その1
気がつくと俺は森の中に立っていた。
「へっ?」
まるでテレポートでもしたように、住宅街の景色はすっかりと変わっていた。
木漏れ日が不規則な網目模様の影を地面に落としている。鳥が鳴いた声が高く聞こえる。大気に染みている自然の匂いが鼻腔いっぱいに広がる。若々しい緑生い茂る森の中に俺はいた。
「なんだ・・これ」
理解ができなかった。何故こんなところに俺はいるのか。
家に帰る途中だったはずだが・・
きっかけすらわからないほど変化は唐突だった。
上着のポケットを探るが、不幸にも何も持ち合わせていなかった。
「いやこれはあれか夢遊病のようなここにくるまでの記憶がなくなったせいで瞬間移動したかのように思い込んでいるだけでストレスが原因の精神病かなんかだろうかそれか本当に周りが変わったのかそれとも・・」
問題を抱えたまま、知らない地に投げ出された心細さから、思わずブツブツと呟く。
湿気を含む軟らかい土の上に突っ立ったままだった。
1、2分ほど思考を整理したのち、結論を出す。
「こんなとこでじっとしていても仕方がない。とりあえず・・行動あるのみだな」
『成るように成る。為さねば何も成せぬ。』 とは俺の考え方だ。ずっとそうしてきたし、これからも変わらない生き方である。それにまだまだ長い人生の道中だが、経験から見て運は良い。
今まで、逆境にあっても逃げず行動を起こすと例外なく良い結果となった。
気持ちを入れ替え、「なんとかなるさ」とお気楽な気分で前で木々の間を歩いていく。
程なく歩いていると、先の木々の合間が明るくなっているのが見えた。
あそこから出られるか。
苦も無く、森を抜けた。
・・・
広大な草原が現れた。風が吹き、草木がたなびく。視界が広がるが、目前には人影も民家もない。自分の存在が小さく感じられ、圧倒された。そして、春の午後のような日差しが暖かく、風が心地よい。
そんな開放感に浸る間もなく、
「何者だ?!」
近くに、西洋風の甲冑をまとい、騎馬に乗った男が3人いた。
全く気がつかなかった。周りを見渡す必要などなかったからだ。
「答えろ!!」
同じ男が言った。
皆厳しい面構えをしており、腰には剣を収めた鞘を提げている。
中世?・・ファンタジー然とした騎士の格好。
俺は突然のことに思考が停止し、口をぽかーんと開けていたが、
やっと男たちから質問されていることに気付いた。
「何者といわれても・・」
俺は口を濁した。
頭から足まで完全武装した強面野郎に相対して、まともな受け応えなどできるはずがない。
「えーと・・・家に帰りたいだけ・・・なんだけど、その格好ってなに?なんなの?」
そう言いながら、思わず俺は後ずさりした。そのとき、彼らの眉がぴくりと動き、体に力が入り強張る。馬は持て余すようにブルブルと鳴いている。
「怪しいやつだな。もしかすると彼奴らの斥候かもしれん。マヌケ面の丸腰だからといって油断して逃すなよ。」
と一番身体の大きい男が言った。
その瞬間―――
俺は振り返り、疾走した。
息が詰まりそうになりながら森の中を全力で駈ける。
(何者だって? こっちのセリフだ!)
不定期更新です。至らない点多々ありますが頑張ります。
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