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鉄と魔法の五カ年計画 ―ソビエト連邦、異世界侵攻作戦―  作者: 納豆マン
序章 接触編(ファースト・コンタクト)
2/46

豚の鳴く夜

【注意・免責事項】

※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。

※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。

※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。

 カザフ・ソビエト社会主義共和国、秘密閉鎖都市『チェリャビンスク-XX』。

 その北方、第四検問所。

 そこは、地図から抹消された都市へ続く、ただ一つの地上路だった。

 深夜〇三時。

 見張り台に立つイワン・コズロフ二等兵は、寒さに身を震わせながら、安物の紙巻き煙草「プリマ」を燻らせていた。

 フィルターのない煙草は喉を焼くように辛いが、吹き付けるステップ気候の夜風から意識を繋ぎ止めるには、その程度の刺激が必要だった。

 彼の傍らには、油の匂いを漂わせるAK-74小銃が立てかけられている。

「……おい、イワン。さっきから地響きがしてないか?」

 検問所の小屋から顔を出したのは、交代要員のパヴェルだった。

 イワンは煙を吐き出し、暗闇を見つめた。

「地震だろう。さっきから二回ほどあった。どうせ地下の工場で、また無茶な実験でもしてるんだ」

「勘弁してくれよ。これ以上、ノルマだの実験だので叩き起こされるのは御免だ」

 パヴェルが笑いながら火を借りようとした、その時だった。

 突如、鼓膜を突き破るような真空音が鳴り響いた。

 地震ではない。空間そのものが、巨大な布を裂くような音を立てて悲鳴を上げたのだ。

 都市の中心部――そこにはソ連が誇る巨大な原子炉と軍需工場が並んでいたはずだった。

 だが、その夜空が不気味な紫色に明滅したかと思うと、次の瞬間、巨大な「穴」が空いた。光さえも反射しない、漆黒の虚無。

 その穴から、最初の「絶叫」が届いた。

「なんだ……あれは」

 イワンが煙草を落とした。

 都市の境界線から、何かがこちらに向かって走ってきている。

 それは、街灯の光の下に姿を現した瞬間、人類の生物学が積み上げてきた常識を粉砕した。

 身長は三メートル近くあるだろうか。

 異常に発達した筋繊維が皮膚を押し上げ、鋼鉄のような質感を与えている。

 二足歩行をしているが、その頭部は醜悪に肥大した**「豚」**そのものだった。

 鼻からは黄色い蒸気を吹き出し、濁った瞳は知性ではなく、ただ捕食と破壊への衝動でぎらついている。

 その怪物は、博物館の展示品のような、錆びついた巨大な青銅の斧を手にしていた。

「止まれ! 動くな!」

 パヴェルが反射的に銃を構え、叫んだ。

 だが、巨人は止まらない。時速四十キロ近い速度で、三〇〇キロを超える質量の塊が突撃してくる。

「撃て! 撃ち殺せッ!」

 検問所に備え付けられたPKM機関銃が火を噴いた。

 七・六二ミリ弾の連続した火線が、オークの胸部に吸い込まれていく。

 普通の人間なら一発で無力化され、三発も喰らえば肉塊に変わるはずの衝撃だ。

 ドス、ドス、ドスッ!

 重い着弾音が響き、オークの胸から緑色の血飛沫が舞う。怪物は苦悶の声を上げ、たしかに一瞬たじろいだ。

 だが、止まらない。

 分厚い脂肪と筋肉の鎧が弾丸の運動エネルギーを強引に受け止め、即死を免れていたのだ。

 銃弾を数発受けながらも、オークは怒り狂って加速した。

 人間ならショック死するダメージを負いながら、斧を振りかざして突っ込んでくる。

 オークが青銅の斧を横薙ぎに振るった。

 鈍い音と共に、検問所の鉄製ゲートが紙細工のようにひしゃげ、吹き飛んだ。

 そのまま斧の刃はパヴェルの胴体を捉える。防弾ベストを着用していたはずの彼の身体は、抵抗すら許されず、上下真っ二つに分かたれて夜の地面に転がった。

「パヴェル!」

 イワンは狂ったようにAK-74をフルオートで射撃した。

 一発や二発では止まらない。ならば、鉛の雨を注ぎ込むまでだ。

 ダダダダダッ!

