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校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――目のない鳥「鴉」

作者: 小山らいか
掲載日:2026/05/16

 私は、フリーランスの校正者をしている。

 今日は火曜日。燃えるゴミの日だ。朝から、外ではカラスの声がうるさいほど響いている。前に何度がゴミの袋をつつかれ、家の前にゴミが散乱していた。彼らは天敵なのだ。

 カラスは非常に知能の高い鳥だという。人間でいうと6~8歳程度。赤・緑・青などの色も識別できる。記憶力もよく、自分に危害を加えた人間を何年も覚えているという(「恨み」という感情を持っているという記事も目にした。何ともおそろしい)。以前、クルミをわざと車に轢かせ、中身を食べているのをテレビで見たことがある。

 カラス対策を考えた。調べてみると、カラスはハチドリのようなホバリングはできないらしい。そこで、ゴミ袋にかぶせるタイプのネットではなく 折り畳み式のメッシュの箱に変えてみた。これなら空中で止まれない限りつつけないはずだ。けたたましい鳴き声を聞きながら、小さくガッツポーズ。ふん。そう簡単に負けてたまるか。

 ちなみに、カラスを表す漢字には「烏」「鴉」の2つがある。「烏」のほうは「鳥」のよこぼうが1本少ない形。これは、体が真っ黒で目の位置がわからないことから、目にあたるよこぼうをなくすことでカラスを表した象形文字だ。一方「鴉」のほうは形声文字。新漢語林によると、「牙」の部分は「ガア」というカラスの鳴き声を表している。カラスは数十種類の鳴き声を持ち、仲間とのコミュニケーションにも使用しているらしい。

 鳴き声=言葉をコミュニケーションに使う鳥はほかにもいる。

 中学生の教科書に「『言葉』をもつ鳥、シジュウカラ」という素材文がある。以前教材の校正で扱ったものだ。シジュウカラのひなや卵を狙う天敵にはカラスやネコ、ヘビなどがいて、これらに対し親鳥は鳴き声で威嚇する。通常は「ピーツピ」と鳴くのに対し、ヘビにだけは「ジャージャー」と鳴くそうだ。筆者である東京大学准教授の鈴木俊貴さんは、この「ジャージャー」は「ヘビ」をあらわす単語なのではないかと仮説を立て、さまざまな実験をしながら検証していく。特定の鳴き声=言葉が、ただの警告音ではなく「単語」であるという発想がすごい。興味深い内容だったので、昨年出版された著書を買ってみた。『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)。もちろん、すぐに読む(つもり)。内容については、いつか触れてみたいと思う。

 私はいま、漢字能力検定の受験対策の本の校正を担当している。

 先ほどの「烏」は漢検では準1級で、部首は「火部 (れっか)」。「鳥」が「鳥部」なのになぜ「烏」が鳥ではないのか。たしかにぼうが1本少ないので、厳密に言うと「鳥」ではないのだが。部首の分類はときに理解不能だ。たとえば「酒」もそう。さんずいでしょ?と思っていたら、部首は「酉 (ひよみのとり)」。「酉」は酒の入ったつぼをあらわす象形文字で、酒類や発酵食品などに関する文字につく。「間」の部首は「もんがまえ」なのに、「聞」の部首は「耳」。「裕」は「ころもへん」だが、「初」の部首は「刀」。漢検には部首の問題ももちろん出てくるが、こうなると法則も何もないと思えてくる。やっぱり、ひたすら覚えるしかないということだろうなあ。

 ふと気になって、「鳥」に関係する字を漢検の級で探してみた。次のような漢字がある。


※準1級……「はと」「とんび」「とき」「かも」「しぎ」「」「うぐいす」「かもめ


 ひらがなを示されて漢字にせよと言われたら難しいが、漢字を見れば何となく名前が浮かぶものが多いと思う。「鴇」は「朱鷺」のほうが多少なじみがあるかも。

 これが1級になると次のようになる。


※1級……「鵲」「翡」「鵙」「鵥」「鶫」「鸛」「鶻」「鶩」 


 あえてルビをつけずに並べてみた。どうだろうか。私にはまったく読めなかった。正解は順に、「かささぎ」「かわせみ」「もず」「かけす」「つぐみ」「こうのとり」「はやぶさ」「あひる」。およそふつうの生活では目にすることのない漢字だ。ちなみに「鴉」も1級。1級を目指す方はこれを書けるように勉強しているということだ。すごいなあ。もはや修行に近い。1級の出題範囲はなんと約6000字。

 先ほど登場したシジュウカラは漢字で「四十雀」と書く。1字で表す漢字がないか探してみたが、見当たらず。この漢字から、松尾芭蕉はシジュウカラをこのように詠んだ。


「老いの名の ありとも知らで 四十雀」

  

 当時でいうと、四十は初老。老人の名がつけられていることも知らないで、のんきに歩き回っている、という句だ。「初老」は広辞苑では「40歳の異称」とあった。平均寿命の延びた現代ではさすがに40歳で初老は早すぎる(ここは、力をこめて言いたい)。新明解では「もと40歳の異称。現在は普通に60歳前後を指す」とある。さらに、こんな記述も。

「肉体的な盛りを過ぎ、そろそろからだの各部に気をつける必要が感じられるおよその時期」

 余計なお世話です、新明解さん。まあ、気をつけるところは多々ありますが。

 そろそろ、ゴミの回収が終わった時間だ。外に出て、空になった箱を回収。被害はなし。カラスたちは相変わらず騒がしい。仲間どうしで「今日は収穫なし」とでも話し合っているのか。もしや、餌を奪う人への「恨み」を訴えていたりして。


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― 新着の感想 ―
準一級は、中には書けるものもあり、全て読めますが、一級ともなるとさすがに分からないものですね。 言われてみれば……な感じがしました。 カラスに目がないから烏という漢字というところで、黒猫の目も眠ってい…
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