石の箱と商人たちの溜息
【注意・免責事項】
※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。
※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。
※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。
一九九二年、冬。 かつて「宝石の都」と謳われたアステリア王国の王都エリュシオン。 今はその名を**「アステリア人民特別市」**と変えたこの街の一角にある、取り壊しを待つ古びた酒場で、元・織物ギルドの重鎮であった老商人が、インクの染みたペンを走らせていた。
彼の名はアルダス。 かつては王侯貴族に絹を卸し、ギルドの会合ではその咳払いで相場が動くと言われた男である。だが今は、ただの「市民番号A-2045」を持つ、一人の老人でしかない。 これは、変わりゆく世界を記録しようとした、ある一人の男の日記の断片である。
1.灰色の侵略者
【日記:冬の月、第5日】
窓の外を見るのが、最近は億劫になってしまった。 かつて、私の店の二階にあるこの窓からは、王城の優美な尖塔と、職人たちが技を競った美しい赤煉瓦の家並みが見えたものだ。夕暮れになれば、それぞれの家の煙突から細い煙が立ち上り、紫色の空に溶けていく。それはそれは情緒ある、画家に描かせたいような光景だった。
だが今はどうだ。 北の丘陵地帯を、**「灰色の崖」**が埋め尽くそうとしている。
ソ連軍の連中は、あれを「集合住宅」と呼んでいるらしい。だが、私には墓標にしか見えない。 巨大な、のっぺりとした、装飾の一つもない灰色の切り石を積み上げただけの箱。 あれが、まるで雨後の筍のように、たった数週間でニョキニョキと地面から生えてくるのだ。
私は先日、その建築現場を通りかかった。 そこには、石工が汗を流して石を削る姿も、大工が木材を組む音もなかった。 代わりにあったのは、空を突くような「鉄のキリン(クレーン)」が、工場で作られた壁を吊り上げ、積み木のように組み立てていく異様な光景だった。 魔法使いが土魔法で作った塔よりも早く、そして吐き気がするほど正確で、醜悪だ。
街の風景から「色」が消えていく。 職人が焼き上げた赤煉瓦も、貴族が愛した青い屋根瓦も、全てはあの**「ソビエト・グレー」**という無慈悲な色に塗り潰されていくようだ。 世界が、定規で引いたような直線と、死人の肌のような灰色に支配されていく。これが彼らの言う「進歩」なのだろうか。
2.定価という名の魔法
【日記:冬の月、第12日】
今日、妻に頼まれて新しい**「国営百貨店」**へ行ってきた。 かつての中央広場、吟遊詩人が歌い、屋台の親父と客が威勢のいい声で値切り合戦を繰り広げていたあの活気ある広場は、今は巨大なガラスと鉄骨の箱に変えられてしまった。
重いガラスの扉を開けて、驚いた。 そこには山のような商品が並んでいるが、誰も叫んでいない。 店員――彼らは「販売員同志」と呼ばれている――は、無愛想な顔でカウンターに立っているだけだ。そして何より異様なのは、すべての商品に**「値札」**がついていることだ。
客は黙って商品を手に取り、黙って書かれた通りの金を払う。 交渉の余地はない。 「よう大将、今日はいい肉が入ってるよ!」「高いな、もう少し負けろよ」「じゃあおまけに骨をつけるよ」……そんな会話は、ここには存在しない。 馴染みの客へのサービスもなければ、一見さんへの吹っかけもない。王様が買おうが、乞食が買おうが、パン一個の値段は1ルーブルなのだ。
なんと味気ないことか! 商売とは、人と人との騙し合いと、その中にある腹の探り合い、そして最後に生まれる信頼で成り立っていたのではなかったか? 私は、レジスターという機械が「チン」と鳴る音を聞きながら、商売という営みがただの「物資交換作業」に堕落したことに憤りを感じた。
だが、店を出てくる客たちの顔を見て、私は批判の言葉を飲み込んだ。 彼らの手には、パンと、肉と、そして分厚い化学繊維の冬服が握られていた。 かつての冬、広場の隅には飢えて凍える孤児たちが溢れていた。パンを買えずに雪の中で死んでいく老婆がいた。 だが、今は一人もいない。 「定価」と「配給」。 この無粋極まりない、商人の誇りを踏みにじるシステムは、確かにこの街から「飢餓」という悪魔を物理的に追い払ってしまったのだ。 私は安くて温かいコートを抱きしめながら、敗北感と共に帰路についた。
