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1-2: 最弱スライム

スライムを見た周囲の反応はどうでしょうか?

スライム。

それは最弱種とされているモンスター。

私が攻撃魔法を教わったばかりのころに、最初に倒したモンスターもスライムだった。

スライムより弱い種族は、この世界に存在しない。仮にいたとしても、確認されていない。

そんなスライムが、私の使い魔……?

「スライム、だと?」

「これは、どういうことだ……?」

「手順を間違えたのか!?」

「いや、そんなはずは……」

親戚たちがざわめくのも無理はない。だって、今までこの儀式でスライムが召喚されたことなんて1度もないから。


「鎮まりたまえ!!」


突然、オーガさんの声が屋敷に響いた。

「オーガさん?」「オーガ様……」

私を含む貴族全員が、オーガさんの方を見る。

そして私は気が付いた。オーガさんは私の方を、厳しいまなざしで見つめていた。

「お前たちがどれだけ騒ごうと、結果は変わらん!その娘の使い魔は最弱のスライム!なぜ自らの目で見た結果を疑う!?」

そんなことは、みんな分かってる。でも、それを認めてしまったら……。

「それすなわち、その娘には素質が全くないということだ!」

はっきり言いましたねオーガさん!?でも、事実そういうことになる。

使い魔は呼び出した本人の素質に見合った種族が召喚される。弱い種族が召喚されてしまったら、本人の素質の無さが露呈される。

一番弱いとされるスライムが使い魔だった私は、素質ゼロ。才能なしということになる。

そんな……。いつもみんなから優秀って言われてたのに、あれって全部嘘だったの?

「オーガさん。ヤッコの前で堂々とそんなこと……」

屋敷の人がオーガさんに話しかける。

「ふん。もうこの家の者でない奴に、遠慮など要るものか」


……え?今、なんて?

ザワザワ

屋敷のみんなが再びざわめきだす。

「オーガさん、今の言葉、どういう?」

「まだ分からぬのか?その娘は今日限りで追放だ」


……。


突然、脳内を直接殴られたかのような衝撃が走った。

「なんで……」

気が付いたら、私はオーガさんに走り寄っていた。

「どうして追放までする必要があるんですか!?」

私は泣いてすがっていた。それ以外に、どうしたら良いのか分からなかった。

「そうですよ。今まで一緒に魔法の鍛錬を行ってきたじゃないですか」

「オーガさん。使い魔の件はいったん忘れて、冷静になりましょう?」

親戚の人たちも、私を擁護してくれた。それが私には、頼もしかった。

すると、オーガさんは私を振り払って、ため息をついた。

「じゃあ逆に聞くが、どうしてこの才能なしをこの家に(かくま)っておく必要があるんだ?」

オーガさんが冷たく言い放った。才能なしを匿う理由……。うん、ないかもしれないけど、追放する理由もないでしょ?

「ヤッコ、申し訳ないが、俺はオーガさんの意見に賛成だ」

「私も。才能の無い人がリセンダ貴族にいるとなると、この家の名誉に関わります」

すると、別の親戚たちからも、追放に賛成する声が上がった。


そこからは、賛成派と反対派で意見がぶつかり合った。

「この子は魔法の覚えも良いし、上達も早い!才能がないなんて何かの間違いだ!」

「だが、使い魔がすべてを物語っている。その子は間違いなく、才能がないことになるぞ」

「だからと言ってすぐに追放だなんて、家族の情というものは無いのか?」

「情では名誉は満たせない。落ちこぼれを匿って貴族の名まで落とすつもりか?」

「貴族の名誉と一般の倫理、どっちが大事だというのかね?」

「この家の周囲は魔物の住む森だ。そこらの魔物に処分してもらえば闇に(ほうむ)れる」

「貴様……、その言葉こそ、貴族の面汚しではないのか!?」

親戚たちは真っ二つ、いや、追放に賛成する人がやや多い。

それぞれの意見で対立する貴族たちを見ているのは、正直辛かった。

「やめてください!」

私は声を上げると、親戚たちは黙った。ことの原因は私だ。なんとか丸く収めて、追放だけは避けなければ。

「私は、オーガさんのことを誇りに思っています。私の人生の目標です。私の使い魔がスライムだったことは、もうどうしようもないことです。

でも、私は他の皆の誰よりも努力できると自負しています。今はもう落ちこぼれでも良いです。

しかし、これから先、より一層精進(しょうじん)して、いずれはオーガさんにも比類ない魔法使いになりたいと思っています。ですので、どうか、私をこの家においてくれないでしょうか?」

私は深々と頭を下げて、オーガさんに頼みこんだ。

「……」


ゴスッ!


