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2-15: 旅立ち

結局、ここを()つことにしたようです。

私は、洞窟の中に広げていた荷物を、すべてヴァンダルバッグの中に詰め込んでいた。


私は昨日、たくさん考えた。ここに残ってクーくんと修行をしながら過ごすか、クーくんと別れて街で安定した生活を送るか。

私が出した答えは、どっちでもない。クーくんを連れて街に向かう。

ここに残るのであれば、私の身は常に危険にさらされるだろう。だいぶ前のロブロの件といい、死にかけたことだってある。当然長生きはできないだろう。

ベルがいるから最初から頼ればいいのだろうけど、それでも私の魔力を失う以上連戦ができないし、頼ってばかりじゃダメだという私の信念にも反する。そんなのただのお荷物だ。

ではさっさと街に向かえばいいのではと思ったが、それだとクーくんはどうなる?

クーくんにはおそらく、家族がいない。独りぼっちだ。もし家族がいるなら、その家族を放っておいて私にばかり構うような浮気じみたクーゲルベアーということになるが、……そんなことをするような子には見えない。

クーくんは、私にとって良いクーゲルベアー、いや、親友だ。結局、どうして人間の私にここまで良くしてくれているのかは謎のままだけど、色々助けてくれたし、恩返しもしたい。

逆に言うと、クーくんがいなければここに(とど)まる理由がない。であれば、クーくんと共に街に向かえば良い。

私は元リセンダ貴族だ。駄々をこねればもしかしたら通してくれるかもしれない。

周囲の目線が気になるけど、スライムのベルが使い魔だという時点で印象は低いだろうし、こうなったらとことん下げてやる。


クーくんは、私の旅立ちの準備の様子をずっと見てくれているようだ。大丈夫だよ。クーくんも一緒に行くんだよ。

「よしっ!」

私は荷物をすべてヴァンダルバッグに詰め込み、立ち上がる。

「クーくん。私はこれから街に行くんだ。一緒に来てくれる?」

私はクーくんの手を取り、洞窟の外に連れ出し──


シュパッ!!


……クーくん?

クーくんが、私の手を振り払った。

え?どうして?クーくん?

見ると、クーくんは(うつむ)いていた。

「クーくん?どうしたの?」

……。

「一緒に、来てくれないの……?」

私は再びクーくんの手を握るが、クーくんは首を振ってこの洞窟から出ようとしない。

ねぇ、本当にどうしたの?


すると、クーくんが泣き始めた。

クーくんの瞳から、涙がポロポロと零れ落ちていた。

「え、クーくん!?」

ガバッ!

気が付いたら私は、クーくんに抱き付いていた。

クーくんも私の背中に腕を回して、泣いていた。

「ウオォォォォォォォン!」

クーくん、来れないんだ……。多分、私の知らない何かがあるんだ。

それなら、私がここに残って一緒に過ごす選択も……?


トンッ


クーくんが私の背中を押して、洞窟の出口に向かわせた。

……行けってこと?

クーくんが、私の今の状況をどれだけ把握しているかは分からない。

でも、クーくんが行けって言うなら……。

「うん、行ってきます」

私はそう言って、洞窟を出た。涙は見せない。ハグならさっきやった。もう戻らない。


「グワァォオ!!」

え?

洞窟を出て数十歩進んだ後、後ろからクーくんが呼び止めてきた。

振り向くと、クーくんが洞窟の前で立っていた。……?左手に何か光るものを持っている。

忘れ物したかな?そう思って近づいてみると。

「……綺麗」

それは、見たこともないような美しい輝きを放つ宝石のような物体だった。

なんだろう、これ?ダイヤモンドよりも綺麗な、値がつかないほど高価そうな代物だ。クーくん、こんなの持ってたんだ。

するとクーくんは、その宝石は私の方に渡してきた。宝石を握るその腕は、少し震えていた。

私はおもむろに、その宝石を受け取る。クーくんの体温が残るその宝石は、まるで鼓動のような振動を発していた。

「……ありがとう」

私は思わず泣いてしまった。あれ、おかしいな。さっき涙は見せないって決めたのに。気がついたらハグまでしてた。

するとクーくんは私を引き離して、外へと押し返した。

うん。そうだね。行かなきゃね。

「クーくん!ありがとう!私、強くなったら、絶対また会いに来るから!!」

私はクーくんからもらった宝石を握り締めて、手を振って別れを告げた。クーくんも、左腕を左右に振ってくれていた。


私の新しい目標ができた。強くなる。

森の魔物に負けないくらい強くなって、またクーくんに会いに来るんだ。

そうと決まれば、街に着いた後にすることはほぼ決まったようなもの。


今まで話にしか聞いたことのなかった、冒険者ギルドとやらに入ってみよう。

そこなら思う存分修業ができるかもしれない。自分に合わなければ、また別の手段を考えれば良い。


……。


洞窟の前に残された、少女からクーくんと呼ばれていたクーゲルベアー。

彼は、(かたく)なに隠していた。

ヤッコが森の奥深く、自分からも、ヤッコからも見えなくなるまで、その姿を見届けた。

クーくんは、幸せそうに微笑んだ。

目を閉じ、涙を一粒こぼし、上を見上げる。

かつてないほど幸せそうな笑み。

ありがとう、ヤッコ。と、そう聞こえてきそうなほどの笑み。

そして、深呼吸をして、自分の両腕を見る。

その表情に、もう迷いはない。

クーくんはそのまま日の当たる外の世界に背を向け、洞窟の中へと歩みを進める。

そしてクーくんは、暗い洞窟の中に、まるで霧のように消えていった。

また会えるといいね。

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