2-3: 探索と修行
とはいえ木の実だけでは物足りないですよね。
ベルに頼んで木の実を追加で2個採ってきてもらい、全て食べた私は空腹から解放された。
今になって考えてみれば、大した苦労もしないで食事にありつけていた生活ってとても恵まれていたんだなぁ……。
「そういえば、ベルはおなかすいてないの?」
ベルにそう聞いてみると、ベルは首(?)を振った。多分大丈夫なのだろう。
しかし、木の実だけでは多分飽きてしまう。それに栄養バランスも偏るだろう。
やはり肉も食べなくては。もっと欲を言うとパンも。
パンはちょっと現実味がないので保留するとして、肉は確保したい。なんと言ったって、魔物は倒し方を考えれば霧にならずに食料として活用できる可能性が出てきたのだ。さっきのラドックが見せてくれた。ただ、その方法が全く分からないので手探りにはなるけど。
もうちょっと洞窟の周辺を探してみよう。もしかしたら、水辺があるかもしれない。水があったらだいぶ生活水準が上がる。
……あれ?この地形って。
私は身に覚えのある特徴的な地形を見つけた。身に覚えがあると言っても、本の知識だ。
若干下り坂になっていて、地面に横向きの筋が入っている。こんな地形ができる環境といえば、私が知っている限り2通りしかない。
その内1つは、下り坂の中心で誰かが強力な電磁魔法を使った結果。しかし、その方法でできる横筋は荒っぽい見た目で、こんなに綺麗に模様が表れているのは若干可能性が低い。
それなら、もう一方の可能性が高い。私は坂を降り始めた。私の足跡もしばらく残るし、帰り道の心配はない。
やっぱり、私の予想通り。
下り坂の中心には、パークツ草が広範囲に生い茂っていた。パークツ草を中心に電界のような筋が地面に現れている。
パークツ草は人間が食べても大丈夫な代物だ。栄養価も高い。……食べるときに口内で静電気のような刺激が発生するのが難点。
料理のアクセントとして少量添えるのが本来の用途だけど、そのままガツガツ食べる人もいる。……食べ過ぎの刺激で口内炎になる人もいるけど。
私はそんなに食べないけど、嫌いでもない。要は食べ過ぎなければ大丈夫。私はパークツ草を1握りだけ頂戴することにした。
……おっと。私以外にもパークツ草を食べに来た魔物がいる。
ホルトンだ。身長40cmのカワウソのような見た目の電気魔法を使う魔物で、自分の身に危険が迫らない限り温厚な性格だ。ただし、敵と判断された時の厄介さはムーナウルフ並だ。
ホルトンが4匹、パークツ草を少しずつかじるように食べていた。そうか、静電気が平気な彼らならいくら食べても問題ないのか。むしろパークツ草は彼らにとって都合のいい食糧だ。
「キュイ?」
……おっと。ホルトンがこっちを見てきた。私はとっさに視線を外した。透明化の魔法はまだ解けてないはずだけど、私の視線を感じたか?
正直ホルトンとは戦いたくない。無駄だし、死ぬかもしれないし。私はそそくさとその場を離れた。
結局、見つけた食料はベルが採ってきてくれた木の実と私が見つけたパークツ草だけだった。他に食料を探そうと思うと、この森の中を歩きまわる必要がある。
そして、屋敷に帰るという最終目標を達成するためにも、やはりこの森の中を歩きまわる必要がある。
だが、透明化の魔法も、ムーナウルフのような鼻が良い魔物や、ホルトンのような感受性の高い魔物には見破られる可能性もあるし、移動したときのかすかな音を聞き分ける魔物もこの森にいる。
万が一強い魔物に出会っても勝てるほどの実力も必要だろう。そうなると次に私がやることは修行だ。
私は屋敷でやっていたことを思い出しながら、洞窟の中で修行を始める。
やることは単純。自分が覚えている魔法を、可能な限り火力を高めて使用する。
例えば火球を放つ魔法なら、できるだけ大きな火球を作ることに集中する。これは火球をひとまとめにとどめておく労力と、炎を発生させる魔法を持続的に発動させておく魔力が同時に必要になる。
大変なことだけど、これを続けていれば、意識しなくても大きな火球を作れるようになるし、疲労もたまりにくくなる。
そんなわけで、私が覚えている魔法それぞれで今の方法を試していく。
空刃。飛距離に応じて威力が落ちる魔法なので、その減衰を抑えるために頑丈な作りにする。ただしそうしようとすると鋭利さが損なわれやすいので難しい。
逆に鋭利さを上げる修行もあるが、そうすると飛距離による威力の減衰が顕著になる。こっちもこっちで練習する。
氷結。氷の塊は一度できてしまえば意識しなくてもその場にとどまってくれるので簡単。なので、氷の塊を素早く作る練習をすることにした。
時間さえかければ誰でもできる。重要なのはスピードだ。オーガさんがよく言ってたっけ。
火球。これはさっき言った通りの練習法で大丈夫。しいて言うなら、火傷しないように気を付けるだけ。
竜巻。これは洞窟内で練習すると中がめちゃくちゃになる。かといって外でやると魔物に気づかれる。だから無理。
回復。これは本当に分からない。対象を少ない魔力で素早く回復するように思いを込めるとか言われてるけどいまだに感覚がつかめない。
そもそも回復する対象がこの場に無いのに、どうやって練習したら良いの?屋敷でも適当な空間に無意味になる回復魔法をやってただけで実感わかないし。
物体操作。操作している物体が離れるほど操作が難しくなるので、徐々に遠くに物を動かしていって難しさに慣れる。
また、一度に2つの物体を操作する練習もする。上級者だと大量の物体を操作できるらしいけど、私は2つが限界、というより、少し魔力操作を誤ると片方が制御できなくなって地面に落ちてしまう。
とまあ、こんな感じで修行をやってみた。
1回じゃ実感がわかないのは分かってる。でも、続けることによって本当に少しづつ成長していくはずだ。
しかし、杖なしで魔法を扱うのは久しぶりかも……。屋敷ではこれと同じようなことを杖でやってたからね。
杖の素材や質にもよるけど、杖があれば魔法の効果も高くなる。さらに言うと、遠距離魔法を放つときの命中精度も高くなる。
それはそれで、修行をしていて分かったことがある。今の私には新しい魔法を覚えることができる環境がない。
屋敷にいた時は誰かが教えてくれたから良かったけど、今はそうじゃない。
ノーヒントから知らない魔法を無理矢理構築して使おうとすると不発に終わることが多いし、中途半端に出来上がってしまったときの効果が予想できないから危険。
じゃあどうやって先人たちは魔法を生み出してきたんだっていう疑問については、先人たちは天才だから難なく魔法を生み出した、の一言で片づけられている。適当過ぎない?
一応魔法の構造について事細かにまとめられている本があるし、それを参考にしたら新たな魔法が作れる。実際オーガさんがやったことある。
でも、私には本の内容が難しすぎて分からない。っていうか、屋敷のほとんどの人たちも分かっていないらしい。
とにかく、今は私が覚えている魔法だけでなんとかするしかない。
ヤッコは、というより、リセンダ貴族の者は皆魔法のエキスパートです。




