1-3: 必死の逃走
生き残れるでしょうか?
今思えば、屋敷からの追放は、ある種の死刑宣告だったんだ。
まだ魔法も基礎的なものしか覚えてないし、威力もそんなに出ない。森で実戦練習するときも、いつも誰かが傍にいてくれていた。
でも今は、だれにも頼れない。私一人で対処しないといけない。屋敷から追放されて身寄りもない私だけど、まだ私は死ぬわけにはいかない。
相手はムーナウルフ。1匹でもギリギリ勝てるかどうか分からないのに、群れとなると私一人が勝てるはずない。だから今やるべきことは、ムーナウルフから逃げ切ること。
ボファア!!
私は足元に魔法の霧を発生させ、身を隠しながら走った。思ったより効果があるようで、ムーナウルフはあからさまに霧を避けて追ってくる。
これで距離を稼ぎつつ、どこか身を隠せる場所を見つけなきゃ!
「あっ」
しまった。後ろを気にしすぎたせいで前をよく見ていなかった。
目の前には別のクマの魔物、クーゲルベアーが立っていた。しかも子持ち。最悪だ……。
クーゲルベアーはもともと気性が荒く、自分の縄張りに入ってきた部外者はかぼちゃのように叩き潰す。しかも子持ちとなるとその凶暴性を増す。
「ガァアアアアア!!」
クーゲルベアーが雄たけびを上げながら私に突進してきた。まぁ、そうですよね。
私は自分の前に魔法のバリアを張った。これは突進を受け止めるための物じゃない。可能な限りその威力を抑え、そして私が回避できる可能性を少しでも上げるためのものだ。
当然私のバリアは軽々突破され粉々に飛び散ってしまったが、なんとか私に直撃することは免れた。
しかし、だからと言って危機が去ったわけではない。反対側から来たムーナウルフがもう目の前にまで迫ってきている。さっさと逃げなければ。
「ギャン!!」
「グォオオオ!!」
……えっと、クーゲルベアーの怒りの矛先がムーナウルフに向けられて、群れの一部が私から引き離されたみたい。まぁ、私にとっては大いに助かる。ありがと、クーゲルベアー。
てか、クーゲルベアー、子ども放ったらかしで暴れてるんだけど、大丈夫なのかな?いやいや、今は私の心配だ。
群れの一部が引き離されたとはいえ、追ってきている数は10を超えている。まだ油断はできない。
とにかく、ムーナウルフから距離を取りつつ、他の魔獣にも極力会わないようにしながら、隠れる場所を探さないと!
私は霧を発生させながら走り続ける。
ボフォオ!!
ムーナウルフは分かっていたかのように、左右に分かれながら私を追う。
……うーん、もしかしたら、もう効果がないかもしれない。何度も使いすぎてパターンを読まれたかもしれない。
一応、魔法の中には自分の姿を視認できなくするものとか、自分の足を速くするものとか存在はするのだけど、どれも難易度が高くて成功率が低い。
こんな土壇場で発動して、失敗したときのことを考えるととても勇気が出ない。ハイリスクハイリターンだ。
……いや、距離を詰められてから発動するより、距離が開いてる今やってみるべきか?
私は走りながら、透明化の魔法を唱えてみた。
スゥゥゥ……。
……えっと、消えてる?
私は自分の手を見る。……うん、消えてそう!
走っていたムーナウルフもその足を止め、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。これ、成功したんじゃない!?
ところが、今度はクンクンと匂いを嗅ぎ始め、ジリジリと私がいるところに近づいてくる。
うわぁ、今度は匂いかぁ。流石に匂い消しの魔法はやり方分からないよぉ。難しいはずはないんだけど、使うことないと思って覚えようとしてなかった……。
これはもう位置バレしてると見て良い。再び走り出そうとしたその時、
……囲まれていた。
これは、逃げ場がない。どうしよう。多分私がじっとしている間に取り囲んだんだ。
ムーナウルフが一斉に飛びかかってきた。まだ透明化魔法はかかっているはずだけど、的確に私の方をめがけて爪を振りかざしてくる。
これ、私終わったな。このまま誰の目にも止まらずにやられて、森の何気ない日常として誰の記憶にも残らずに闇に葬られるんだ。
せめて、屋敷の人たちにもう一度会いたかったな……。
そう思いながら、目を閉じた。
……ん?あれ?痛くない?
私、もう死んだのかな?ここは、死後の世界?
薄暗いような、冷たいような、そんな印象を受ける。
でも、私の身体はどこも噛まれた感じがしないし、傷もなさそう。死後の世界だから?
私はゆっくりと目を開ける。
ここはまだ森の中だった。
……あれ?私は確か、ムーナウルフに襲われて、死んじゃったはず。
周りを見ると、ムーナウルフはまだ私に襲い掛かっていなかった。それどころか、何やら上を向き、たじろいている様子だった。
上?確かにさっきから薄暗いし、上から冷気が漂ってきている。
何かいる。そう思って、恐る恐る上を見た。
デカい。
"それ"の真下にいるせいで全体像が私の視界に収まらないけど、半透明の身体をしている"それ"は、四足歩行型で巨大な翼を持つドラゴンの形をしていることは分かった。
液体のような個体のような、半透明な水色の身体。かなり見覚えのある身体。
もしかして、
「……スライム君?」
次の瞬間、ドラゴンの反撃が始まった。
無双パート開始です。




