一九九〇年のパラダイムシフト
【注意・免責事項】
※本作品は生成AI(Gemini)を活用して執筆・構成されたフィクションです。
※本作は架空戦記であり、実在の人物・団体・国家・史実とは一切関係ありません。作中の描写は物語上の演出であり、特定の政治思想や戦争行為を称揚・助長する意図はございません。
※作中には戦争描写、残酷な描写が含まれます。
石棺の正面広場に建立された慰霊碑は、もはや単なる石の塊ではなかった。 それは、ソビエト連邦という国家が異世界の理を飲み込むために支払った、あまりにも過酷な「対価」の象徴であった。
刻まれた三千四百名の兵士、そして数万の市民の名。 その一人一人が、突如として現れた異世界の軍勢に肉を裂かれ、あるいは逃げ惑う中で高濃度の魔力に曝され、自身の細胞が紫色の結晶へと置き換わる「生きた地獄」を味わった者たちだ。
「……あれは、戦争ですらありませんでした」
イワン二等兵は、慰霊碑の基部を指でなぞった。かつて事変の最前線で、仲間たちが絶叫しながら「石」へと変わっていった光景が、今も網膜に焼き付いている。
ソビエトは勝った。 だが、その勝利は、科学が敗北し、軍隊が蹂躙され、誇り高い赤い軍旗が未知の怪物の血で汚された果てに、ようやく掴み取った泥まみれの悲願だった。
「私たちは、ただ勝ったのではない。……数万の同胞を異世界の生贄に捧げることで、ようやくこの『門』の鍵を奪い取ったのだ」
広場に並ぶ数万の兵士たちの間には、勝利の熱狂を抑え込むような、重苦しい沈黙が漂っていた。
彼らは知っている。 今、自分たちが手にしている「魔導兵器」や、身体に宿る「異能」が、かつて自分たちの隣で死んでいった戦友たちの、無残な死体という名の「実験データ」から生み出されたものであることを。
この石棺は、死者を閉じ込めるための墓所であると同時に、ソビエトが「人間であることを捨ててでも生き残る」と決意した、呪われた祭壇でもあった。
***
演壇に立ったゴルバチョフの視線は、整列した兵士たちを通り越し、その背後にそびえ立つ慰霊碑の銘板へと注がれていた。 彼の言葉には、モスクワでの演説にはない、剥き出しの執念が宿っていた。
「同志諸君。この石碑に刻まれた名は、我が国の傷跡である。チェリャビンスクを襲ったあの悲劇の日、我々はただ一方的に奪われるだけの弱者であった。……だが、今日、我々はここに立っている!」
ゴルバチョフは拳を慰霊碑の方へと向けた。
「我々は犠牲を無駄にはしなかった。同胞たちの命を、結晶化したその肉体を、我々は血の滲むような執念で研究し、理解し、支配した。……今、諸君の血管を流れる力、その銃に宿る輝きは、散っていった同志たちの命の続きなのだ! 異世界を征服することだけが、彼らに対する唯一の報いであり、唯一の供養である!」
その言葉は、兵士たちの罪悪感を、純粋な「進撃への意志」へと変質させていった。
悲願の勝利。 それは、失ったもののあまりの大きさに、もはや「異世界を支配し、すべてを取り戻す」こと以外に正気を保つ方法がないという、狂信的な決意の裏返しでもあった。
慰霊祭の終わりを告げる弔砲が鳴り響いた。 だが、その音はこれまでの大砲の音とは異なっていた。魔導の力を込めた空砲が空を裂き、紫色の雷鳴が石棺の天井を震わせた。
アレクセイ大尉は、戦車T-80UMのハッチから、慰霊碑の影を見つめた。 そこには、かつて自分が救えなかった戦車兵たちの幻影が立っているように見えた。
「……見ていろ。お前たちが石に変えられてまで守ったこの国が、今度はあちら側の世界を『石』に変えてやる番だ」
一九九〇年五月一日。 ソビエト連邦は、失った数万の命を燃料へと変え、人類史上最も重く、最も暗い「悲願」を背負って、光の渦へと進撃を開始した。
石棺という名の巨大な墓所から、復讐と再生を誓った赤い軍勢が、異世界の草原へと溢れ出していく。
***
石棺の隔壁が開き、T-80UMを先頭とする偵察隊が「門」の光の渦を潜り抜けた瞬間、彼らは物理学的な断絶を経験した。
