1-5: 閑話、リセンダ屋敷にて
ヤッコ追放後のリセンダ屋敷の様子です。
「ふん!才能なしを追い出せて清々したわ!」
リセンダ貴族の屋敷の中、ヤッコを追い出した直後のオーガが荒々しく声を上げた。
「本当に。多少強引でしたが、こうまでしないとあの女も踏みとどまるでしょうね」
オーガの傍にいた女性も、オーガの意見に肯定していた。
部屋の隅でオーガのことを見ている人たちの中には、どこか納得いかない表情を浮かべる者もいた。
「前からあの女を見ていると、どことなくイライラしていたんだ。そのイライラの原因が分かって、しかも追放までできたからな!これでリセンダ貴族も安泰よ!」
「そうですね。落ちこぼれがいては誇り高いリセンダ貴族の名折れですからね」
どうやらオーガの傍にいる女性はイエスマンのようだ。
「しっかし、使い魔の儀式というものは本当に合理的だな。早い段階で才能なしを見破ることができるのだからな」
「始まりは、成人の儀としてのお祝いの風潮が強かったらしいですが、今になってこんなところで役に立つとは、先人は先見の明があったようですね」
「先人からの偉大な力を受け継いできたのがリセンダ貴族だ。その家系に不良品があってはただの穢れだ。汚れは掃除して除去するのと同じく、不良品も処分するのが筋というものだ」
捨てられた側からすると、たまったものではない。
「あの、オーガ様?」
すると別の女性がオーガに近づいてきた。
「何だ?」
「オーガ様は結果よりも才能を重視されていますよね?何か、理由があるのでしょうか?」
「……ふむ」
オーガはしばらく考える素振りを見せた。
「さっきも俺が言ったとおり、努力だけでは才能がある者に絶対勝てない。なぜなら才能の分だけ実力の差が埋まらないからだ。努力は才能に勝てるとか言う妄言もあるが、それで勝てる相手というのは才能だけあって努力をしない者だけだ。このリセンダ貴族に、そんなやつはいない」
「言われてみれば、その通りですね。しかし、今までもウサギやネズミといった比較的弱い使い魔が召喚されたこともありましたが、それについてはどうなのでしょう?」
「俺だって鬼ではない。才能なんて後から自分で変えられるものではない。そんな小さいことで追放する気はなかったが……。いくらなんでもスライムはないだろう!?屋敷内で孤立してしまうのは明白だ。むしろ追放してしまう方があの女の為だ」
「……そういうものですか。ありがとうございます」
そして後から来た女は、オーガのもとから去って行った。
「そうだ。あの女の持ち物も処分しておけ。もうこの屋敷には必要のないものだ」
「わかりました」
傍の女がそう言って歩き出そうとしたその時、
「お待ちください」
一人の男が声を上げ、前に出てきた。それは、ヤッコの父親だった。
「なんだお前?何か文句でもあるのか?」
「その役割、私にやらせてくれませぬか?」
「お前が?うむ……」
オーガは少し考え、頷いた。
「良いだろう。誰がやろうと同じことだ」
「ありがとうございます」
父親はそう言って、その場を後にした。
「ところでオーガ様、本日のご予定は?使い魔の儀はもう終わりましたが」
ふと傍にいた女が声をかけた。
「ああ、そうだったな。想定よりも早く終わったし、適当に寄り道しながら次の仕事に向かうとするか」
するとオーガは屋敷の中庭に向かい、そこで使い魔のドラゴンを召喚し、そのドラゴンの背に飛び乗った。
「ビリティ、次の仕事まで時間に余裕がある。どこか行きたい場所はあるか?」
「グルルァァウ!!」
ビリティと呼ばれたドラゴンは、鼻息荒く唸り声をあげた。
「そうかそうか、準備運動がてら暴れたいか。良いだろう」
オーガはビリティに獰猛な笑みを見せた。そしてビリティは翼を大きく羽ばたかせ、上に飛びあがった。辺りに暴風が巻き起こる。
飛び上がる最中、オーガは軽く屋敷の周辺を見わたしていた。
「ふん、あの女はもういないか。門の前で泣き喚いているかと思ったが、物分かりだけは良いようだな」
そしてオーガとビリティは背を向けて、凄まじい速さでどこかへ飛んで行った。
「……ふぅ」
オーガが飛び去るのを見送っていた貴族の一部が、軽く一息ついた。
「オーガ様、何もその場で追い出すことはないでしょうに……」
「うん、でも、オーガさんのあの剣幕を見てたら、何も言えなくなるよ」
「オーガさん、強いからな。誰も逆らえない」
近くにいた人同士で、周囲に聞こえないようにヒソヒソと話し始めた。
「俺、こっそりあの子探してこようかな?」
「ダメダメ。まだ門の前にいるなら良いけど、奥まで入っちゃったらもうどこに行ったか分からない」
「仮に見つけて連れ戻したとしても、いつか絶対ばれるわ。そうなったら匿った私たちも追放されるかもよ?」
「さすがにそれは、ないと、思うけど」
そんな話をしていると、後ろから老婆が近寄ってきた。
