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カイル書記長の沈黙

【注意・免責事項】

※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。

※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。

※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。

一九九三年。  アステリア社会主義共和国の最高指導者、カイル・アステリオス書記長の朝は早い。  だが、それは小鳥のさえずりや、寝室に差し込む柔らかい陽光と共に始まるのではない。  モスクワからの専用回線テレタイプが吐き出す、無機質な指令書の紙音とインクの匂いと共に始まるのだ。


1.黄金の鳥籠

 かつての王城、現在は**「共和国人民宮殿」**と呼ばれる建物の最上階。  主を失った玉座は撤去され、代わりに機能的な事務机と赤い電話が置かれた執務室には、今日も山のような書類が積み上げられていた。


 「第14重工業区画の生産ノルマ未達に関する報告書」  「反動的魔導書の焚書リストおよび回収状況」  「北方開拓地への亜人種強制移住計画書(承認待ち)」


 カイルは黙々と、その一枚一枚に目を通し、サインをし、承認印スタンプを押していく。  ガチャン、ガチャン。  静かな部屋に、乾いた音だけが響く。


「……同志書記長、ペンの動きが止まっていますよ」


 部屋の隅、カーテンの影になる場所に立っていた男が、抑揚のない声で言った。  男の名はボリス。肩書きは「首席政治顧問」だが、彼がKGB(国家保安委員会)から派遣された監視役であり、実質的なアステリアの支配者であることは、カイルも、そしてボリス自身も承知の上だった。


「……少し、目が疲れただけだ」 「それは困りますな。モスクワの同志たちは、貴国の『自発的な』改革の進展を心待ちにしているのですから」


 「自発的」。  この言葉ほど、現在のカイルの立場を皮肉に表すものはない。  彼はため息を飲み込み、再びペンを走らせた。インクの黒い染みが、書類という名の白い大地を侵食していく。それはまるで、彼の国が赤く染め上げられていく様を、この机の上で凝縮して見せられているようだった。


2.窓の外の灰色

 昼食の時間。  運ばれてくるのは、かつての宮廷料理ではない。固い黒パンと、冷めたボルシチ、そして砂糖の入っていない薄い紅茶だけだ。  カイルは唯一の気晴らしとして、執務室の窓際に立った。


 かつて、ここから見える景色は絶景だった。  魔導の光が灯る美しい尖塔、職人たちが極彩色に塗った屋根、そして遠くには神話の森と、雄大な青鏡渓谷が広がっていた。


 だが今、防弾ガラスの向こうに広がっているのは、どこまでも続く**「灰色」**だった。


 地平線を埋め尽くすコンビナートの煙突からは、黒煙と紫色の魔力排気が絶え間なく吐き出され、空を重苦しい鉛色に染めている。  市街地には、マッチ箱を並べたような無機質な集合住宅フルシチョフカの列が、墓標のように整然と並んでいた。森は切り開かれ、今はただの資材置き場となっている。


「……以前より、煙が多くなったな」 「工業生産力が向上した証です。素晴らしいことだ」  背後でボリスが、音を立てて紅茶をすすりながら答えた。 「民は飢えを忘れ、凍えることもなくなりました。統計局のデータによれば、彼らの幸福指数は、王政時代の三〇〇倍です」


「ああ、そうだ。誰も飢えていない」  カイルは自分に言い聞かせた。  かつて、王の圧政下では冬が来るたびに路地裏に孤児の死体が転がっていた。今はそれがない。セントラルヒーティングが整備され、配給所には(列に並びさえすれば)パンがある。  それは間違いなく「善」だ。


 だが、その代償として、人々は笑顔を失ったように見える。  窓の下を行き交う人々は、みな同じ灰色の作業服を着て、うつむき加減に歩いている。ただ黙々と働き、黙々と食べ、黙々と眠る。  まるで、巨大な機械の歯車になったかのように。


3.解放か、管理された死か

(私は、国を救ったのか? それとも、国を売ったのか?)


 カイルの胸に、冷たい刃のような問いが突き刺さる。  彼は旧体制を倒すために、異世界の強者――ソビエト連邦の手を借りた。彼らの力は圧倒的で、そして魅力的だった。「万国の労働者よ、団結せよ」というスローガンは、虐げられた民衆を熱狂させた。


 しかし、蓋を開けてみれば、そこに待っていたのは**「絶対的な管理」**だった。  自由な思考は「反動的」とされ、KGBに摘発される。  伝統的な祭りは「非科学的」と禁止され、神殿は倉庫になった。  水龍は殺され、ダムの土台となった。  草原の民は誇りを奪われ、顔の黒い炭鉱夫となった。


「……これは生ではない」  カイルはガラスに映る自分の顔を見つめた。やつれて、生気のない目をした男。かつて革命の剣を掲げた勇者の面影は、もうどこにもない。 「これは、管理された死だ。我々は、暖かくて清潔なコンクリートの棺桶の中で、ゆっくりと呼吸をしているに過ぎない」


「何か仰いましたか? 同志書記長」  ボリスの鋭い視線が背中に刺さる。 「……いや。今年の冬は早そうだ、と思っただけだ」


4.沈黙の署名

 カイルは机に戻った。  残りの書類の束に、次々とサインをしていく。


 「魔導ギルドの完全解体および国有化命令書」  「初等教育におけるロシア語の義務化法案」  「地球側への希少魔導資源供与に関する特別協定」


 彼がペンを動かすたびに、アステリアという国の輪郭が削り取られ、ソビエトの一部へと溶けていく。  だが、止めることはできない。  彼が拒絶すれば、明日は別の人間――おそらくもっと冷酷な誰か――がこの椅子に座り、同じ書類にサインをするだけだ。あるいは、市街地に待機しているT-80戦車が火を噴くことになるだろう。


 ジリリリリリ……!!  突然、机上の赤い電話が鳴り響いた。クレムリン直通のホットラインだ。  カイルは深く息を吸い、震える指を抑えて受話器を取った。


「……はい、こちらアステリア。カイル・アステリオスです」 『同志カイル。計画の進捗はどうだね?』  受話器の向こうから聞こえるのは、地球の支配者、ゴルバチョフの声だ。 「……ええ、順調です。全ては計画通りに。アステリアは、ソビエトの忠実な友として、今日も生産に励んでいます」


 執務室に、彼の嘘だけが空虚に響いた。  受話器を置くと同時に、窓の外で工場の始業サイレンが鳴り響く。  何千人もの「同志」たちが、灰色の列をなして職場へと吸い込まれていく。そこに、かつて革命を志した英雄たちの歌声はもう聞こえない。


 アステリアは平和だった。  あまりにも静かで、残酷なまでに完璧な、平穏の中にあった。



『一九九三年に旧都に鳴り響くのは勝利のファンファーレではなく、書類に判を押す乾いた音であった。カイル書記長の沈黙は、アステリアという異世界が、熱狂の季節を終え、ソビエト連邦という巨大なシステムの一部として完全に「消化」されたことを意味していた。  しかし、消化しきれぬ異物が、やがて腹の中で暴れだすことを、この時のクレムリンはまだ知らなかった。』(二〇三四年刊:『次元を超えた赤い足跡 ― 魔導ソ連初期史』より抜粋)

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