2-16: 閑話、リセンダ貴族にて2
また閑話です。
「ヤッコが、生きていた!?」
ヤッコが姿を現した数分後、当然屋敷内は騒然としていた。
「おいおい、追放したの随分前だろ!?」
「ヤッコの誕生日の日だから、大体2カ月前だ」
「2カ月も一人で森の中で暮らして無事だったというのか!?信じられん!!」
追放反対派、賛成派、ともに激震が走っていた。この瞬間、屋敷内はヤッコの話題で持ちきりだった。
「騒がしいぞ!」
オーガの一声で、この場は一瞬で静まり返った。
「あの小娘が帰ってきたからなんだ!?もうあの小娘はリセンダ貴族の者ではない!何をそんなに気にすることがある!?」
「オーガ様、あのヤッコが帰ってきたということは、2カ月もの間、森の中で暮らして、無事だったということになるのですが」
「それがどうした?」
「その……、つまりヤッコにはそれだけの能力があるということなのでは?」
オーガは見下した目で貴族たちを見る。
「ふん!お前らは物を見る目がないのか?その答えはあの小娘が来ていた服にある!」
「服?といいますと?」
「あの小娘が来ていた服、妙に小奇麗だっただろう?2カ月も森の中で暮らしていたなら、所々破れていてもおかしくないだろう?」
「言われてみれば、確かにおかしいですな」
「ということはだ、誰かがあの小娘を匿っていたのだ!小娘の力ではない!」
「確かに、ありえなくはないですが、でも、誰が?」
「それは知らぬ。だが、誰であっても関係ない。それに、考えてもみろ。スライムを召喚した才能無しが、一人で2カ月も魔物の巣くう森で生きていられると思うか?」
「……いや、ありえませぬな」
「どのみちあの小娘は誰かに頼らないと生きていけない存在。要するにお荷物だ!そんな奴は見放して当然だろう?」
「ふむ……」
貴族たちは考える素振りを見せた。
「とにかく、またあの小娘が姿を現わしたら、構わず始末しろ。いいな!?」
オーガはそう言うと、どこかに歩いて行ってしまった。
「オーガ様は、そう言ってるけど……」
屋敷の隅の方、追放反対派のグループでは、他の誰かには聞こえないような声で話していた。
「オーガ様だって見たはずでしょ?あのスライムが、巨大なドラゴンに変身したところを」
「スライムって、そんな能力あったっけ?」
「ないない。そんなことしてるスライム初めて見た」
「てか、そんなスライム存在しないでしょ?文献にもそんなの書かれてないよ」
「じゃあ、ヤッコのスライムって何者なの?」
「さぁ……」
少しの間、沈黙が続く。
「あのさぁ、これぇ、俺の憶測なんだけどさぁ」
グループの一人が話し始めた。
「ヤッコさぁ、もしかしてぇ、才能めちゃくちゃあったんじゃね?」
「……うん。私も、そんな気がする」
「おぅ、ヤッコ普段から成績良かったしぃ、人一倍頑張ってたしぃ、そんなヤッコが才能無しって分かったときぃ、違和感しかなかったわけぇ」
「そうだよな。ワガハイ、ヤッコと稽古つけたことあるんけどさ、あの子、適応力高かったし、すぐに手強い相手になっていったからな」
「それにぃ、あのスライムってぇ、ただのスライムじゃないと思うんだよねぇ。ドラゴンになることができるってぇ、それもうドラゴンなんじゃね?」
「ちょっと飛躍してる気がするけど、でも、冗談にはできないね」
「そぅそぅ。主の素質に見合った使い魔が召喚された結果ぁ、あの見た目スライムだけどめちゃくちゃ強そうな個体が生まれて来たんじゃなぃ?」
「多分、あのスライムのおかげで2カ月も魔物がいる森で生きてられたんだと思うよ」
「たぁしかにぃー。となるとぉ、そんなヤッコを手放した俺らってぇ、相当ヤバいんじゃなぁぃい?」
「そうなるねぇ……」
グループが再び静まり返る。
「……私、今からでもヤッコに謝ってこようかな?こっそり外出して」
「え?無理じゃなぃ?森のどこにいるか分かってるのぉ?」
「……うん、分かんないね」
「あなた、ヤッコは!?」
ヤッコの父親、ガーナの部屋に、ラベンカが入ってきた。
「ああ、旅立ったよ」
ガーナは落ち着いた様子で話した。
「……本当に、あなたの話した通りになったわね」
「だろう?ヤッコは必ず帰ってくると」
「でも、2カ月もかかるなんてね。いつまでも帰ってこないから、やっぱりもう帰ってこないとばかり……」
「私も正直ヒヤヒヤしたぞ。長くても1週間で帰ってくる見込みだったからな。流石に正直諦めかけていた」
ガーナは手を横に広げて、おどけた様子で言った。
「もう一つ誤算があるとすれば、ベルのことだな」
「ベル?」
ラベンカは疑問の声を上げる。
「ああ、そうか。ヤッコはあの使い魔のスライムに、ベルと名付けたそうだ」
「あのスライムに?ヤッコ、もう使い魔として受け入れてしまったの?……まぁ、無理もないでしょうけど」
するとガーナは、可笑しそうに微笑んだ。
「ふふっ。ラベンカよ。ベルのことをどう思っている?」
「え?……何もできない、ただのペット。スライムなら、そう扱うしかないと思うけど」
「正直、私もそう思っていた。だが、私はこの目で見たんだ。ベルがドラゴンに変身するその過程を」
「……え?ベルが、スライムが、ドラゴンに変身??」
「ああ。正直目を疑ったよ。だが、おかげで色々と謎が解けた。やはりヤッコは才能に満ちた逸材だったのだ」
ラベンカは言葉に詰まっていた。最弱種のスライムが、最強種のドラゴンに、変身……?
「それ、本当のことなの?」
「疑うなら、屋敷の門の前のカメラを見てみると良い。まだそんなに時間は経ってない、記録は残っているだろう」
「……」
「やれやれ、ベルが優秀な使い魔であるなら、使い魔の扱いをまとめた書物も荷物に入れておくんだったな。ヤッコ。恐らく使い魔の扱いを全く知らない」
「それで、予定通りヤッコを街に向かわせたの?」
「ああ。今頃荷物に入れた手紙に気づいている頃だろう」
「……街に向かった後、ヤッコはどうするつもりかしら?」
「さぁねぇ……。我が貴族のことを忘れて、気ままに暮らしてほしいのが私の願望だが、ヤッコはどうするつもりだろうねぇ……」
「……でも、ヤッコがどんな道を選ぼうとも、私は否定するつもりはないです。……犯罪さえ犯さなければ」
「……だな」
両親もひとまずは安心ですね。
ここで第2章は完了です。……ここに来るまで結構な文字数あったはずなのに、読んでくれたのですね。マジでありがとうございます! 大好き!
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それでは、次章でまたお会いしましょう。




