嬉しい告白
ソンミンがやってきて俺の額に手を置いた。ソンミンの手はひんやりして気持ちいい。けど、嬉しくて熱上がりそう……
「熱、あるね。冷やしたほうがいい。……水枕とかある? 」
「ない……けど、冷凍庫にアイスノンがある」
「分かった」
その後、ソンミンは俺の面倒をみてくれて、拓己は喉の湿布を作ったり(焼き塩ってのが効くらしい)、ネギのスープとおじやなんかを作ってくれた。買い物も行ってくれた。あーー、いい仲間を持って俺は幸せだ…… ありがとう、拓己、ソンミン。
…………て、フリッツは仕事だよね。うん、そうに決まっている。だってアイツ仲間はずれにされるの本当は嫌いなはずだからな。
結局、しばらくしてから拓己は帰っていった。ソンミンが帰したらしい。俺はぜんぜん気づかなかったけど、後からよく考えたらライブも近いのに、メンバー同士で風邪が感染ったら大変だもん。拓己が来てくれたのは、ソンミンひとりじゃ行動とりにくいって思ったからだ。ソンミンは、熱愛報道から記者に張りつかれていたから。
「今日はここに泊まるから」
ソンミンはそう言って俺のベッドの隣に、来客用の布団を敷いた。俺はすごく嬉しかった。ずっとそばにいて欲しかった。ソンミンに風邪が感染っちゃ悪いなあ、て思いもあったけど、その時は甘えたい気持ちがいっぱいだった。何よりヘロってたからな。
拓己の指示したように、焼き塩が冷めてきたら温め治して喉に当てる、ってのを、ソンミンはずっとしてくれた。それがかなり効いたんだ! もうビックリだよ。あと、頻回のウガイも。
「ソンミン何か話しして」
「話?」
「韓国は風邪ひいたらどうするの? 」
「えー……唐辛子料理食べる。辛いもの食べて汗出して治すんだ。でも、それは日本人には合わない。いちどやって大ブーイングだった。風邪治らないし、胃腸はヤられるし、次の日下痢した!ってものすごく怒られたよ」
ソンミンは笑った。あーかわいい。
「だから裕也の治療は拓己に任せたんだ。……面白いね、拓己の治療法も」
「あいつ中国人の乳母に育てられたらしいけど、この焼き塩もそうなのかな」
「さあね。けど、よくなってきたからよかったよ。……もう、眠りなさい」
そう言って俺のまぶたに手をのせた。もう、ドキドキだよ。彼への想いがいっぱいになった。
「ソンミンはA子さんと結婚するの? 」
「え? 」
のせていた手をはずす。目が合う。
「熱愛報道の彼女だよ」
「あれ、裕也信じてたの! 違うよ。あの子は韓国から来た親戚の子だよ。事務所もそう発表したろ? 実際、あの子だけじゃなくて、あの子のオモニ(母親)も泊まってたんだ。ホテルに泊まればいいのに、日本のマンションにどうしても泊まりたいって言ったから」
「えーーーそうだったの」
「そうだよ。俺は誤解を受けるから嫌だったんだけど、あっちは年長の親族の言うことは絶対なんだ」
「そうなんだ……」
自然、顔がほころんでくるのが分かった。そうか、そうだったのか…… A子さんは親戚の子だったんだ。
「裕也は分かりやすいね」
「え? 」
「今、ものすごく安心したろ? 」
図星。
「俺、そんな裕也が好きだよ」
意味不明。
いま好き、とか言いました? 俺、熱にうかされて幻聴が聴こえたんだろうか? それとも、この好きはペットとかに感じる好きってことかな?
この間、俺はソンミンとじっと見つめ合っていた。穏やかに微笑むソンミン。その瞳は温かくて優しくて愛にあふれている。
「メンバーとして好きってことだよね」
「もうちょっと好きかも」
「…………」
よく分からない。俺、こういった曖昧言葉ニガテ。ソンミン、日本人じゃないのに俺より日本語上手いからな。
「どれくらい好き? キスしたいくらい? 」
「うん」
背中が……ざわざわする。これ、悪寒じゃなくて嬉しい興奮?
