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プラスチックの毒と枯れた農地

【注意・免責事項】

※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。

※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。

※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。

一九九三年、初夏。  ソビエト連邦との国交樹立から三年が経過した、ガリアナ大帝国。  その帝都ウィンドボナのメインストリートは、建国以来かつてない「毒々しい色彩」に溢れていた。


 石造りの重厚な街並みとは不釣り合いな、赤や青、蛍光色の原色が露店に並んでいる。  ソビエト連邦から輸入された「プラスチック製品」だ。  軽くて割れない食器、腐らない合成繊維の衣服、そしてバケツで売られる安価で度数の高い蒸留酒ウォッカ


 市場は異様な活気に満ちていた。人々は新しい時代の到来を喜び、ソ連製の安物を買い漁っている。表面的には、帝国は空前の「好景気」に沸いているように見えた。  だが、その繁栄は、末期がん患者が見せる死の直前の輝き(ラスト・ラリー)に似ていた。


1.悪貨は良貨を駆逐する

「おい、親父。酒だ、いつものやつをくれ」


 場末の酒場に入ってきたのは、帝国軍団の百人隊長ケントゥリオ、ガレリウスだった。歴戦の古傷が残る顔には、深い疲労と苛立ちが刻まれている。  店主は眉をひそめて、カウンターを指先でコツコツと叩いた。


「ガレリウスさんよ。悪いが代金は先払いだ。それと、昨日の値段じゃ売れねえぞ」 「なんだと? 一昨日、値上げしたばかりだろう!」 「知るかよ。今朝、小麦の相場がまた上がったんだ。パン一個買うのに、今じゃ銅貨が手押し車一杯に必要なんだぞ。……この国じゃ、物の値段は上がる一方で、金の価値は下がる一方だ」


 ガレリウスは舌打ちをして、腰の革袋からジャラジャラと硬貨を取り出し、カウンターにぶちまけた。  ガシャ、ビシャ……。  鈍く、濁った音。かつてのような、銀が含まれた澄んだ金属音ではない。  帝国の金貨・銀貨は、ここ数年で見る影もなく劣化した。銀メッキが剥げ、赤茶色の地金が見えているものさえある。


 ――原因は、あの「好景気」だ。  ソ連からの大量の輸入品を決済するため、そして公共事業と軍事費を賄うため、帝国政府は禁じ手を使った。  国内の金山・銀山が枯渇したことを隠し、貨幣に含まれる貴金属の比率を極限まで下げた、混ぜ物だらけの「悪貨」を大量に鋳造したのだ。


 市場には質の悪い貨幣が溢れ返り、信用を失った通貨ガリア・デナリウスの価値は暴落。ハイパーインフレーションが市民の生活を直撃していた。


「……ちっ、これで文句ないだろう」 「へいへい。どうぞ、ソ連製の特級酒だ」


 ドン、と置かれたのは、素焼きのマグカップではなく、軽く、安っぽい手触りの**「プラスチックのコップ」**だった。  中身は水のように透明な液体。  ガレリウスはそれを喉に流し込む。強烈な化学的な酒精が胃を焼く。帝国の伝統的な葡萄酒やエールは、今や貴族しか飲めない高級品となり、庶民の口には入らない。代わりにこの工業用アルコールを薄めたような酒が、憂さを晴らす唯一の娯楽となっていた。


 酒場を見渡せば、昼間から飲んだくれている男たちで溢れている。  彼らはかつて、帝国の誇るべき「職人」たちだった。  だが、ソ連製の安価で品質の安定した製品が流入したことで、伝統的な手工業ギルドは壊滅した。職を失った彼らは、こうしてソ連製のコップで、ソ連製の安酒に溺れるしかない。


「腐ってやがる……」


 ガレリウスは独りごちて、コップを握りつぶした。  腐っているのは酒ではない。この国そのものだ。


2.帝国の背骨が折れる時

 数日後、ガレリウスは休暇を取り、故郷の村へと戻った。  彼の実家は、代々帝国に忠誠を誓う「自由農民」だった。自前の装備を整え、有事には軍団の中核として戦う、帝国の背骨とも言うべき中産階級だ。


