始まり
彼女と友達になってから夏休みが終わり、二学期が始まりを迎える。友達と言う関係に変わりは無いけれど、夏休みの最後に一緒に祭りを見て回った。
彼女、いや名前は矢崎紅と言うらしい。祭の時に見た紅さんの浴衣姿はすごく可愛かったと言っておこう。あの時の紅さんの可愛さと言ったらまさに女神と言っても差し支えない。かなり濃い目の化粧には驚いたけど。
今二人で一緒に学校に登校している。家が結構近かっのだ。勿論入っていない。
それにしても紅さんは制服もにあっていーー
「あの、白さん?」
「はっ!ごめんごめん。ボーっとしちゃってて」
「いやいや、そのままボーっとしてたら其処の電柱に当たってたから」
「本当だ。ありがとう」
「どういたしまして」
あははは、と二人で一緒に笑う。
こんな日がずっと続くと思っていた。
○○○
その二日後事件は起こった。
紅さんの両腕が絆創膏まみれになっていた。
「どうしたの⁉︎その傷!」
「なんでも無いよ。ただ転んだだけだから…」
誰の目から見ても転んだだけでこんな傷が出来ないことは分かるだろう。
目を逸らしながら言う紅さんに、僕はピーンときた。
「もしかして紅さん虐められてたりする?」
俯きながら頷く。
クラスに友達が居ないならあり得ない話では無いか。
「誰なの? 」
「同じクラスの白馬君に…」
絞り出す様に喋った紅さんを見ると白馬とか言う奴に怒りがフツフツと湧いてくる。
「白くん行ったらダメだよ。白馬君は理事長の息子なんだから…」
そういやクラスメイトがそんなこと言ってた気がする。顔も朧げだが思い出した。ムカつくイケメンでいつもニヤニヤしてた気がする。取り巻きも結構いたな。
理事長の息子だろうと、そんなの関係無い!
紅さんを置いて走り出す。確かあいつらイケてるグループは放課後は教室に残って遊んでいた筈だ。僕は教室に向かって走り出した。
「白くーーん!」
後ろで紅さんの声が聞こえるけど無視して走り出す。
白馬の野郎にいじめを辞めさせる為に。
○○○
僕がドアを開けると、そこには白馬が一人で居た。
白馬はニヤニヤと、薄ら笑いを浮かべながら窓に腰掛けている。まるで僕が来るのを分かってたみたいに。
「ククッ、なんだァ? お前」
「矢崎紅の友達だ!」
「ん?…あぁあの女かァ、それがどうした」
「紅さんを虐めるのはやめてくれないか?」
理事長の息子だから下手に出る。辞めさせられたく無いから。ここら辺が僕の肝の小さいとこなんだよなぁ。
「プッ、ヤダヨ〜」
白馬は爪と指の間のカスを取りながら言う。
「このーー」
白馬が僕の言葉を遮る。
「ただしっ! お前が身代わりになるんなら考えてやってもいいぜ」
「っっ!!」
身代わり? 虐めってどんなのだ? 紅さんを助けたい気持ちは有るのだけど、理性がそれを止める。
「どうだ? やるのか? お前にあの女の身代わりになる覚悟はあるのか?」
「あるに決まってるっ!!」
「じゃあ決まりだなァ。言っとくが、俺は男にはキビシーぜぇ」
くつくつと笑う白馬を尻目に教室を出て行った。
なんだか奴に乗せられたみたいで、気持ち悪い。
○○○
「白くんっ!」
紅さんが僕に抱きついてくる。
「だいじょうぶだった?」
「うん、もう安心して、君が虐められることは無いよ」
紅さんが、カバっと顔を上げる。
「ええ!? それじゃあ白くんが…」
「うん。でも大丈夫、君は僕が守るよ。命に代えてもね」
紅さんは僕の胸の中で肩を揺すって泣いた。でも顔を上げた時、不思議な事に彼女の顔には泣いた跡は残っていなかった。
そして僕の最低最悪の学校生活が幕を上げる。
次回更新は6時