重力定数の微細な変化、大気中のマナ濃度による皮膚へのピリピリとした刺激。 そして、数ヶ月に及ぶ石棺内での「人工的な夜」の後に彼らを迎えたのは、永遠に沈まない二つの太陽が照らし出す、眼も眩むような黄金色の草原だった。
1. 最初の接触:赤い巨獣の降臨
異世界の北西部に位置するアステリア大陸。その辺境にある「エデンの村」の住人たちは、突如として草原の虚空に現れた「巨大なコンクリートの塔(石棺の異世界側出口)」と、そこから這い出してきた鉄の怪物たちを、恐怖と驚愕を以て目撃した。
彼らがこれまで見てきた「騎士」や「魔導師」の概念は、地響きを立てて進むT-80UMの重量感と、その砲身から放たれる紫色の電磁火花の前に粉砕された。
「……汚染なし。酸素濃度、基準値以上。全乗員、ハッチ開放を許可する」
アレクセイ大尉が指示を出すと、戦車のハッチから黒いベレー帽を被ったソ連兵たちが姿を現した。 彼らは跪き、異世界の土を手に取った。 それは、数万の犠牲を払い、地球でのあらゆる権益を投げ打ってでも手に入れたかった「約束の地」の感触だった。
村の境界に立っていた亜人の長老は、震える手で杖を握りしめ、自分たちの言葉で問いかけた。
「……汝ら、天より降りし神の軍勢か、さもなくば地の底より這い出せし魔王の眷属か」
偵察隊の最前線にいたカイルが、ソ連軍の通信機を手に取り、たどたどしいアステリア語で、だが明確に答えた。
「……我々は、ソビエト連邦。……解放と、管理のためにやってきた」
2. 地球の沈黙:断絶された超大国
同じ頃、地球側では「ソビエトの消失」が深刻な外交問題となっていた。
アメリカの偵察衛星は、カザフスタンの石棺周辺に集結していた五個師団が、一夜にして「神隠し」に遭ったかのように消滅したことを捉えた。 モスクワからの通信は、依然として「平和と軍縮」を謳う録音放送を繰り返しているが、実質的な意志の疎通は不可能になっていた。
アメリカ、イギリス、フランス。かつての列強は、ソ連という巨大な穴が開いた国際社会の椅子を見つめ、震えていた。 ソ連は崩壊したのではない。彼らは、我々の手が届かない「別の次元」へと国家ごと移住し、そこから得られる未知の力で、地球という古い惑星を一方的に監視・管理する立場へと昇華してしまったのだ。
「……今日を以て、冷戦は終わった」
ワシントンのシチュエーション・ルームで、ブッシュ大統領は力なく椅子に座った。
「そして、人類という種が二つに分かれる時代が始まった。……魔法を手に入れ、地球を見捨てた『赤い神々』と、この古い星に取り残された我々に」
3. 終章:赤い新天地の夜明け
異世界の草原に、ソ連軍の軍歌『カチューシャ』が響き渡る。
イワン二等兵は、村の子供たちが差し出した見たこともない果実を受け取り、魔導強化されたその手で優しく子供の頭を撫でた。 彼ら兵士にとって、ここは過酷な「石棺」での停滞を乗り越えた末に辿り着いた、真の救い(ユートピア)に見えた。
だが、カイルだけは知っていた。 この「赤い軍勢」がもたらすのは、慈悲深い解放ではない。 彼らは、魔法という名の神秘を、生産ノルマや五年計画という名の「冷徹な管理」へと押し込め、この世界の理そのものを社会主義の歯車に組み込もうとしていることを。
草原の彼方に、アステリア王国の王都の塔が霞んで見える。 その塔に、ソビエトの赤旗が掲げられるまで、彼らの歩みは止まらない。 数万の死者たちの無念を、異世界の征服という名の「供養」に変えて。
一九九〇年。パラダイムはシフトした。 もはや地球上の誰一人として、この「魔導超大国」を止める術は持たない。
***
『多くの者は、ソ連の異世界進出を「侵略」と呼ぶ。 しかし、当時のソ連国民にとって、それは「生存」のための唯一の道であった。 チェルノブイリで死に、カザフの石棺で再生した彼らにとって、既存の道徳や物理法則は、もはや遵守すべきルールではなく、破壊し、書き換えるべき障害に過ぎなかったのである』 (二〇三四年刊:『赤い新天地の興亡』より抜粋
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