「この屋敷も、随分と変わったもんだねぇ」
「あ、アルテばあさん」
アルテばあさんと呼ばれた老婆は、言葉を続ける。
「昔は、親族同士で意見が対立したときはそれぞれで話し合って、解決案や妥協案を見出していたのじゃが、今の様子を例えるなら、オーガの独裁構造じゃ」
「まぁ、確かに。誰もオーガさんに抵抗できない。強すぎるもの……」
「でも、オーガさんって昔はあんな横暴な性格じゃなかった気がするんですが」
それを聞いたアルテばあさんが、悲しそうな表情で話し出す。
「その通りじゃ。オーガも子供のころは謙虚で向上心のある子じゃった。だが、使い魔の儀でドラゴンを授かってからというもの、様子が変わってしもうた」
「なるほど、自分の才能が最高レベルにあると分かったとたんに、他人を見下すようになったと」
「それもそうじゃが、一番の決定打となったのはオーガの父の死じゃ。オーガは──」
「おい、何話してんだ?」
突然、アルテばあさんの話をさえぎって後ろから男が声をかけてきた。
「まさか、あの子の追放に反対とか言うんじゃないだろうな?」
「いや、もう過ぎたことですし、もういいですよ」
追放反対派の面々は取り繕うように返事をした。
「個人の感情でばかり動いていたら、組織の命運にかかわるんだ。それを忘れるなよ」
男はそう言って、去って行った。
「……」
「結局、オーガさんの意見がすべてだな」
「うん。私も同じこと思ってた」
「いくら正論を並べ立てても、圧倒的な力の前では無意味だ」
「……私の使い魔、ウサギなんだけど。そのうち私も追放されるのかな?」
「ウサギかぁ……、ありえるな」
「……いつ追放されても良いように、荷物まとめておこうかな」
ここはヤッコの部屋。いや、元ヤッコの部屋。白い壁で囲まれた空間に、本棚やベッド、絵画、カーペット、机、クローゼットなど、生活用品が規則正しく並べられていた。
日頃から掃除がなされているようで、目立った埃や汚れは見当たらない。
その部屋の中で一人、ヤッコの物を鞄に詰め込む人物がいた。ヤッコの父親だ。
父親はヤッコの部屋にあるものに注意深く目を通し、あるものを一つ取っては鞄に入れていく。
すると突然、部屋の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「ああ、ここにいたのね」
それは女性だった。どうやらヤッコの父親を探しているようだった。
「ラベンカ、どうした?」
父親は鞄に詰める作業をしながら聞いた。
「……あなた、何してるの?」
「ヤッコの為に、使えそうなものとヤッコの私物を集めているところだ」
「ヤッコの為?娘はもう屋敷から追放されたのよ?」
「ああそうだ。ヤッコは今後、屋敷の外で生きていくのだ。そのために私にできることをしている」
ラベンカと呼ばれた女性は困惑の色を隠せていない。表情に出てしまっている。
「あなた、いつにもまして言ってることが変よ」
「そうか?我が子の巣立ちを応援する親としては当然だと思うが?」
父親の言葉にラベンカが表情を曇らせる。そして、目をそらしながら、言う。
「あなた、私、見ちゃったのよ。ヤッコが外に追放された後、どうなったか」
「……門の前のカメラでも見たのか?」
「ええ。ヤッコが門の前でしばらくうなだれてた後、ムーナウルフの群れに追いかけられて逃げるところまで」
「……」
部屋の中に沈黙が流れる。
「もう、ヤッコはこの世にいないわ。私の育て方が甘かったばかりに、一人娘を落ちこぼれのまま、死なせてしまった」
ラベンカは声を震わせながら、涙を浮かべた。
一方父親は、表情一つ変えずに作業を続けていた。
「……ヤッコは生きている」
「……え?」
「ヤッコは、我が自慢の娘だ。そんなことで簡単に死にはせぬ」
「……夫に対して、ましてや娘のことについて、こんなことは言いたくないのだけれど、現実を見て頂戴。ヤッコの使い魔に選ばれたのはスライムで、ついさっき一人でムーナウルフに追われて森の奥に逃げて行った。これは紛れもない事実よ」
「事実で話をするのであれば、ヤッコが死んだというのは、事実か?」
夫に聞かれたラベンカは、少し迷う素振りを見せながら、答えた。
「いいえ、憶測だけれど、でも、そうなっていてもおかしくない。というか、そうなっていないとおかしい」
「ふっ、相変わらずラベンカは理論で話したがるな」
父親はゆっくり立ち上がり、笑みを見せた。
「私たちは娘を、あのくらいでくたばるような子に育てた覚えはないぞ?」
何やら意味ありげな一言ですね。
って、ええ!?ここまで読んでくださったのですか!?本当にありがとうございます!大好き!
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それでは、次章でまたお会いしましょう。




