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旅立つ君へ

作者: kii

 ある日の午後。俺は車に轢かれて死んでしまった。いや、正しくは死んでしまったらしい。どちらにしろ、死んでるんだけどね。

 ……なんで、自分が死んでるって分かったか。それは、ここが恐らく天国だから。

 と言っても、少なくとも俺が生前イメージしていた天国と、今俺が居るこの場所は微妙に差異があるのだが……。


「でも、さっきの人がここは天国って言ってたしなあ……」


 俺が想像していた天国というのは、雲の上に立つ街で天使達がキャッキャウフフしてる様な所だと思ってたんだよ。


 いねえよ! キャッキャウフフしてる全裸の天使ちゃん達が!!

 逆に居るのはウッホウホホしてる全裸の筋肉君達だよ! 汗に塗れて筋トレ中だよ!!


 と、雲の上にパルテノン神殿の様なギリシャちっくな建物が立っているという外観は想像通りなのだが、肝心の中身が180度逆だった。ああ、真っ逆さまだよ。

 まあ、仕方無し。天使ちゃんと会えないのはショックだが、俺の新たな人生がここから始まるんだ。死んでるけど。


「おっ、君が例の子か」


 唐突な背後からの凛々しい声に、俺は即座に振り向いた。

 目の前に立っていたのは、ぴっちぴちの日に焼けた茶色の肌に白い歯が眩しい筋肉君だった。いやー、惚れ惚れする。プルプルと震えそうな大胸筋に、硬さがありそうな腹筋、他、上腕二頭筋やらなんやら……筋肉だけで女を落とせそうだわ。


「神が君の事を探していたよ」

「神?」


 まあ、ここは天国だし神的なものも居るとは思っていたが。つか、神様が俺になんの様だろう……。


「おっと、神の場所を知らないんだよね」


 そう言って、茶筋肉君は踵を返し「こっちだ」と歩き始めた。

 ……まあ、信じるか。ここに居てもしゃあないし。大丈夫。この人は同性を性の対象としては見ないだろう。仮にも天使的なポジの人だろうし。

 と、俺はいつでも走れる様に構えながらその男の後をついて行った。






 道中、女の人を見かける事はなかった。もしかしたらと淡い期待を持っていたのだが……。

 さて、そんなこんなで俺と茶筋肉君は神の間へと到着していた。神の間、と言ってもそんな大層な場所では無く……つか、地下鉄のホームみたいな所だった。電車は走ってないが、今にもぽ〜んとチャイムが流れてきそうな、そんな雰囲気を醸し出していた。


「あの、急に現実に戻された感があるんですけど……」

「そうか? ここも同じ死界なのだがな……」


 死界。そうか、ここはやっぱり死後の世界なのか。


「で、神様はどちらに?」

「? もう目の前に居るぞ」


 目の前? と、俺は視界を前方にやり目を凝らしてみる。

 ん? 薄っすらと誰が立っている様な……。


「ワシじゃよ」


 あっ、見えた。つか、ここまで頑張らないと見えないのか。神様なのに空気って……。


「さて、オルトルス君。わざわざ済まなかったね。後でプロテインを上げよう」

「ありがとうございます」


 オルト……いや、つかプロテインかよ。まあ、ここの人たちにとっちゃこの上無い褒美だろうけどさ。


「さて、名も無き死人よ。先ずは詫びを言いたい」


 そう言うと、神様は「すまなかった」と俺に向かって深々と頭を下げた。

 すげえ。俺、人生で初めて神様に頭を下げられた。いや、もう死んでんだけどさ。


「顔を上げてください。そもそも、俺に対して一体どんな謝られる様な事をされたんですか?」

「……ワシは死罪でも償えぬ程の大罪を犯した」


 どんだけだよ。死んでも償えぬ、とか神様が言っちゃダメだろ。


「君は本来、まだ死ぬべきでは無かったのだ」

「えっ……」

「ワシにも把握出来てはおらんのだがな。君は何かの手違いで死んだ人間なのじゃよ」


 手違い? 手違いで死ぬものなの?


「あの、つまり俺はこの世界のミスで車に轢かれて死んだと?」

「そうなるな」

「それって、つまり人の死はここで決められているって事ですか?」

「うむ、そうじゃ」


 所謂、寿命って奴の正体がこれなのか?


「全てはバランスの元、成り立っておる。あの世とこの世。生界と死界。人の数のバランスを調整する為に、ワシら神々は『死』という概念に干渉しておるのじゃ」


 うーん、難しくなってきたな。えっと、つまり人は死んだらこちらに来て、またあちら、つまり生きた世界に生まれ戻るってかんじかな。つか、多神なんだな。


「まあ、俺が死んだのがミスというのは分かりました……けど、生き返れないんですよね」


 また、新しい個として生き返る……生まれ変わるなら可能なんだろうが。今の『俺』として生き返る事は出来ないんだろう。

 それでも、後悔はあるから。少しの希望を持って、俺はそんな事を言ったんだろう。


「すまんが、不可能じゃな」


 だろうな。そんな都合良くいくわけがない。


「じゃが、別の世界において君という個を持って生き返る事は可能じゃ」

「? それって、つまりどういう」

「つまり、『転生』じゃな」

「それは、生まれ変わる事とどう違うんです?」

「生まれ変わるという事はゼロからのスタートじゃ。じゃが、転生は環境を変えて再スタート、つまりコンティニューじゃな」


 神様がカタカナ使った。まあ、容姿こそ日本人だけど他国の死人も当然ここに行き着く訳だし、そこまでおかしくはないか。

 しかし、転生か……これは、創作物の香りがぷんぷんするぜ。


「今回はワシら側のミスじゃからな。転生先は自由に決めていい」

「色々あるんですか?」

「うむ。迷う程度にはある」


 へえ。つまり、ファンタジックな世界とかもあるわけだ。


「じゃあ、転生します」

「そうか。なら、これを」


 そう言って、神様は何処からか一冊の本を取り出し、それを俺に渡した。


「その書物に書いてある行きたい世界のページ番号を唱えれば、その世界行きの列車が到着する筈じゃよ」


 そう言って、再度「すまなかった」と頭を下げ神様は消えていった。

 ……なんか疲れたな。取り敢えず、座ってどんな転生先があるのか見るか。転職先見るような感じだな。まあ、まだ学生だし転職とかと無縁だけどさ。

 なんだろう。少しワクワクしてきた。全く、さっきまで死んでちょっと落ち込んでたのにさ。


 えっと、先ず1ページ目は…………。

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