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1 酒と黄金

人には言いたくない秘密が一つや二つあるもんだ。

俺にもあるし、誰だってそうだろう。

秘密主義者ってやつがいるくらいだし、秘密はこの世界に溢れかえって溢れかえりすぎたことで逆に真実ってやつから逃れきれることはできないんだろう。


世の中知らなくていいことが多すぎでむしろ隠す側の苦労が想像できてしまうもんだ。


俺にも新たに秘密ができてしまった。

それもトップシークレット。いわゆる誰にも明かせないモノってやつだ。

オレッ子厨二娘との会話で俺は同僚はおろか親友にだって明かせない大きな秘密を抱えることになった。

マジ勘弁してくれマイドウターよ・・・。





「・・・グリフォンってあれか鳥頭のバケモン?モンスターってやつ?ゲームとかで出てくる中ボス的な?」


「そのいいようはいささか不服ではあるがイメージとしてはそれでかまわないさ。父が理解のある大人であってよかったー。」


「軽く流しちゃってんじゃねェ!認めてる前提で話すな!あとその〝父〟って呼ぶのむずがゆいからヤメテ・・・。」


「父は父だろうに・・?それともパパ?だでぃ?と呼べばいいのか?」


「はぁぁー・・・。もういい、好きに呼べ。

話を戻すが、グリフォンってのは何の設定だ?」


俺はこのくだらない話に付き合ってはいたが、信じていたわけじゃない。ただ、荒唐無稽すぎて逆に冷静になってしまっていただけだ。


この時までは・・・。


娘はニヤリと悪童のお手本になるような悪い笑顔を浮かべて俺の目の前に自らの左手を突き出した。どうした、手相でもみればいいのか?と軽口を叩こうと開きかけた口を俺はどうすることもできなかった。


なんせ、その左手は一瞬のうちに〝羽ばたいた”のだから。


その羽は目が覚めるような蒼色で安っぽい蛍光灯の光の下でも輝き、羽のついた腕は弱者では持ちえない屈強さを感じさせた。そして、その腕の先にはどんな固い壁、例えば鋼鉄の壁でさえも簡単に切り裂きそうな鋭く硬質な印象をあたえる立派な爪であった。


恐怖より先に魅了された。人間では持ちえないその〝王者の雄々しさ〟とでも言うべき左手に。


「お、オレの左手の封印が解けちまったぜーーーー。」


その悪辣とした笑顔に相応しくない棒読みで俺の意識は戻らされた。

なんかムカつくが、そういう状況ではないはずだ。


「ハッハーーー!


どうした我が父よ?乙女の可憐さにやられたか?


そうジロジロ見られたのでは恥ずかしいではないか。」


「う、おおぉい!なんだその!?」


俺が何か言う前に左手は引き戻され元に戻っていた。

まるで白昼夢だ。

雄々しさに溢れた獣の左腕はかき消え、華奢な小学生の左腕が安物のグラスを持ち自身の喉をうるおすべく水分を補給していた。


「んぐ・・ぷふぅ~~。


ふふ・・・、もちろん夢ではないさ。


オレの左手は、というよりオレの体はグリフォンに戻れる(・・・)のさ。


可憐な美少女の本性は〝獣〟なのさ、はっはー。」


俺は何か言うよりも先にここから退散したいと思った。

だからソッコー会計を済まし、獣ッ子を抱えダッシュでコンビニに向かった。なんでコンビニって?酒だよ酒。

こんな話には酒が無いとオッサンにはつらすぎる。

そんなわけでビールをカゴいっぱいにし、ツマミのスナックやらなんやらを掴みいれて怪訝な顔をしたパートのオバハンを無視して帰宅した。


そこでビールを三本ほどがぶ飲みし、つまみのゲソを咥えながら獣ッ子にジョブチェンジした娘のグリフォンに詳しいことを聞くことにした。


いわく、


1.さっきの左腕は部分変換とやらで全変換したら体長5Mのグリフォンに変化することができる。


2.グリフォンになれるのは前世がグリフォンだったからで、俺の娘の人間であることも正しいとのこと。


3.前世の記憶と今世の記憶は混ざり合っている。正確に言えば元母親のあれこれやを見たショックから前世を思いだし、統合されたのが正確な認識でいい。


4.質量とかの科学的なことを受け付けないファンタジーな存在なので人間形態でグリフォンの膂力を持つ。ただし、火とかは噴けない。(グリフォン形態なら可能。ふざけんな。)


5.俺こと霧橋夕きりはし ゆうは人間の娘を産み育てていたつもりだが、その娘こと霧橋雫きりはし しずくはグリフォンとなっていた。


6.そろそろこの世界にいる時間が無くなりそうなので姿を消そうとしたが、離婚して一人ぼっちの父親を置いてはいけないの前世の世界に一緒に着いてきてほしい。あとそのビール飲んでいい?とのこと。


「つっこみきれない!!!


あっー!!勝手に飲むんじゃねェ!!!


異世界になんで行かなければなんねぇの!?」


といって爆発するも微風のごとく気にしない様子から我が娘ながら恐ろしい。


というか、ビールをゲソあてに飲んでいる小学生というシーンはなかなかに危ない情景だった。


「この世界に転生したのは已む無くだった。魔力もくそもない状態だったから最近までほとんど普通の人間の子どもだったが、今は完全に復活したので、このままではこの世界の影響としてよくない。


だから、元の世界に帰るだけさ。


ついでに、父の傷心旅行と行こうじゃないさ!


ハッハー!父には影響ないのかは微妙だが、たぶん大丈夫。


むこうで、よろしくやればいいさ。」


とか勝手に決めているんだが、俺の意見は?


もういいや、飲んで忘れよう。


そう決めて昼間っから親子二人で酒を飲み干し、家に貯蓄してあった食料と酒はすっからかんになった。

俺はいわゆるウワバミだったので同僚などからオロチ霧橋なる不名誉なあだ名をつけられていたのだが、俺の娘はどうやらその名前を継ぐどころかそれ以上に飲みまくっていたのでグリフォン霧橋と名付けた。


明日のことは明日の俺が何とかするさ、というダメ人間の考えでその日は終わっていったのだった。


つーか、酔いながらも話を聞けば母から黄金のアクセサリー類を交換条件でせびりまくって集めていたらしい。


グリフォンとは酒と黄金が好きらしい。


それを成金だと思ってしまったのは内緒だ。











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