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コスト対効果の地政学

【注意・免責事項】

※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。

※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。

※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。

一九九〇年、四月上旬。  魔王討伐から数週間。  世界中の国々が、「次は自分の国があの『太陽の魔法』で蒸発させられるのではないか」という根源的な恐怖に震え上がり、城壁の補強や軍の再編に躍起になっていた頃。


 当の震源地であるアステリア方面軍司令部では、世界を拍子抜けさせるような、極めて事務的で、熱気のない会議が行われていた。


1.温度差のある会議室

 大会議室のテーブルには、軍事侵攻作戦図ではなく、分厚い予算決算報告書と電卓、そして数本のウォッカの瓶が乱雑に置かれていた。  タバコの煙が充満する中、司令官のヴァシリー大将は、モスクワのゴスプラン(国家計画委員会)から派遣された経済官僚の報告を聞きながら、大きな欠伸を噛み殺した。


「……というわけで、同志司令官。モスクワの党中央委員会からの指令は明確です。『これ以上の軍事支出は1コペイカたりとも認めん』と」


 経済官僚は、冷徹に銀縁眼鏡を光らせ、電卓を叩いた。 「魔王討伐で期限切れ間近の弾頭を在庫処分(核攻撃)したことで、確かに弾薬管理コストは下がりました。しかし、アステリア領内のインフラ整備には天文学的な予算が必要です。これ以上の戦線拡大は、ソ連経済にとって致命的な『赤字』となります」


「ケチくさい話だ。モスクワの連中は、我々が補給なしで戦えるとでも思っているのか?」  ヴァシリーが不満げにウォッカを煽る。  官僚は眉一つ動かさずに答えた。 「補給がないから進むなと言っているのです。同志、我々は解放者ですが、慈善事業団体ではありません。投資に見合うリターン(資源)がなければ、戦車を動かすガソリン代も出ませんよ」


 ヴァシリー大将は肩をすくめ、空になったグラスを置いた。 「……世知辛い話だ。外の連中は我々を『破壊神』か何かだと思っているが、実態はそろばんを弾く『土建屋』というわけか」


 ここで、ソ連軍の基本方針が確定した。  「アステリア一国平和主義」。  獲得した領土の開発と資源搾取が最優先であり、周辺国への軍事侵略など、面倒で金のかかる「道楽」に過ぎなかったのだ。


2.エルフ領:遠すぎる理想郷

 まず議題に上がったのは、海を隔てた西方大陸北部、「聖エルヴヘイム氏族連合」への対応だった。


「政治将校からは、北方のエルフ領へ侵攻し、虐げられた人間種を解放して『革命』を輸出くすべきとの意見が出ていますが」


 作戦参謀が、地図上の青い海を指差して首を横に振った。 「軍事的には可能です。奴らの飛行戦艦など、我が空軍の敵ではありません。ですが……兵站ロジスティクスが破綻します」 「理由は?」 「海です。我々には、海を越えて師団規模を輸送し、維持するための輸送艦隊がありません。揚陸艦を建造する予算も時間もない」


 さらに、資源担当の技官が追い打ちをかける。 「それに、行くメリットがありません。エルフ領にあるのは森と山だけです。木材ならアステリアの未開発地域に腐るほどありますし、希少金属レアメタルの鉱脈もこちらの方が有望です。わざわざ高い船賃を払ってまで、閉鎖的な森へ出向く経済的合理性が皆無です」


 ヴァシリー大将は即決した。 「結論は出たな。森の奥の差別主義者どもにかまっている暇はない」


 決定事項:「完全放置」。  国境である海岸線に最低限の監視哨を置くだけで、外交関係も結ばず、無視を決め込む。彼らが森の中で腐っていくのを、高みの見物とすることに決まった。


3.帝国領:大きすぎるパイ

 続いて、最大の懸案事項である西方「ガリアナ大帝国」への対応に移る。  こちらは陸続きであり、最大の仮想敵国だ。


「では、隣接する帝国はどうしますか? 軍の一部強硬派からは、彼らが混乱している今こそ攻め入り、西部の穀倉地帯を奪うべきとの声もありますが」


 情報参謀のオルロフ少将が、ドサリと音を立てて分厚いレポートをテーブルに投げ出した。 「反対です。帝国はデカすぎます。人口はアステリアの三倍、しかも数十の異なる言語と宗教を持つ民族を抱える、モザイクのような多民族国家です」


