2-4: ベルの変身能力
ベルについても少し触れておきましょうか。
さて、自分の魔法の練習はひとまず終わり。次は……。
「ベル、おいで」
私の魔法の練習を洞窟の隅でずっと見ていたベルを呼んだ。使い魔を従えてる以上、ベルの扱いにも慣れないといけない。
ベルは私の呼びかけに応じて、私の傍まで跳ね寄ってきた。なるほど、呼べば来ると。
もしかして、言葉通じてる?あ、そりゃそうか。屋敷の人たちも使い魔に呼びかけて指示出してたっけ。
屋敷の人たちの使い魔ってどんなことやってたっけ?
オーガさんのドラゴンは、自分を乗せて遠くに行ったり、ブレスで相手を地形ごと消し飛ばしたり、天気を雷雨に変えたり、地面をマグマに変えてみたり、風で大津波起こしたり、地割れを起こして奈落に落としたり……本当に何でもありだったな。
グリフォンは相手の背後に回ってもらって風刃で奇襲をかけたり、キツネは炎を操って相手の視界を奪ったり翻弄させたり、シャチは単純に体当たりしてもらったり水魔法の水圧で相手を翻弄したり……。
これは、多分主人の使い方にもよるんだろうな。それじゃあ、私はベルをどう使おうか……。
いや、どう使うか以前に、ベルに何ができるのかが分かってないんだ。まずはそこからだね。えっと……。
「ベルって、何が得意なの?」
……本人に直接聞いちゃったよ私。ベルの前でしゃがみ込んで、馬鹿正直に聞いちゃった。
もっと他に手段はあった気がするけど、これ以上に良さそうなのが思いつかなかった。
何やってんだろうなって自分で苦笑していたら、ベルに変化が現れた。
ベルの身体が徐々に大きくなって、足が4本生えてきて、さらに尻尾まで。
さっきまで私のひざ下くらいの大きさだったベルが、しゃがみ込んでいる私よりも大きなオオカミの姿になった。
え、カッコいい。身体がスライムだからオオカミの毛並みとかそういうのはないけど、オオカミの造形はしっかりと認識できる。
そうか!昨日だってベルはドラゴンに変身できたんだ!もしかして、何にでも変身できる……?
「すごい、ベル!他にも変身できるの?」
そう言ってみたら、今度はフクロウになったり、シカになったり、……私の知らない水生生物のような何かになってみせたりしてくれた。
本当にすごい。ベルってこんなにも多彩なんだ。もしかしなくても、ベルって万能なのでは!?
多分だけど、姿に応じた能力も携わっているのだろう。昨日のドラゴンの時だって、冷気を発射したりしてたから。
そこで私は一つ試してみることにした。
「もう一回、さっきのオオカミの姿になってよ」
そういうとベルはすぐにオオカミの姿になってくれた。そして私は恐る恐るオオカミベルの背中に乗ってみた。
「……すごい。ちゃんと乗れる」
身体がスライムだから、沈み込んだりしないかなって心配だったけど、大丈夫そう。
「もしかして、このまま走れたりする?ここじゃ狭いから、ちょっと歩いてみて」
そう指示を出したその時、オオカミベルがその場に座り込んでしまった。
「あ、あれ?どうしたの?」
するとオオカミベルの身体が小さくなっていき、いつもの姿のベルに戻ってしまった。
そして同時に、私自身にも疲れがどっと押し寄せてきた。
あ、あれ?この感じ、魔力を失っている……!?
そういえば、昨日のドラゴンベルの姿が解けた直後も同じような症状に襲われた。もしかして、ベルの変身能力は私の魔力を消費する!?
そ、それもそうか。使い魔だけ能力使い放題っていう美味しい話があるわけないか。となると、ベルの能力の使い道は考えないといけないね。
私の魔力の残りはわずか、魔法の練習もあと少ししかできない。
でも、良いこともある。自分の魔力を使い切ってしまえば、元より少し多めに回復することができる。魔力量はこうやって増やしていくのが通例らしい。
聞いた話だと、筋トレも同じ感じらしい。筋肉を限界まで追い込んだら、元より多めに回復するって。体力と魔力って似たところもあるんだね。
だから適当に魔法を撃っておいて魔力を尽きさせておこう。……魔力に余裕がないときの魔法っていつもより安定しないし疲れるなぁ。
そんな感じで過ごしていると、もう夜になった。
おなかすいた。しまった、昼間のうちにもっと木の実採っておくんだった。今から行くのは暗すぎて危険すぎる。
仕方ない、軽くパークツ草を食べて、今日はもう寝よう。明日起きたら木の実の採り溜めだ。他にも食料を集めてこなければ。
私は洞窟の隅で寝転がり、目を閉じた。
……。
……さむい。
昨日も体験したことだけど、やっぱりさむい。昼間のうちにそこらの雑草を集めて敷物を作っておくんだった。それだけでも地面の冷たさからは解放される。
そうだ、代わりにベルを抱いてみよう。……冷たい。動物の温かさがない。……あ、ごめんベル、そんなこと言われてもどうしようもないよね。
「ゥワオオオオォォォォンンン……」
うっ……。
遠吠えが森の中で響く。ムーナウルフは遠吠えをしないから、別のオオカミ型の魔物だ。
怖い。こんな暗闇の中襲われたらたまったもんじゃない。暗視の魔法は存在するけど私は覚えてない。覚えてない魔法を無理に使おうとしても失敗するだけだし、中途半端に成功したときにどういう効果になるか分からない。
こんな状況で守ってくれるのは、ベルだけ。でも、ベルも私の魔力に依存している以上、そう頻繁に頼ることもできない。
怖いし、寂しい。
父上、母上、オーガさん、それと親戚の人たち。今どうしてるのかな?
せめて誰か一人、私の傍にいてくれたら、この寂しさも和らぐのだろうか?
ザッ、ザッ……
うぇぇ。足音が一番心に来る。夜だから音が響きやすいのもあるのだろうけど、すぐ傍で歩いているように聞こえてしまう。
ザッ、ザッ!ザッ!!
……ん?え?待って。流石に近すぎない?
目を閉じてても分かる。これ、洞窟の中に入って来てる!しかも、めちゃくちゃデカい、ような気がする……。
ちょ、ちょっと。勘弁してよ。今めちゃくちゃ無防備なんですけど。ごめん、ベル、なんとかしてくれる!?
あまりの恐怖に身体が動かない。てか、動いたら殺されるかも。動かないことによってもしかしたら気づかずに帰ってくれるかも。
ガサガサッ……
えっと、毛が擦れるような音とともに、その魔物がその場で横たわった、ような音がした。
……待って、もしかして、寝たの!?
これ、起きた時気づかれるじゃん!もうどうしたら良いの!?
そ、そうか。この洞窟も別に私の物じゃないし、誰かが入ってきて寝るなんて普通にありえるか。……でも怖いって!
動けないし、目も合わせられない。ただ、その魔物の体温だけが私の身体をくすぐる。ちょっと温かいかも……?いや、何考えてるんだ私は。
と、とにかく、無事に夜を過ごせますようにっ!
私は冷や汗をかきながら、ひたすら目をつぶった。
ヤッコは無事朝を迎えられるのでしょうか?