私は下げた頭を上から強く殴られ、顔面を床にたたきつけられた。……なんで?

「オーガ様、何を!?」

周りの親戚が慌てて制止するが、オーガさんの怒りは収まらなかった。

「お前には心底失望したぜ!お前は言うことも一般人なんだな!?」

私はあまりの痛さに起き上がれなかったが、オーガさんの声ははっきり聞こえていた。一般人……?何を言って……?

「『より一層努力して俺みたいな魔法使いになりたい』だぁ!?俺が一番嫌いな言葉をよくもまぁ平然と言ってのけたなぁ!こいつを教育したのはどこのどいつだ!?

お前が言ったその言葉、一般人にも耳にタコができるほど聞かされてんだよ!才能もねぇクセに夢だけ見てる頭ハッピーセットの一般人によお!

そもそも俺に追いつくなんて無理に決まってんだろうが!俺は才能もあって努力もしてんだよ!才能ねぇやつがいくら努力したって才能あるやつには勝てねぇんだよ!

第一、努力なんてリセンダ貴族ならみんなやってんだよ!そんなアタリマエのことを"今から"頑張りますってお前は今まで何やってきたんだ!?ああ!?」

耳が痛い。多分、オーガさんが言ってることは正しい。でも、あまりにも暴論が過ぎると思うのは私だけだろうか?

反論したいのだけれど、できない。もう何を言ってもオーガさんの怒りは収まらないだろう……。

するとオーガさんが私の服を乱暴につかんで、屋敷の外に出た。

「お前の顔なんざもう死んでも見たくねぇ!さっさと出てけ面汚しが!もう二度とこの門をくぐるな!」

ドカッ!

オーガさんが容赦なく私の顔を殴り、そのまま屋敷の外に放り出された。

使い魔のスライムもボールみたいに蹴られながら追い出されて、屋敷の門は固く閉ざされてしまった。


「……」


私はその場に座り込んだまま、何もできなかった。

本当なら、開けてください!とか、叫びたかった。

でも、オーガさんの言ってたことを思い出したら、私はもうここにいてはいけないのかと思った。

そりゃあ、可能なら屋敷に戻りたいけど、多分オーガさんが許してくれない。

才能なしがどれだけ努力を積み重ねても、才能ある人も同じくらい努力を積み上げる。いつまで経っても差は縮まらない。

でも、せめて、個人の実力の伸びを見てほしかった。


ピトッ


ふと、右足に何か冷たいものが乗っかった。

……ああ、キミか。スライム君。

……なんで私の使い魔はスライムだったんだろう。

私って、そんなに素質無い?


ぐでー


スライム君が私の膝の上で半分溶けたように横たわっている。

液体のような個体のような、半透明な水色の身体で、ビー玉みたいな黒い目玉が2つ。

特に鳴き声を発することはない。多分私の気持ちとかも知らないんだろうな。

こうやってじっくり見るのは、これが初めて。

なんか、ちょっとかわいい……?


……もう少し、ここで待ってみよう。

屋敷には防音効果のある魔力壁が敷かれているから、中で何が起きているのか分からない。

もしかしたらだけど、誰かがオーガさんを説得してくれて、私を連れ戻そうと誰かが出てきてくれるかも。ほんと、もしかしたらだけど。

当の本人の私が森の奥に行ってしまっては、連れ戻すことも難しくなる。……ほんとに、わずかな可能性にかけてるけど。

ガサッ

ん?

私の左の方で、何か物音がした。

恐る恐る目線を左に向けると、そこにはオオカミ型の魔物が。

それはムーナウルフ。群れで行動し、多対一で獲物を追い詰める厄介な魔物。

森の奥からぞろぞろとムーナウルフが現れる。今の私は、無防備。屋敷のだれにも助けを求めることができない、格好の獲物だ。


私はその場から全速力で逃げ出した。

突然ピンチです。

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