 至近距離、一〇発以上の五・四五ミリ弾が怪物の喉元と顔面に集中する。

 さすがに致命傷だったのか、オークは緑色の不快な体液をぶちまけ、どうと音を立てて倒れ伏した。痙攣し、動かなくなる。

 勝った、とイワンが思ったのは一瞬だった。

 頭上から、空気を切り裂く轟音が響いた。

 見上げれば、星空を塗りつぶすような巨大な影。

 全長十メートルはあるだろうか。重戦車のような硬質な鱗を月光に光らせ、巨大な翼を広げたドラゴンが、時速五百キロの猛速で降下してきた。

 ドラゴンは、空中に停止するという物理法則を無視した挙動を見せると、その巨大な顎を開いた。

 次の瞬間、視界のすべてがオレンジ色に染まった。

 ブレス――数千度の火炎放射が、検問所を、トラックを、そしてパヴェルの死体を一瞬で炭化させた。コンクリートの壁が熱で爆ぜ、周囲の酸素が消失する。

 イワンは衝撃波で吹き飛ばされ、排水溝の中に転がり落ちた。

 熱い。肺が焼ける。

 意識が遠のく中、彼が見たのは地獄の光景だった。

 ドラゴンの背後から、さらに数百、数千の小さな影が這い出してくる。

 身長一五〇センチ程度。醜悪な小男のような姿をしたゴブリンの群れだ。

 彼らは粗末な弓矢やナイフを手にし、焼け爛れた生存者を見つけては、子供のような甲高い声で笑いながら刺し貫いていく。

 それは戦争ではなかった。

 ただの「清掃」だった。

 イワンは排水溝の泥に顔をうずめ、祈った。

 マルクスもレーニンも、この絶望を救ってはくれない。

 

 遠く都市の方角からは、さらに多くの、そしてさらに巨大な「何か」が穴から這い出してくる不気味な足音が、大地を揺らし続けていた。

 ***

 カザフ・ソビエト社会主義共和国、秘密閉鎖都市『チェリャビンスク-XX』。

 そこは本来、祖国ソビエトの核抑止力を支えるエリート科学者とその家族、五万人が暮らす「社会主義の楽園」であるはずだった。

 だが、深夜〇三時に発生した「空間の裂け目」は、その平穏を瞬時に肉挽き機へと変えた。

 都市中心部の集合住宅群。

 つい先刻まで、明日の労働に備えて眠りに就いていた市民たちは、窓ガラスを粉砕するドラゴンの咆哮と、コンクリートを突き破るオークの質量によって叩き起こされた。

 三メートルを超えるオークたちは、逃げ惑う市民を「敵」とも見ていなかった。彼らにとって、柔らかい肌を持つ人間は、ただ効率的に処理すべき「資源」か、あるいは「玩具」に過ぎなかった。

 あるアパートの一階では、警備用のトカレフ拳銃を持った警察官が、侵入してきたオークに向けて発砲していた。

 パン、パン、と乾いた音が響き、オークの腹部に風穴を開ける。

 だが、怪物は腹から血を流しながらもニタニタと笑い、その丸太のような腕で警察官の頭を掴んだ。

 

 人間なら致命傷となる傷でも、彼らは止まらない。痛覚が鈍いのか、それとも生命力が異常なのか。

 頭蓋が砕ける鈍い音が廊下に響く。

 彼らは武器を使うまでもなかった。その三〇〇キロの巨体で体当たりをするだけで、人間という生物の構造は容易に崩壊した。

 屋外へ逃げ出した人々を待っていたのは、空からの処刑だった。

 全長十メートルのドラゴンが、低空飛行で住宅街のメインストリートを舐めるように進む。

「お父さん、空が燃えてる!」

 幼い少女の叫びは、次の瞬間に放たれた数千度のブレスによってかき消された。

 物理法則を嘲笑う魔力の炎は、アスファルトを溶岩のようにドロドロに溶かし、人々の衣類、皮膚、そして骨までもを一瞬で炭化させる。

 逃げ場を失った市民たちは、ソ連が誇る堅牢な鉄筋コンクリートの建物の中で、生きたまま「オーブン」に入れられたかのように焼き殺されていった。

 瓦礫の山となった路地裏では、ゴブリンたちが「収穫」に勤しんでいた。

 彼らは倒れた負傷者のポケットを漁り、腕時計や結婚指輪を、理解不能な言語で喚きながら奪い取っていく。息のある者を見つければ、その脆弱な首筋を錆びたナイフで何度も執拗に突き刺した。

 殺害そのものを愉しむかのような、子供染みた残酷な所作。

 かつてレーニンが夢見た「科学と理性の都」は、わずか一時間で、神話の時代よりも凄惨な屠殺場へと変貌した。

 ***

 北方第四検問所。

 排水溝の泥の中に顔をうずめていたイワン・コズロフ二等兵は、死の静寂の中で意識を取り戻した。

 全身を打撲し、右腕はあらぬ方向に曲がっている。だが、奇跡的にドラゴンのブレスの直撃は免れていた。排水溝を流れる泥水が、彼を「焼き尽くされる運命」から救ったのだ。

(……生きているのか、俺は)