顔が熱いよ、きっと頬が紅潮している。
ソンミンは俺の頬に手を当ててじっと見つめた。……これって……そういうことですよね? そういう『好き』ですよね?
目を閉じた。
軽く唇をつける。その後、ソンミンは軽く右、左、とずらしてキスしてくれた。
ゆっくり目を開ける。ソンミンのドアップ。綺麗な白い肌が目の前。
嬉しくなって彼の首に手を回して抱きついた。そのまま何度も口づける。
ああ…… 嬉しい……ずっと、ずっとこうしたかったんだ。
「裕也もうだめだよ。風邪ひどくなっちゃう」
「あ……」
その時、はじめてソンミンに風邪、感染ちゃったらどうしよう、って思い出した。俺、気づくの遅すぎ……
「ごめん、ソンミン。俺の風邪、うつっちゃう」
「そん時は裕也に看病してもらう」
「そりゃするけどさ、何でもするけど、ライブ近いのに……」
「大丈夫。……俺、いま、風邪ひく気ぜんぜんしないから」
ソンミンは笑った。うん、そうだね。俺もすごく幸せ。すぐに風邪も治りそうだよ。別の意味での微熱は続きそうだけど……
「ソンミンは俺のこといつから好きだったの? 」
「うーーん、分からない。いつの間にか好きになってた。最近、よく会うようになってからかな? だって裕也ってものすごいラブ・パワー送ってくるだろ? あれ気にならないほうがおかしいって」
「ラブ・パワー? そんなの俺送ってた? 」
「送ってた。すんごくキラキラした瞳で見つめられて『ソンミン好き好き』って直球だから避けきれないんだ」
ソンミンは照れくさそうに口に手をあてた。
分かりやすいほうだとは思っていたけど、それほどまでとは……
自分ひとりで隠しているつもりだったんだな。照れくさくて頬まで布団に顔をうずめた。
そういえば、フリッツも「ソンミンがいないからって、露骨すぎない? 」て言ってたな。あれってバレバレってことか。
「なんで裕也はそんなに素直なんだ、って戸惑ってしまったよ。どうやって付き合っていいかずっと悩んでいた。だって俺たちメンバーだろ? 恋愛して面倒な関係になったら困るじゃないか。もし上手くいかなくて別れたとしても仕事ではずっと一緒にやっていかなきゃならないんだよ」
「だから、なるべく俺もソンミンには普通に接しようってしてたんだ」
「あれで? あはははっ」
ソンミンはものすごくツボにはまったみたい。えーー、これも成功してなかった? ますます恥ずかしい。普通にしてたつもりなんだけど。やっぱ挙動不審だったんかな?
「ごめん……」
「そういう可愛いところが困る。結局、我慢できなくなっちゃった」
ソンミンは俺の頬を指でなぞった。優しく何度も。ああ、胸がいっぱいだ。
「俺は幸せだよ。いま、すごく。我慢してきたけどソンミンとキスできるほうが、やっぱり嬉しい。嬉しくて失神しそう」
ソンミンは苦しそうな表情をして目を閉じた。
「裕也、その言葉は凶器だよ、今の俺にとって。キス以上のこと我慢出来なくなってしまう」
そして大きく息を吐いた。
「もう休んだほうがいいよ」
「こんな状態で眠れるわけないだろ。やっと両思いになれたのに。すんげー幸せなのに」
「じゃ、話題変えて。俺が興奮しないような」
「うーーん……拓己にはバレてるかな」
「バレバレです」
「やっぱり? じゃ、社長も分かってるよね。うわ、どうしよう。メンバー間恋愛禁止、て言われたら」
「ふふ、あの社長がそんなこと言うとは思えないけど…… 仕事はキッチリやれ!って言うだろうな。そういうとこ裕也のほうが危ない。気持ちが表情に出やすいから」
うーー 俺の恋は前途多難だ、早くも。