プロローグ
突然だが皆は幼馴染みという存在をどう思っているだろうか。
生まれて間もない頃から家族とは違う縁でよく一緒に居て、共に遊び成長し、やがて異性ならお互いに特別な気持ちを持ってゴールイン。わーめでたいめでたい。やっぱり彼らの出会いは偶然でなく必然だったんだ。
とはならない。
何故ここまで俺が断言できるかというと、実際に俺にも幼馴染みが一人いる。たまたま近くの家に住み、たまたま同じ幼稚園、小学校、中学校、高校となぜか偶然一緒になった。
だけど俺と彼女──一応幼馴染みは女である──はそんな漫画みたいな展開にはならない。
「おーい、待たせてごめーん!」
おっと、待ち合わせしていた幼馴染みが来たようだ。声の聞こえた方向を何気なく見てみると白いワンピースに身を包んだやや小柄な少女がこちらへと走ってきていた。彼女とすれ違った老若男女みんながみんな、彼女の可愛さと清楚さに目を丸くし、特に男性は鼻の下も伸びるほどスケベな目をしていた。
「ごめんごめん、ちょっと昨日いろいろ立て込んで寝坊しちゃってさ」
息をやや切らしながらその綺麗な黒いストレートのロングヘアーを揺らして俺の元へと来る。
そんな様子を見ていた周りの人間は先程とは別の意味で目を丸くしていた。まあ当然だろう、その美少女はあまりにも天に恵まれているとしか思えない外見だ。だが、彼女と待ち合わせをしていたらしき男──つまり俺はあまりにもはたから見れば天使のような彼女とは不釣り合いも甚だしい外見をしていた。
まず、黒いポロシャツに粗末なジャージ。こんな俺の部屋着のような服装はあまりにも恋人と出掛けるにはそぐわない。
しかも、最も目を引くのが目が全て隠れて口まで達するほどの茶色い髪の毛。見るからに清潔ではないし、引きこもりを連想させるような髪型である。おかげで目はすっかり隠れて、鼻もほとんどが隠れてしまい俺の表情を誰もうかがえない。
だが、当の彼女は特にそんな俺の見た目を気にすることもなく笑顔で話しかけてくる。
「それで、今日はゲームだっけ? 私もほしいのあったんだ~!」
「……そうかよ」
明るく振る舞う彼女とはこれまた対照的に暗さ極まりない様子で答える俺。今の態度にこの場を見ていた男性は残らず激怒するだろう。どうしてお前と出掛けるために精一杯見た目を整えた女の子の努力を無駄にするような行動をするんだ、恥を知れ! って具合に。
「それじゃ、行こっか!」
「おう」
元気はつらつな彼女の後を俺はポケットに手を突っ込んで付いていく。
これでいい。これでいいのだ。何故なら俺と幼馴染みの彼女は決して──
恋人とか友達とかそういう良好な関係ではないのだから。