきれいになくなっていた。


 彼女の寝室に行きそっと彼女の額に手をやるとあの熱さは感じられず、ひんやりとした額が僕の手から伝わった。そして気が付いたように優しくそして恥ずかしそうに「おはよう」と潤んだ目で僕を見つめながら言った。


 「もう大丈夫だ」


 彼女はそう言った僕を見て


 「ありがとう」と一言言った。


 そこにいるのは、いつも文芸部で見るあの凛とした部長の姿ではなく一人の純真な女の人がいた。


 昼過ぎ、彼女は起き上がり居間にいる僕のとこに来た


 「大丈夫」「うん」「良かった」


 「本当にありがとう」彼女は俯きながら言う。



 「ああ、でも大変だった」そして「見たせしょ、触ったでしょ」



 そして「初めてなんだからおし……」手で顔を覆い真っ赤になっていた。


 「また熱でた」


 「馬鹿」でも熱は平熱だった。



 僕は彼女が落ち着いたのを確認して、そのままバイトに行った。


 バイトが終わったその夜、そして昨日の夜も沙織からのメッセージは来ていなかった。


 次の日も、有田優子の様子を見に彼女に所へ来ていた。


 ドアの前でインターフォンを押す。すると「はーい」と声が返りオートロックが解除された。


 ドアを開けると部長はティシャツにジーンズ姿で僕を迎えてくれた。後ろの長い髪をオレンジ色のチーフで結んで。


 「さっ上がって」「あ、はい、お邪魔します」


 「もう、昨日もずっといたんでしょ。お邪魔しますなんて」


 腰に手をやりプンとする。沙織と違った新鮮さを感じさせた。


 「もう、大丈夫そうですね」


 「ありがとう」とにこやかに返してくれた。


 居間のソファに座り「今お茶淹れるね」と彼女はキッチンに向かった。


 「亜咲君、掃除もしてくれてたみたいね。ごめんね凄かったでしょ」


 「あ、いいえ暇でしたから」



 「それに洗濯もしてくれたんだね、ありがとう。でもね、下着一枚消えちゃったのね。亜咲君知らない、レースの入ったやつ」



 「え、ぼ、僕取っていませんよ。絶対に取っていませんよ」



 慌てる僕にお茶を出しながら「嘘よ」とにっこと笑って言った。



 「どうぞ、冷めないうちに」


 部長の入れるお茶は物凄く美味しかった。


 「美味しいでしょ。お茶の入れ方だけは幼い頃、叩き込まれたからね」


 「お母さんに」



 「ま、そんなところかしら」と窓の景色に目をやった。その表情は少し寂しさを漂わせていた。



 「ところで亜咲君、あの小説あれから如何なった」


 部長に散々叩きのめされたこと思い出す。


 「いやあ、あれから手付かずです」


 「そっか、やっぱりね」彼女は立ち上がり、僕をあの寝室兼仕事場へ招いた。


 そして、びっしりと詰まった本棚から一冊を取り出し僕に渡した。


 手に取ったその本の作者「さかき 枝都葉えつな


 それは美野里が崇拝する作家、僕にクリスマスの時プレゼントしてくれた本の作者。そして沙織と初めて一緒に見た映画の原作者。


 改めてその本棚を見上げると、そこにはその作家の本が所狭しと並べてあった。そして僕も持っているあの本もそこにあった。


 「部長この作家」


 「あら、知ってるの。人気だからね彼女は」


 「実はこの本持っているんです」とあの本の背表紙を指さす。


 「それにこの前、彼女と……映画……観ました」


 部長は微笑んで僕の顔を見ながら「そう」と答えた。


 「部長もこの作家好きなんですね。こんなに集めて、高校の時付き合っていた彼女みたいです」


 「あら、亜咲君高校の時彼女いたの。まあ、貴方だったら不思議じゃないけどね」


 少し照れながら「そんなぁ」と呟いた。


 「彼女の部屋にもいっぱいありましたよ。榊枝都菜さんの本。僕も好きでした。彼女も崇拝するほど好きでした」


 次第に声のトーンが下がる。少しづつ美野里を思い出す様に。


 僕の表情から「その彼女本当に好きだったのね」


 「……でも別れました。そして彼女北海道に行きました。今北海道の大学にいるはずです」


 「そっかぁ。でもねこの榊枝都菜も北海道にいるのよ。そこで執筆活動をしている」


 「部長、もしかして知り合いなんですか」  


 「そうねぇ、知り合い。小さい頃からの。私が本当に小さい頃かの……」

 次第に俯き彼女は目をあつくしていた。薄っすらと溜まる涙。


 「私の実母」


 榊枝都菜は部長、有田優子の実の母親だった。彼女の両親は、彼女が幼い頃離婚した。父親の方に引き取られた彼女は有田の姓のまま、そして母親の方は元の姓「榊」になったと。


