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第10.5話

 やってしまった。

 確かに私は水島一翔(みずしまかずと)くんを誘った。一緒に帰ろうと。

 なんなら、私が今抱えている悩みもぶつけてみようと思っていた。なりたい私、期待される私、どちらを選ぶかと。

 結果、水島くんはちゃんと私に向き合ってくれた。そうして道を示してくれた。

 正直、彼の返答自体に救われたかといえばそうじゃない。あんな当たり障りのない返し、申し訳ないけどテンプレ過ぎて逆にこっちが驚いてしまった。彼みたいなひねくれものなら、一風違った回答をしてくれるのではないかと期待していなかったと言えば嘘になる。

 でも最後は良かったかな。「俺が側にいてやる」っていうのは。分かりやすい口説き文句に響くけど、あれを言われて嬉しくないはずがない。だって相手が水島くんだよ? すっごいドキドキした。それはもう、すっごく。100キロメートルを全力で走ってもこうはならないだろう、ってくらい。


 でも最後の私の行動は余計だった!


 今思い出しても顔から火が出る。あ、子供だ。なんか私を見てる。もしかして外から見ても分かるレベル? あ~消え入りたい!

 まさか自分にあんな行動力があったなんて。ほとんど喋ったことのない相手に、キスを。それもほっぺとかじゃなくて口と口で。

 通学路から外れていてよかった。あんなところ友達に見られたらたまったもんじゃない。きっと根掘り葉掘り訊かれる。『あいつとそういう関係なの?』とか、『いつから?』とか。


 あるいは、『あんなやつやめときなよ』と言われるだろうか?


 ドキッとした。なぜなら、そう言われた時私はどんな行動をとるか不安だからだ。水島くんにあんな相談させておいて、付き合わせておいて、結局「友達がやめろっていうからやめます」と態度を決めるのだろうか、私は?

 強く否定できない自分が怖い。

 でも大丈夫、と私は自分に言い聞かせる。きっと大丈夫だ。私は誰かに背中を押してほしかったのだ。私が選ぼうとしてる道を。応援してくれる人が。

 正直に話せば、まだ私はなりたい自分というものが定まっていない。いろんなことに触れたい、というのは本心だ。褒められることだけじゃない。本当にいろんなことに。けど、一方で、周囲の期待する通りに振舞う私という私もいる。これは人生で一番長く付き合ってきた私だ。好きではないけど、この私には皆が信頼を置いている。ありのままの私ではなく、この仮面に……いや、彼らにとっては、ありのままの私がこの私なのだろう。

 そうしてみれば、水島くんといると私はその仮面を脱ぐことができる。彼の隣にいると、私は肩の力を抜くことができる。

 やっぱり私は彼のことが。


「でも水島くん、覚えてないのかな?」


 私は思い出す。

 中学の頃、期待に押しつぶされて、様々な仕事を一人で背負ったことがある。雑用とか、日直とか、掃除当番とか。クラスメイトは皆感謝していた。『部活で忙しい』『習い事が』『友達と約束が』とか。こんな時に京極さんがいると助かるね、と皆言ってくれた。だから、私はあの頃の私を否定はしない。

 ……ただ、正解だったとも言えない。

 あの時、色んなことを背負い込みすぎて体調を崩してしまったのだから。

 結局1週間寝込んで、私は学校へ行った。

 本当は行きたくなかった。仕事をほっぽり出してしまったのだから。今更会わせる顔がない、と。期待してくれたみんなに。

 けど皆の反応は違った。

「京極さん、風邪、大丈夫? でもすごいよね。ちゃんと頼んだことはやってくれてるし」

「京極が作ってくれたプリント、良かったぜ。きっと部活の勧誘もうまくいく」

「風邪ひいてもちゃんと校庭の花壇には水をやってくれてたんでしょ? 偉いわあ。でもね、もう少し自分のことを大切に、ね」

 意味が分からなかった。

 プリント? 確かに私は野球部の勧誘チラシを作るようお願いされた。でも結局倒れてしまって、作れなかったのだ。

 花壇に水やりだって行っていない。

 生徒会の資料作りも、何も、私はやっていない。

 なら誰がやったのだろう? 青木くん? 笹本さん? 全く分からない。

 その日の放課後、校門へ向かうと、一人の男子生徒が前に立ちはだかった。前髪で顔の上半分が隠れている男子生徒。確か名前は――水島一翔。一年の時に同じクラスだった、いつも一人で、なんだか怖いなあと思っている男子だ。

「な、何か用ですか?」

 怯えながら尋ねると、彼は照れくさそうに頭をかいて、

「まあ、その、なんだ。俺はあんたの名前すら知らないけど、あんたの頑張りはたまに見てたよ。いつもすごいなって思ってた。俺とは違うって。けどな、もうちょい自分を大切にしろ。今回みたいなのが何回も続けば、いずれ壊れるぞ」

 その言葉で全てを察した。

 彼が私のヒーローなのだと。

「あ、あの……本当にありがとうございます! 私、その……」

「あ、お礼とかいいから。どうせ俺とは関わらないだろうし。底辺の気まぐれくらいに思ってくれればいいから」

 彼は慌ててそう言うと、私が呼び止めるのも聞かずにさっさと帰ってしまった。


 これが、私の初恋だ。


 まだ叶っていない、現在進行中の初恋。

 いつかお近づきになれたらなあと思っていた。

 今日一緒に話したけど、やっぱり彼は私のヒーローだ。

「……どんな顔して明日会えばいいんだろう……」

 ふと現実的な難問が出てきたが、深く考えないようにした。

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