解剖される神秘
【注意・免責事項】
※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。
※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。
※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。
カイル・ヴァン・ブレイズは、自らが死後の領域に迷い込んだのだと確信していた。
窓のない白い部屋。 天井から降り注ぐ、太陽よりも冷たく不自然な光。 そして、自分の体に張り巡らされた、奇妙な色の細い紐と、時折肌を刺す金属の針。
カイルの故郷、アステリア王国では、魔法は精霊や神の慈悲であった。 しかし、この「ソビエト」という国の者たちは、魔法の残滓が残る自分の肉体を、まるで一頭の家畜を解体するように、無機質な機械で隅々まで測定し続けていた。
部屋の外には、あの地獄のような戦場で自分を救った「異形の騎兵」たちが立っている。 彼らが交わす言葉は、カイルには奇怪な呪詛にしか聞こえなかった。
「Товарищ、показатели、стабильны?」 「Да、магическое、излучение、в норме。|Продолжайте《監視を》、наблюдение」
(……この者たちは、一体何を望んでいるのだ。私の魔力を枯渇させ、魂を奪うつもりか?)
カイルは寝台の上で、拘束されていない方の拳を握りしめた。 恐怖と孤独がカイルの精神を削りかけていた、その一週間後のことだ。
一人の白髪の老人が、部屋に現れた。 他の者たちがカイルの「数値」しか見ていない中、その男だけは、カイルの「目」を真っ直ぐに見た。
老人は、カイルの前のテーブルに一枚の硬い紙を置いた。 そこには、一点の石の絵と、その横に一つ、また一つと点が描き加えられていた。
「……Один」
老人が一点を指さして言う。低い、喉を鳴らすような音だ。
「……Два」
二点を指さす。 カイルは最初、それを呪文の一種だと思った。だが、老人は毎日やってきた。時にはパンを、時には水を差し出し、それを指差して同じ音を繰り返した。
二週間が経つ頃、カイルの視界は変わり始めた。
(……いや、これは実験ではない。彼らは、私から何かを奪おうとしているのではない。……私の『言葉』を探しているのだ)
カイルは、ある日、老人が持っていたチョークを借り、テーブルに魔法の根源たる「マナ(魔導素)」の循環図を描いた。 そして、自分の心臓を指差し、次に部屋の隅に置かれた、あの忌まわしい「魔物の石(魔石)」を指差した。
「……マナ」
カイルが弱々しく、だがはっきりと口にすると、老人の目が、電球が灯ったように輝いた。
「……Мана?」
老人はカイルの顔と図を交互に見て、唸った。
「Энергия……?」
次の瞬間、老人は振り返り、マジックミラーの向こうにいる仲間たちに向かって叫んだ。
「Товарищи! Вы、слышали、это!?」
老人の興奮した声が響く。
「Он、выразил、концепцию! Мы、нашли、общий、язык!」
カイルには意味など分からない。 だが、その老人の歓喜に満ちた表情を見て、カイルは初めて、この冷たい部屋で安堵の息を漏らしたのだった。
***
それからの三週間目は、怒涛のような情報の洪水だった。
カイルは驚くべき速度で、この世界の者たちが「Наука」という名の、魔法に頼らない知恵の体系を持っていることを理解した。彼らは火を熾すのに呪文を唱えず、ただ「Горение」という理を操る。 同時に、ソ連の言語学者たちはカイルの母国語の文法構造を解体し、数学の公式を媒介にして、複雑な抽象概念の翻訳に成功していった。
「Товарищ、Кайл」
通訳を介して語りかける学者の顔は、疲労で土気色だったが、その目は異様な熱を帯びていた。
「Мы、хотим、извлечь……『Ману』、из、этого、камня」
片言ながらも、意志は通じた。 彼らは、魔石からマナを取り出したいのだ。
「Наши、танки、не、двигаются」
学者は窓の外を指差した。 そこには、一ヶ月前よりもさらに「変異」が進んだソ連騎兵たちが、模擬戦を行っていた。彼らの振るうサーベルは、もはや物理的な刃ではなく、紫色の雷を纏う「魔剣」へと変わりつつあった。
カイルは、自分の国を滅ぼしかけている魔物の群れを思い出した。あの絶望。 そして今、目の前にいる、鉄の規律と狂気的なまでの知性を持つ、この「ソビエト」という名の巨大な集団。
(もし、彼らの『カガク』と、我らの『マホウ』が混じり合えば……。それは、神をも畏れぬ軍勢になるのではないか)
カイルは決意した。 この鋼鉄の国に、魔法の神髄を教えることを。 それが、自分の世界を救う唯一の道であり、同時に、この世界に「新たな怪物を解き放つ」ことになると予感しながらも。