 オルロフは、まるで汚いものを見るように顔をしかめた。 「軍事的に勝つのは簡単です。T-80で帝都ウィンドボナまでドライブすればいい。ですが、その後の**『統治コスト』**を考えてください。  広大すぎる占領地の治安維持、破壊したインフラの再建、そして必ず発生する民族紛争の仲裁……。たった数州の穀倉地帯を得るために、泥沼のゲリラ戦に付き合うつもりですか? アフガニスタンの悪夢を、この異世界で再現したいと?」


「……食料事情についてはどうだ? 帝国を奪わねば飢えるか?」 「いいえ。アステリア国内の農業集団化コルホーズが順調です。化学肥料とトラクターの導入で、来年には食料自給率が二〇〇%を超えます。これ以上、他国の農地を奪う必要性もありません」


 ヴァシリー大将は深く頷いた。 「巨大すぎるパイは、食っても腹を壊すだけか」


 決定事項:「武力侵攻の凍結」。  割に合わない(コストパフォーマンスが悪い)。それが、世界最強の赤軍が帝国に進撃しない、唯一にして最大の理由だった。


4.経済という名の毒ガス

「では、帝国とは仲良く手を繋ぎますか?」  ヴァシリー大将の問いに、KGB議長代理として出席していた男が、薄ら寒い笑みを浮かべた。


「いいえ、同志将軍。銃は使いませんが、殺します」


 彼は鞄から、一着のシャツと、一本の瓶を取り出した。  化学繊維で作られた、色鮮やかだが安っぽいシャツと、工業用アルコールに近い安価なウォッカである。


「帝国は、産業革命前夜の手工業ギルドによって経済が回っています。職人が手作業で服を織り、剣を打ち、高い値段で売っている。……そこへ、こいつらを流し込むのです」


 ソ連の新戦略。それは**「経済戦争」**だった。  アステリアの工場で24時間体制で大量生産される、品質が均一で、驚くほど安い工業製品。これを「友好の証」として、帝国の市場へダンピング(不当廉売)輸出するのだ。


「帝国の職人は、我々の価格競争には勝てません。1着の服を織る間に、我々は100着のナイロンシャツを作れます。  結果、帝国のギルドは壊滅し、手工業に依存していた地方都市や少数民族は失業し、貧困に喘ぐことになるでしょう」


 男は楽しげに、残酷な未来図を語った。 「貧困は憎しみを生みます。職を失った民衆の怒りは、無能な帝国政府へ、あるいは豊かな隣人(他民族)へと向かう。  我々はただ、安物を売りつけながら、対立を煽るだけでいい。……帝国は内側から腐り、分裂し、二度と我々の脅威にはなり得なくなります」


5.結末:外交官の鞄

 数日後。帝国とソ連の国境検問所。  緊張した面持ちで待ち構える帝国の近衛騎士団の前に、一台の黒塗りの公用車ジルが現れた。


 降りてきたのは、武装した兵士ではなく、仕立ての悪いスーツを着たソ連の外交使節団だった。  帝国の騎士団長は、彼らが武器を持っていないことに安堵し、剣を収めた。


「ようこそ、ソビエトの使節殿。我がガリアナ大帝国は、平和的な対話を歓迎する」 「ええ、我々もです。未来への発展的な関係を築きましょう」


 ソ連の外交官は、人好きのする笑顔で握手を交わした。  その手に握られた鞄の中には、平和条約の草案ではなく、数千種類の安価な工業製品が載った**「商品カタログ」と、帝国の経済を絞め殺すための「通商協定書」**が入っていた。


 その光景を後方で見ていたカイル書記長は、独りごちた。


「……帝国の騎士たちは知らない。  戦車よりも、核ミサイルよりも恐ろしい『毒』が、今、笑顔と共に国境を越えようとしていることを」


 魔王がいなくなった世界で、銃声のない、しかし最も残酷な侵略が始まろうとしていた。


 (第五章「魔王討伐作戦」・完)


第五章 第十話:後世の注釈 『一九九〇年に締結された「ソ連・ガリア通商条約」は、帝国にとってのトロイの木馬であった。  雪崩のように流入したソ連製の「ナイロンとプラスチック」は、帝国の誇り高い職人文化をわずか数年で駆逐し、後の「大帝国解体戦争」の遠因となったのである。  歴史家はこう記す。ソ連はミサイルで魔王を殺し、安売りで帝国を殺した、と。』(二〇三四年刊:『次元を超えた赤い足跡 ― 魔導ソ連初期史』より抜粋

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