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白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように  作者: さかき原 枝都は
白くなったキャンバスに再び思い出が描かれるように
14/27

沙織の両親

***沙織の両親***


 夏休みもあと残すところあとわずかとなった日。宮村と居酒屋で飲んでいた。今日は愛奈ちゃんと沙織そしてナッキと3人でお食事会と銘打って3人で食事に出かけた。


 愛奈ちゃんのお腹も物凄く順調ですこし目立つようになってきた。体調も思いのほか安定し、つわりもほとんど気にならない様になっていた。


 でも当の宮村はあれ以来「俺父親になるんだ」と僕に連呼する始末だ。しかも愛奈ちゃんの話になると、あのソース顔がデレッとしてまるでお多福のようになる。そんな顔を僕はいつも笑ってやった。


 僕の方は小説も順調に書き進んでいた。



 もう沙織も覚悟を決めたか、それとも今までいろんなことを暴露させられたせいか、姉貴のように僕の前ではあけっぴろげ、いや沙織のお母さんのようにオープンな性格をあらわにしたのか、高校の時に付き合っていた彼氏の事や彼との営み?と言うべきだろうか、こんなSEXしてたなんて平然と言って僕の方が赤面するほどだ。


 

 いかに、いずれ母になる女と言う生き物は、底知れず強いものだと思ってしまう。


 逆に僕は美野里の事を根掘り葉掘り沙織に訊かれる。



 それこそ、美野里とどんな付き合いと言うか、どこで愛し合ってたとか、そしてどんなSEXしていたなんて遠慮なしに問い詰めてくる。もう、沙織にとっても美野里は僕の一部として見ているようだ。出来れば最近は少しジェラシーを表に出してもらえるとありがたいのだが。



 そして僕はある日、沙織の家に招待された。沙織のお母さんが一度は家に連れてくるようにと沙織に強く願ったらしい。


 その後で、どんなにいい男か品定めしてやると、好みだったらこの体捧げますわ。なんて冗談交じりに言っていたらしい。


 その日は沙織の家で一緒に夕食を食べた。


 沙織は手ぶらでいいよ。そんなに気を遣う家じゃないからと言ってはいたが、やはりそこは何とか。バイト先のカフェで焼くパイをワンホール恵梨佳さんに注文しておいた。



 取に行ったとき、恵梨佳さんとそのときいたメンバーから「健闘を祈る」と戦地に赴く兵隊の様に送り出された。実際その通りかもしれない。



 沙織の家に着きインターフォンを押すと、沙織の声がして玄関の扉が開いた。そこで沙織と沙織のお母さんが出迎えてくれた。


 初めて会った沙織のお母さんは、彼女によく似ていて沙織がもう少し年を取ると、こんな感じになるんだと言うのが見えるような人で、明るく気さくな感じの人だった。


 そして2階からふてぶてしく降りてきたあの弟君、名前は佑太と言う名前だった。


 「あ、初めまして今村裕太です。こんなかっこいい人が姉貴の彼氏になって戴いてありゃがとうございますぅ」と律儀なのかふざけているのか判断に困る初対面の挨拶だった。


 お父さんは居間のソファに座り新聞を広げ自分は蚊帳の外だと言うオーラ満載にしていた。どこの男親も同じだろう、娘の彼氏と言う奴と初めて会う時は。


 「お父さん。達哉さん来たよ」お父さんに僕がきたことを告げるがやはり僕はさん付けで沙織は呼んでいた。

 今気が付いたように


 「ああ、よく来てくれたね亜咲君」背丈は僕と同じくらい。ちょっと痩せ型でスマートな体にこざっぱりとした顔つき。若かりし頃はいかにもイケメンで美男子と言う部類に入っていたことをうかがわせていた。


 「初めまして、亜咲達哉です」緊張しながら挨拶をした。


 そしてお決まりの様に「これつまらないものですが」とラッピングしたパイを差し出した。


 「いや、気を使わせてしまったね」と柔らかい表情で言ってくれた。手土産を喜んだのは沙織とお母さんの様だったが。


 「達哉さんがバイトしているカフェの限定パイなのよ」と沙織が得意げに言うとお母さんが「あらぁ、あそこの。美味しいって有名なところじゃない」と歓喜にも似た声を出して喜んでいた。


