雨の郷愁 【月夜譚No.406】
掲載日:2026/06/14
教室で一人、雨の音を聴くのが好きだった。サァーという幕のような音の向こうで、生徒達の声や部活の練習の音がする。教室には一人なのに、遠くに誰かがいる感覚が彼女を何ともいえない気持ちにさせた。
それをぼんやりと耳にしながら、今日あった出来事や夕飯のメニューは何だろうかと考える。取り留めもないことを思い浮かべては雨と一緒に地に返し、また新たにどうでも良い思考を生む。
ただ、その繰り返し。それだけだというのに、こうすることで心の中が洗い流されていくような気がするのだ。
すると突然扉が開く音がして、はっと振り返る。
「あれ、電気も点けないで何してるの?」
そこに立っていたのは、奇妙そうな顔をした姉だった。
どうしてもう卒業したはずの姉がいるのかと思ってから、ここが学校ですらないことを思い出した。
「ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてて」
久し振りに帰省して学生時代を思い返す内に、知らず知らずあの頃の感覚をなぞっていたらしい。雨の日の思い出は、まだ鮮明に残っているようだ。
彼女は苦笑して立ち上がる。コンビニに行った姉から頼んでおいたアイスを受け取りながら、耳の奥ではまだ雨音が響いていた。