 だが、村に広がっていたのは、荒れ果てた農地と、所有者の変わった看板だけだった。


「……嘘だろう」


 実家の扉を叩くと、出てきたのは見知らぬ男だった。疲れ切った顔をした小作人だ。  話を聞けば、父親は半年前に土地を手放したという。


「何もかもが高くなりすぎたんだ。鍬も、肥料も、税金も……。それなのに、肝心の作物の値段は、ソ連から入ってくる安い穀物のせいで暴落しちまった」


 男は地面に唾を吐いた。 「東の国じゃ、魔法の鉄牛トラクターと薬(化学肥料)を使って、麦を山のように作ってるらしい。そんなもんが大量に入ってきたら、俺たちみたいな手作業の農家が勝てるわけがねえ」


 物価コストは上がるのに、農作物の売値だけが下がる。  その歪みに耐えきれず、父親は借金で首が回らなくなり、土地を安値で『大農園ラティフンディア』の主に売り払ったのだという。


「親父さんは今、王都のスラム街で日雇い労働をしてるはずだ。……あんたも軍人なら知ってるだろう? 今の帝国に、真面目な農民の居場所なんてねえよ」


 ガレリウスは膝から崩れ落ちそうになった。  土地を失った農民は、もはや兵士としての重装備を自弁できない。つまり、帝国軍団レギオンを支えてきた質の高い兵士の供給源が、根こそぎ断たれたことを意味していた。


3.銃口は誰に向くのか

 一方その頃、国境付近の属州総督府。  総督の執務室には、帝都の腐敗とは無縁の、奇妙な熱気が満ちていた。


「素晴らしい……! これなら、蛮族どもはおろか、中央の重装歩兵すら鎧ごと撃ち抜けるぞ!」


 肥え太った総督が、赤ら顔で撫で回しているのは、木箱から取り出されたばかりの武器――フリントロック(火打石)式のマスケット銃だった。


 ソ連本国では博物館にしかない代物だが、近代的な冶金技術でプレス生産されたこの銃は、この世界では「雷を操る魔法の杖」に等しい。  その向かいには、目立たない灰色のスーツを着た男が座っている。アステリアから来た「商人」を名乗る、ソ連KGBの工作員だ。


「総督閣下。この『新型火縄銃』は、我が国が特別に輸出した最新モデルです。雨にも強く、暴発もしない。何より、農民でも半日訓練すれば扱えます」


 工作員は、表情一つ変えずに嘘をついた。  ソ連兵が持つ自動小銃(AK-74)に比べれば、この先込め式の銃など何世紀も遅れたガラクタだ。  だが、あえてこのレベルの武器を渡すのには理由がある。帝国の剣や槍には勝てるが、将来的にソ連軍と敵対しても、戦車や自動小銃の前では無力だからだ。  生かさず殺さず。管理された暴力だけを提供する。


「帝都からは『金がない』『兵がいない』の一点張りでしょう? 反乱が起きているというのに」 「ああ、その通りだ! 中央は見捨てられたも同然だよ!」


 総督は憤慨して叫んだ。  経済の混乱は地方にも波及し、食い詰めた農民や、ソ連製品に仕事を奪われた異民族による暴動が頻発していた。


「ご安心ください、閣下。この銃と、我が国の資金援助があれば、中央の頼りない軍団を待つ必要はありません。自分の領土は自分で守る……それが新しい時代の領主のあり方です」 「私だけの、兵……」


 総督の目に、野心の光が宿る。  中央が機能しないなら、自分がこの地の実力者になればいい。この強力な武器があれば、隣の州を併合することさえ容易い。


「……いいだろう。貴国との友好関係を、さらに深めたいものだな。代金は、鉱山から出た鉄でいいか?」 「ええ、喜んで」


 総督は、マスケット銃を愛おしそうに抱きしめた。  工作員は、表情を変えずに小さく頷く。


 こうして、帝国各地で**「軍閥」**が産声を上げた。  彼らがマスケット銃の銃口を向ける先は、今は反乱軍かもしれない。だが、いずれその黒い筒先は、求心力を失った帝都へと向けられることになるだろう。


 ソビエトの安価な商品は、帝国の経済を破壊した。  ソビエトの安価な武器は、帝国の統治機構を破壊した。    銃弾一発撃つことなく、大国ガリアナは内側から溶解し始めていた。


第六章 第一話:後世の注釈 『ガリアナ大帝国の崩壊は、外敵によってではなく、スーパーマーケットの棚から始まった。  ソ連からもたらされたプラスチックとインフレは、帝国の中間層を解体し、社会の接着剤を溶かしてしまったのである。歴史上、これほど効率的で、静かなる「侵略」は類を見ない。』(二〇三四年刊:『次元を超えた赤い足跡 ― 魔導ソ連初期史』より抜粋)

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