 部長は物心ついたときから、いつもそばに居てくれた母親が小説を書いているのを見ていた。そしてよく自分だけにお話を書いてくれたことも。


 「そのお話をそっと優しく読んでくれるの。私が寝るまで……」


 両親が別れる時。不安定な収入と、きっと彼女に自分の娘に不憫な想いをさせてしまう。母親は身を裂く思いで彼女を父親に残した。 


彼女は母親を失い、毎日悲しみの中にいた。そんな時母親から来た一通の手紙が彼女を大きく変えた。


 その手紙の中に書かれていた言葉は、優しい言葉なんか一つもなく、今の悲しんでいる彼女を罵倒するような内容だった。でも、それは自分が一番心から愛している娘へのエールでもあった。



 いつまで泣いているの。そんな子はもう私は知らない、泣きたければいつまでも泣きなさい。


そして泣きながら大人になりなさい。


 誰もあなたを助けてはくれません。優しい声はかけてくれるけど、あなたを救ってくれる人なんか誰もいません。そんな泣いてばかりいる子には。



 悔しかったら泣くのを止めなさい。


そして、あなた自身の力で前を歩きなさい。泣いていたころを振り返らないで。誰よりも前を歩きなさい。



 私は信じています。あなたが前に歩き出すことを。


そして、いつの日か血の繋がりを超えて、あなたと心から話し合える日を信じています。 


 私の最愛の娘 優子へ



 その日から彼女は泣くのを止めた。泣くのを堪えた。


 自分も母親と同じ作家になろうと、一歩踏み始めた。


 今では母親とも再会していて、手紙のやり取りも良く交わしている。


 メールではなくあえて手紙で    


 「そうでしたか。部長のお母さんだったなんて。北海道に行った彼女にも教えてやりたいですよ。同じ北海道にいるって、声が出せないから」


 声がだせないから……その言葉に


 「失礼だけど、高校の時の彼女って何か障害を……」


 「ええ、生まれながら話す事が出来ないんです」


 「話す事が出来ない……」部長は机からあるファイルを取り出した。

 

 そこにはお母さんからの手紙を一枚一枚フイルムに挟み綴じてあった。それをめくり、開かれた手紙を僕に見せてくれた。


 そこにあった手紙を読んで、僕は信じられなかった。


 彼女の、その母親の榊枝都菜の手紙に「美野里」の名が書かれていたから、そして美野里の事を、話す事の出来ない彼女の事を榊枝都菜は書いていた。書き綴っていた。


 美野里は前から榊枝都菜に弟子入りを志願していた。でもそんな弟子とか師弟なんていうものを取らない彼女からは断られていた。



 でも、もしあなたが北海道の榊枝都菜が指定する大学に入ることが出来るのなら「一緒に小説を書きましょう」と言った事を、美野里がその大学に受かり、今自分の元に来て一緒に小説を書いていることを、もう一人自分の娘が出来たかの様に慈しみながら書き綴ってあった。



 「美野里」僕は美野里の名を呼びながら涙を流した。


 「世間は広いようで狭かったね。亜咲君」


 「はい」


 「可愛い人だったよ。とっても明るくて自分のハンデなんか何でもないって、それも前に付き合っていた彼氏がくれたんだって、言ってたよ」


 「部長、美野里と……」


 「ええ、この春に北海道に行ったから、私の親友であって、小説を共に書く同士であって……私の大切な母親に」


 「元気でしたか、美野里は」


 「はい、とっても元気でした」


 「そうですか……」


 部長は、僕に渡した本にヒントがあるはずだと、それを感じ取ったらまた再開しろと言ってくれた。


 もし、本気であの小説を大賞に出稿するのなら、もう一度構成の段階から見直せと、そして僕の書くストリーには人間臭さが一番似合う、恋愛と言う人間臭さを表に出せと……


 

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