「……教えよう」
カイルは、たどたどしいロシア語で、だが明確に告げた。
「石を……持ってこい。……術式の書き換えを、始める」
その瞬間、エカテリンブルクの研究施設にとって、救出された騎士カイルは「客」ではなくなった。 彼は、国家の存亡を左右する最高機密の**「生体サンプル」にして「教師」**となったのだ。
***
一九八X年十一月下旬。 エカテリンブルクの地下、かつての核シェルターを改造した「第22臨時特別研究所」は、不夜城と化していた。
白衣を着た科学者たちは、もはや「唯物論者」としての冷静さを失いつつあった。彼らの前にあるのは、一人の異世界の騎士カイルが指先から生み出す、物理法則を嘲笑う現象の数々だった。 だが、ソビエトの知性は、それを「奇跡」として拝むことを拒絶した。彼らはそれを「解明すべき関数」として扱い、膨大な測定機器の海に沈めたのである。
「……マナ(魔素)と呼称される未知の素粒子について、第一段階の報告を。セルゲイ・イワノフ教授、頼む」
ヤゾフ国防相の鋭い視線の先で、若き物理学者が黒板に向かった。 そこには、キリル文字と、カイルから聞き出した異世界の術式紋様が混ざり合った、狂気じみた数式がびっしりと書き込まれていた。
「マナ。これは従来の四つの基本相互作用――重力、電磁気力、強い核力、弱い核力――のすべてに関与しつつ、そのどれとも異なる第五の力です」
イワノフは、カイルが「火よ(イグニス)」と唱えた際の録音波形と、その瞬間の空間密度の変化をグラフで示した。
「最大の特徴は、この粒子が『観測者の意思(特定の音波振動と神経電気信号)』に反応し、物理定数を局所的に書き換えるという点にあります」 「……続けてくれ」 「見てください。呪文とは、単なる祈りではありません。特定の音節、特定の周波数、そして特定の『抑揚』によって、大気中に遍在するマナを特定の幾何学的構造へと凝集させる**プログラミング言語**です」
イワノフはチョークを走らせる。
「カイル同志の喉は演算装置であり、発せられる言葉は、宇宙の物理エンジンに対する『割り込み命令』なのです」
会場に戦慄が走った。 魔法とは、神話の神秘ではなく、極めて数学的な論理体系だったのである。
言語学チームは、カイルの母国語の文法構造を解析し、それが「マナを励起させる命令文」として完璧な論理整合性を持っていることを突き止めた。彼らは、コンピュータのパンチカードに穴を開けるように、異世界の言葉を「物理現象を制御する関数」として分類していった。
さらに研究は、物質の「魔導的変質」という核心へ踏み込む。 魔石から抽出したエネルギーを鋼鉄に照射した際、電子顕微鏡が捉えたのは、原子配列が「物理的な限界を超えて整列する」という異常事態だった。
「魔力を浴びた物質は、その結合エネルギーが指数関数的に増大します。我々が騎兵の『魔剣』と呼んでいたものは、原子レベルで結合が強化され、摩擦係数がゼロに近づいた、**超物質**なのです」
だが、その強大な力の代償もまた明らかになった。 魔力は「確率」を歪める。電子が回路の中を流れるという確実な事象を、魔法の論理が「別の場所へ移動させる」という確率に変えてしまうのだ。これが、ゲート付近でソ連のハイテク戦車が沈黙した真相だった。
「つまり、我々の世界と彼らの世界では、OSが異なるのです。我々の戦車は、魔法というOSが支配するゲート周辺では、無効なコマンドとして処理され、フリーズしてしまった。ならば……」
イワノフは、手に持っていたチョークを折り、強く黒板に叩きつけた。
「……我々がすべきは、OSの書き換え(エミュレーション)です」
彼は拳を握りしめた。
「戦車のエンジンそのものを魔法の論理に対応させ、砲弾に呪文のコードを物理的に刻印する。科学の力で魔法を『模倣』し、逆に魔法を科学の枠組みで『管理』する。……名付けて、『魔導社会主義的唯物論』」
研究所の壁に貼られた「科学こそが人類の解放者である」というプロパガンダのポスター。 その下で、ソ連の知性は、古の神々が独占していた「創造と破壊の権能」を、冷徹な科学の言葉で解体し、再定義していった。
***
会議室の隅で、包帯を巻き直したイワン二等兵が手を挙げた。 彼はカイル発見の功績でここに呼ばれていたが、その体からは微弱ながら魔力の燐光が立ち上っていた。
「……同志セルゲイ。その、……『マギ・ソヴィエト』の力。……完成すれば、あのオークを倒せるのか?」
セルゲイ・イワノフは、冷たい笑みを浮かべて答えた。
「倒すだけではない、イワン同志。……我々は、あの門の向こう側にある物理法則そのものを、ソビエトの赤旗で染め上げることになる
※前半のキリル文字部分には、翻訳ルビを振っています。 次回、第8話。 魔導兵器工場の稼働と、兵士たちの「改造」が進みます。
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