3.暖かい棺桶
【日記:冬の月、第20日】
皮肉なことに、私の息子夫婦はあの「灰色の箱」への入居抽選に当選し、狂喜乱舞している。 今日、新居の祝いに招かれた。 舗装されたばかりのアスファルトを踏み、無機質な鉄の扉を開け、狭い階段を四階まで上がる。 「K-7型」と呼ばれるその部屋の扉を開けると、そこには驚くべき光景があった。
暖かいのだ。 暖炉がないのに。薪が燃える匂いもしないのに、部屋全体が春の陽気のように暖かい。
息子が得意げに壁の白い管を指差した。 「セントラルヒーティングだよ、父さん。都市の地下で作られたお湯が、この鉄の蛇腹を通って部屋を温めているんだ」 それは魔導工学……いや、彼らの科学の産物らしい。 さらに、台所の壁にあるスイッチをひねれば、いつでも透明な水と、湯気が出るお湯が出る。 井戸へ行く必要も、凍った指で薪を割る必要も、朝起きて暖炉の灰を掃除する必要もない。
「ここは天国だよ」 息子は笑い、嫁はシャツ一枚で料理をしている。 私は窓の外を見た。 そこには、同じ形をした灰色の箱が、地平線の彼方まで規則正しく、墓石のように並んでいた。
確かに、ここは快適だ。 飢えもなく、寒さもない。隙間風に怯える夜もない。 だが、この部屋には**「個性」**がない。 隣の部屋も、その隣の部屋も、全く同じ間取りで、同じ家具が置かれ、同じ温度で管理されているのだろう。
我々は、暖かくて安全な「飼育箱」に入れられた家畜になったのではないか? 自由と引き換えに、快適な檻を与えられただけではないのか?
そんな不敬な考えが頭をよぎったが、孫の幸せそうな寝顔を見て、私はその思考をインクと共に封じ込めた。 凍えて死ぬ自由よりも、飼育されて生きる温かさ。 大衆がどちらを選ぶかは、明白だったからだ。
4.黄昏の美学
【日記:春の月、第1日】
雪解けと共に、また新しい建設工事が始まった。 私の店があったこの一画も、都市計画に基づく道路拡張の用地になるという通知が届いた。 立ち退き料として渡された紙幣の束は、一生遊んで暮らせるほどの額だった。ソ連人は、無粋だが、金払いは悪くない。
街は便利になった。清潔になった。 下水は整備され、伝染病は消えた。子供たちは学校へ行き、病人は病院へ行く。 それは素晴らしいことだ。誰も否定できない正義だ。
だが、私は時折、無性にあの臭くて汚い、しかし活気に満ちていた「不便な路地裏」が恋しくなる。 雨漏りのする屋根の下で、家族が肩を寄せ合ってスープを飲んだ夜。 ギルドの仲間と、薄暗い酒場で朝まで語り合った夜。 あの不完全で、非効率で、人間臭かった世界。
効率という名の測量機が、我々の思い出ごと街を直線に切り取っていく。 古い商人の時代は終わったのだ。これからは、あの四角いコンクリートの中で、均質化された教育を受けて育つ、新しい**「ソビエト人」**たちの時代なのだろう。
私はペンを置く。 明日、引っ越しの荷造りを始めなければならない。 この美しいレンガの家とも、これでお別れだ。 せめて最後の一杯は、あの無味乾燥なウォッカではなく、地下室に隠しておいた年代物のワインを開けるとしよう。
第四章 第八話:後世の注釈 『一九九〇年代初頭、ソ連がアステリアにもたらした最大の変革は、魔法技術でも軍事力でもなく、**「フルシチョフカ(プレハブ集合住宅)」**であった。 それは住民から個性を奪い、街の景観を灰色に染め上げたが、同時に人類史上初めて、アステリアの民衆に「生存の最低保証」を与えた。 中世的な情緒を愛する知識人は嘆いたが、凍える冬を知る大衆は、蛇口から出るお湯とセントラルヒーティングの恩恵を、魔法の石よりも尊い「奇跡」として歓迎したのである。』(二〇三四年刊:『次元を超えた赤い足跡 ― 魔導ソ連初期史』より抜粋)
本日更新が遅れごめんなさい
続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いします!
↓の「ポイント評価(☆☆☆☆☆)」や「ブックマーク」で応援していただけると、執筆の励みになります! (感想やレビューも大歓迎です!)




