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デュエット

「けどさ、なんで俺? 十年近く一緒にいてなんで今になって俺が好きなの? 俺と裕也って水と油って感じだろ? 」


 ソンミンの疑問は最もだ。俺たち十六歳の時にデビューしてずっと一緒にやってきた。嫌なとこもいっぱい知っている。メンバーだけにしか分からない苦労も一緒にやってきた。長くやってきた部活みたいなものだ。


「分かんないよ…… 気づいたら好きになってたんだ。……けど、きっと今だから好きになったんだと思う。大人になって色んなこと経験して、お互いの色が落ち着いてきたのもあるよ。


 ソンミンは野菜づくり始めて、すごく穏やかになった。もともとマイルドな性格だったのがさらに器が広がったっていうか。野菜のこと話している時の雰囲気が好きなんだ」


 うん、そうなんだ。ソンミンの包み込むような空気が好き。すごく心が温かくなる。


「俺、そんなマイルドじゃないよ。こだわり強いしさ」


「うん、そこも気になったひとつなんだ。以前、ソンミンは自分のこと好きじゃない、って言ったろ? あれに驚いたんだ。いつも穏やかで優しいのに何でそんなこと言うんだろって。俺に無いイイとこ沢山持っているのに。ものすごく努力家で、頭いいし、他人には優しいし…… それなのに、なんで自分のことが嫌いなんだろう、って」


「そんなの裕也はよく知っているだろ。俺が自分にストイックすぎて、本当はそれを他人にも求めたいのに出来なくて、自滅していってるの。そういうとこが嫌いなんだよ」


「けど、それはより良いものを作りたい、って向上心があるからだろ? 別にいいと思うけど。逆に俺なんていい加減すぎて、いっつもソンミンに怒られてたじゃん。よくケンカしたよな」


「うん。裕也と一番した。他のふたりは話通じるんだけど裕也だけは通じないんだ。何か別の世界の住人みたいだった。けど、今は分かる。裕也は全く違うから、面白いことが出来るんだなって。毎回カルチャーショックというか……最近はそれが快感になってきた」


「ほんと? 」

「ああ」

 自嘲気味にソンミンが笑った。


「今でもソンミンは自分のこと嫌い? 」

「さあ、どうかなあ…… 昔ほど嫌いじゃないかな」


「あのさ、自分のこと好きになれない自分、も認めたらどうかな? 」

「自分のこと好きになれない自分、を認める? 」

「うん」


 そうなんだ。自分に優しくするんだ。


「まず、自分だよ。『自分』を愛することが大事だよ」

「『自分』を愛する? どうするの? 」


「そのまんまの自分をぜーんぶ認めるんだ。現状に満足してない自分も、嫌なとこがいっぱいある自分も、そのまんまでいいんだ。つらい現実が受け入れられないんだったら、その現実を受け入れられない自分がいる、て認めるだけ」


「それで何か変わるの? 」


「変わる。すごくラクなるよ。あのね……死ぬまで一緒にいるのは『自分』だけなんだ。どんなツライ時も苦しい時も一緒にいてくれるんだよ『自分』は。あの世に行くときだって一緒に行ってくれる。そう考えたら、すごく愛しいと思わない? 」


 ソンミンが固まった。


「もう少し仲良くしようよ『自分』と。ソンミンは実際すごく優しいよ。そういった素敵な部分に目を向けないで、『自分』の出来ないトコに注目していっつも『自分』を責めてるんだ。そんなの『自分』が可哀相だと思わない? ずっと一緒にいてくれたのに? 」


 重大なことに気づいたみたい。ソンミンはだんだんと下を向いた。


「裕也」

 たまらなくなったように俺を抱きしめた。布団の上から。


「俺、裕也のことすごく好きになっちゃったよ。やっぱり裕也はすごい。俺には絶対思いつかないこと言う。けど、それが俺を救ってくれる。俺……なんてことしてきたんだ『自分』に。裕也の言うとおりだよ……もうちょっと……『自分』に優しくしてみる」


「うん。他人が褒めてくれる部分に意識を向ければいいよ。ソンミンなら優しい、とか、カッコいい、とか、情熱にひたむき、とか、癒し系とか、いっぱいイイとこあるんだもん」


「そんなの自分じゃ分からないよ。雑誌に書いてある長所なんでお世辞か本当か分からないんだ。裕也が言ってくれて初めてそうなんだ、て分かる」


「あーもう。そこまで『自分』と疎遠してたんだ。困った人ですね」

「ごめん」

 恥ずかしそうな顔したソンミン。うわっ、ものすごくかわいい!


「I Love You」

 ネイティブな発音で告げると、そのままオデコにキスしてくれた。もうだめじゃ……


 下から手伸ばして抱き寄せた。

 その先は

 夢の中……






 俺の風邪は二日ほど引きずっただけで、速攻治った。やはり愛のパワーに勝るものはない。


「あの歌って、俺たちの歌なんだよね? 」

 最終リハーサルを終えて、控え室で俺はソンミンに囁いた。


 彼はニヤって笑った。

「やっと分かってくれた? 」


「うん。♪僕が野菜を作って君が料理する♪? この間気づいたよ。ソンミンが作詞した時点で気づくべきだったよな……俺、ほんと鈍い」


「大観衆の前で歌っても気づかなかったらどうしようかと思った」

「すみません」


 そして俺たちは歌う。デュエットを。


 ♪ふたりの家に帰ろう、暖かい食卓、君が作るのはカブラのシチュー♪


(完結)




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