 泥水を吐き出し、イワンはわずかに目を開けた。

 検問所だった場所には、もはや何も残っていない。コンクリートの防壁は砕け、パヴェルの死体は炭化して原型を留めていなかった。

 

 五メートルほど先で、一匹のオークが足を止めていた。

 

 三メートルの巨躯。豚のような鼻から立ち上る蒸気。その怪物は、泥の中に転がっていたイワンのAK-74を拾い上げていた。

 怪物は、人類が到達した工業製品の粋を、不審な魔導具でも見るかのように眺めている。そして、無造作にその指に力を込めた。

 パキリ、という乾いた音。

 ソ連兵の誇りであるAK-74のスチール製レシーバーが、オークの握力だけで無残にひしゃげた。

 怪物は退屈そうにそれを投げ捨てると、再び都市の中心部へと向かって歩き出した。

 イワンは息を殺し、心臓の音さえも消そうと努めた。

 その時、イワンの耳に、あり得ない音が聞こえた。

 排水溝のさらに奥。土管の中に隠れていたのは、この都市の職員と思われる、血まみれの少女だった。

 彼女は恐怖で声を出すこともできず、ただイワンの服の袖を震える手で掴んでいた。

「……静かにしてろ」

 イワンは折れた右腕の激痛を堪え、左手で少女の口を塞いだ。

 排水溝の縁を、ゴブリンたちの足音が通り過ぎていく。

 ギチギチ、ギギッ、という不快な鳴き声。

 イワンは、壊れたAKの代わりに、腰に差していた最後の一本――救命用のフレアガン(信号銃)を握りしめた。

 もし、今ここで見つかれば、自分もこの少女も、ゴミのように処理されるだろう。

 

 彼は決意した。

 死ぬのは今ではない。この地獄で何が起きたのか、誰かが伝えなければならない。

 イワンは少女を抱き寄せ、冷たい泥水の中で、数時間後に訪れるはずの「鋼鉄の足音」を待ち続けた。

 ***

 〇六時〇〇分。

 夜明けの光が、煙に包まれたチェリャビンスク-XXを照らし出した頃。

 

 地平線の彼方から、ドラゴンの羽ばたきとは異なる、腹に響くような重低音が響いてきた。

 ――ズゥン、ズゥン、ズゥン。

 それは、大地を揺らす鼓動。

 ウラル軍管区から緊急発進した、五個師団の「先遣機甲大隊」が到着したのだ。

 泥の中で意識を失いかけていたイワンは、その音に目を開いた。

 空を切り裂く、鋭い風切り音。

 それはドラゴンのブレスではなく、一二五ミリ滑腔砲から放たれた、ソビエト軍の怒りそのものだった。

 

 ドォォォォォォン!

 

 検問所の残骸近くを徘徊していたオークの胴体に、徹甲弾が直撃した。

 いかに人間の三倍の生命力を持とうと、一二五ミリの鋼鉄の杭の前では無意味だった。怪物は上半身を文字通り「蒸発」させ、緑色の霧となって散った。

「……味方だ」

 イワンは掠れた声で呟いた。

 

 霧を切り裂いて現れたのは、泥にまみれた赤旗を掲げる、最新鋭のT-80U戦車の群れだった。ガスタービンエンジンの甲高い咆哮が、異世界の魔物たちの鳴き声を圧倒していく。

 

 空からは、MiG-23戦闘機の編隊が超音速で飛来し、逃げ遅れたドラゴンに向けて空対空ミサイルを放つ。

 伝説の怪物は、科学の結晶である赤外線シーカーから逃れる術を知らなかった。白光の炸裂と共に、ドラゴンの巨体がバラバラに砕け散り、肉の雨となって地上に降り注ぐ。

 戦車のハッチから身を乗り出した指揮官が、泥まみれの排水溝の中で、一本の震える腕がフレアガンを掲げているのを見つけた。

「生存者だ! 衛生兵! 生存者がいるぞ!」

 泥の中から引き上げられたイワンは、救助に来た兵士の襟を掴み、狂気すら宿った瞳で叫んだ。

「……気をつけろ。奴ら、死なないんだ」

「なんだと?」

「一発や二発じゃ止まらない。……完全に沈黙するまで撃ち続けろ。……奴ら、撃たれても笑いながら突っ込んでくる……」

 救難部隊の将校は、その言葉の意味をまだ理解していなかった。

 だが、イワンが指差した先――壊滅した都市の「大穴」からは、さらに巨大な、山の如き影が姿を現そうとしていた。


次回、 集結したソ連軍の反撃が始まります。

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