 それを訊いてお父さんも喜んでいた様だった。


 「達哉さん、もう少し準備にかかるから、お父さんとここで飲んでて」と沙織がビールを持って来た。


 緊張しながらお父さんのコップに酌され酌をした。


 初めはビールの味なんかしなかったが、意外と話がお父さんと話が合い、緊張も緩んでいった。


 「おお、それじゃ沙織と同じ大学の文学部なんだ」


 「ええ、そうです」


 「それで、主体専攻は何だね」「人間心理学です」


 「ほう、これはまた懐かしい。実は僕も文学部でね良くその分野では語ったもんだよ。初めは文学部で作家になることが夢だったんだけどな」


 「え、そうなんですか」


 「ああ、文芸部なんかに入って良く書いてたよ小説を」


 意外だった、と言うより驚いたまさか沙織のお父さんも作家志望だったなんて驚いた。


 「でもね、文学部って外から見たらみんなその道を目指している様に思われがちだけど、そうでもなかったよ。君も解るよなこれは」


 「ええ、そうですね。文学部だから必ずしも文学を勉強する訳じゃないですからね。特に僕の主専攻は文学とは言えないですからね」


 「そそ、どちらかと言えば精神科の医師とか心理学者的な色合いが濃いからね」「確かに」


 「でもどうして作家の道を諦めたんですか」


 口に出してからちょっと迷ったが、お父さんはしみじみと答えてくれた。


 「ハハハ、それはね自分の限界を知ったからだよ」


 「自分の限界ですか」「そうだ限界だ」


 お父さんは学生時代ある小説の作者と出会っていた。それは自分が好きな作家であり自分が目標とする人でもあった。


 しかし、その作家と付き合う内にその人の広さ心の豊かさそして人間性の大きさに気づいた。そして懐かしむように


 「僕はねぇ、自分の書いた作品が、世間で認められていると思っていたよ。自慢するわけじゃないけど、大賞一作と佳作一作を受けていたからね」


 思わず頭が下がった。大賞をもらうほどすごい小説を書いていた何て、二度目の驚きだった。


 「でも、その人から言われたよ。浮かれるんじゃないって、今は賞を取っていい気かも知れないが、お前は誰のために物語を書いているんだってね。そして、君はたった一人の為に全身全霊をかけて物語を描けるかって」


 「たった一人の為にですか」


 「そうだ、一人の為にだ。しかも自分の命を削ってまでも」


 「そこまでして」


 「そう彼はそこまでして、自分の命を本当に削りながらその一人の為に小説を書いていたよ。その時僕は、自分の小説の甘さ、いや自分自身の甘さを痛感してね。


その人の図りしえない大きさを感じたんだよ。そして知ったんだ、その小説がその人が愛する人のために書かれていたことをね。彼は自分の命がもう長くない事を僕にも告げたよ。


それから僕は小説を書くのを止めた。自分が目標とする人があまりにも大きかったことに気が付いてね。それが限界だった」


 何時しか彼に寄り添うように、沙織のお母さんが座っていた。


 「またあの人の事」と優しくそして懐かしむように話した。


 「ハハハ、若い頃の話だよ。しんみりさせちゃったな。すまんすまん」


 「今は」と訊いた。


 「ああ、趣味程度に書いているよ。なにせ在学していた系列の大学病院の事務職もやっているからな」


 「え、あの大学病院の」と言うことは、えらい有名大学に在籍していたことになる。三度目の驚きだった。


 「お待たせ。準備で来たわよ」と沙織が呼びに来た。


 お母さんの手料理はどれもこれも美味しかった。沙織から僕が味噌汁好きなのを訊いていたのだろう。味噌汁も用意されていた、その味噌汁を啜ると沙織が作る味噌汁と同じ味がした。美味しかった。


そしてとても暖かった。沙織の家族が、沙織の両親の気持ちの暖かさを感じた。



 帰り際


 「亜咲君、君も小説を書いているそうじゃないか。しかも作家を目指して」


 「はいそうです」


 「それならやれるところまでやってみるといい。自分がどこまでやれるのか試してみるといい。僕は途中で辞めたが、君自身が納得するまでやってみればいいと思う。頑張れ」


 そう言って僕の肩を叩いてくれた。


 「ハイ、頑張ります。これからもよろしくお願いします」


 そして



 「もし、何かあったら家に来なさい。いつでも……」



 少し寂しい表情だった。お父さんも、お母さんも。


 でも「また来てね。今度は私一人の時に」って軽くウインクするお母さんには顔が赤くなってしまった。

 沙織は駅まで僕を送ってくれた。


 「沙織、物凄くいい両親じゃないか」


 「そうぉ」ちょっと恥ずかしそうに


 「でもお父さんと話が合ってよかったね。あんなに楽しそうにしているお父さん久しぶりに見たから」

 「そうか」



 「うん」


 改札のゲートに来た。


 そして



 「達哉、明日も行っていい」



 「もちろん」



 改札を出て振り返り見る、沙織のその顔はとても和やかだった。



 そして夏休みが終わると沙織たちは2週間の教育実習の期間に入った。

  


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