2-13: 必死の抗議
まだ諦めきれないヤッコ、なんとか食い下がります。
如何なる理由があっても、私をリセンダ貴族として扱わないことが、決定した……?
しかも、オーガさんの名の下で?
「それって、どういうことですか!?」
「それは、すべて使い魔の儀で起こったことが全てだ。ヤッコは最弱種であるスライムを召喚し、ヤッコの才能の無さが露呈した。オーガとしても、誇り高きリセンダ貴族に才能無しを置いておくわけにはいかないのだ」
「それは、誤解です!……いや、誤解かもしれません!ベルは、……このスライムは、普通のスライムとは違うんです!」
「ベルか、良い名前を付けたな」
この時、父上が優しく微笑んだような気がした。そして父上は、持っていた鞄を私に差し出した。
「この中には、ヤッコの私物や、私が選んだ役立ちそうなものを詰め込んである。これを持って、次の行動を考えてくれ」
私は、言われるままにその鞄を受け取ってしまった。
「……ですが、これを見てください!ベル!」
私はベルに指示を出すと、ベルは最初に私に見せてくれた、ドラゴンの姿になって見せた。
「……なんと!」
流石の父上もこれには屋敷の3階に届きそうなほどの大きさのドラゴンベルを見上げ、目を見開いて驚いていた。
「このように、ベルは巨大なドラゴンになることもできます!私の魔力を多く消費することが難点ですが、この他にも、先ほどのキツネや、トラにだってなれます。自分でこんなことを言うのも烏滸がましいですが、こんな多彩な能力を持つスライムを召喚できた私は、決して才能無しではないということではないでしょうか!?」
父上はしばらくドラゴンベルに見入っていたが、やがて私の方を見て、申し訳なさそうに話し始める。
「しかし、赦してくれ。ヤッコの言うことは尤もだが、私も不本意なのだ。私やヤッコが何を言い、何をしようとも、オーガの決定が全てなのだ。私も不甲斐ないばかりに、ヤッコを貴族から追放してしまった」
「……オーガ様!見ているのでしょう!?このスライムを見ても、まだ私が才能無しだというのですか!?」
私はカメラの方を見て訴えかけた。
「……ヤッコ、行きなさい」
……父上も、どうしてこんなに私を追い出そうとしているの?いくらオーガの決定が全てと言っても、父上も反論の一つくらいしても良いのでは?
「……どうしても貴族として迎え入れてくれないというのであれば」
私はその場に座り込んだ。ベルも、元の姿に戻ってもらう。
「私はここに居座ります」
私は父上の目を見て言った。父上も眉を上げ、少し驚いた様子を見せる。
「屋敷の外で暮らすことは、禁止されていないはずですし、今までそうしてきました。この場所であれば、まだ屋敷の外でしょう?」
「ヤッコ……」
父上の目線が泳ぎ始めた。どうやら、何かを言いたそうな雰囲気だけど、その何かを話してくれない。
沈黙の時間がしばらく続く。父上はどこか落ち着かない様子で、私に目を合わせたり、逸らしたり……。
ドスゥン!!
「きゃっ!?」
突然上から何かが落ちてきた。落ちてきたそれは私は鷲掴みにし、持ち上げてしまった。
これは、オーガさんのドラゴン!?
「ギャーギャーうるせぇんだよ小娘がぁ!!」
直後、オーガさんの声が響いた。下を見ると、オーガさんが門の前に立っていた。
「良いか!?お前は俺の慈悲で生かされてる!だが、今度俺の前にそのきたねぇ面見せたらブッ殺すぞ!」
……これは、多分ダメだ。オーガさんがこの様子だと、次会ったら本当に殺されてしまいそうだ。
「ビリティ、捨てろ」
するとオーガさんのドラゴンは、私を森のどこかに放り投げてしまった。
ん?え、ちょっと!?これはまずい!
ただでさえ背が高い森の木よりも高い所に放り投げられた。このまま落ちたらただじゃすまない!っていうか、まだ肋骨の骨折も治ったばかりなのに!
これ、どうしよう。徐々に高度を落としていき、森の木が迫ってくる。
すると、ベルが私の身体の中から現れた。
……え、ベル?そういえば、屋敷の前に取り残されたはずじゃ?
そんなことを考える暇もなく、ベルの身体が大きくなり、その半固形の物質で私の全身を包み込んだ。顔も一緒に。
えーと?ベル?そんなことされたら呼吸ができない!
ガサガサガサッ!!
私の身体が森の木にぶつかり始め、荒い音が鳴り始める。
そしてすぐに気づいた。こんなに激しくぶつかっているというのに、全く痛くないということに。
本当ならこの時点で枝や固い樹木が私を襲ってくるはずなのに、ベルの身体がその衝撃を吸収しているのだ。
ドスンッ
そして、森の枝木を抜けた後は、雑に地面にたたきつけられた。このときも、やっぱり痛くなかった。
その後ベルは、私の身体を頭からゆっくりと開放していった。
「ふぅ、ありがとう、ベル」
私はベルの頭を軽くなでてあげた。ベルは目を細めて笑ってくれた。
そうだ、前にベルが木の実を採ってきてくれた時も、雑に落ちてきたはずなのに中で抱えていた木の実は無事だったなぁ。クーくんが落としてきた木の実は潰れたりしてたのに。
……しかし、無造作に投げられたせいでここがどこだか分からない。何か目印になるものはないかな。
ドスッドスッ
ん?
私の左の方で、何かが走ってくるような物音がした。
私は恐る恐る目線を左に向ける。あれ、この展開前にもあったような……。
その物音は、徐々に距離を縮めてくる。そして現れたのは。クーゲルベアーだった。
……クーくん、だよね?それとも、野生のクーゲルベアー?雰囲気的にクーくんだと思うけど、間違ってたらマズいぞ。
そのクーゲルベアーは私の前でしゃがみ込み、明らかに私を心配するような挙動をしている。
あーうん。クーくんだ。背中の3本線の傷も見えた。うん。完全にクーくんだ。
でも、よくわかったなぁ。……あ、そうだ。クーくん、今までの出来事をずっと見てたんだ。
……情けない所、見られたなぁ。
「ありがと、クーくん。私は、大丈夫。……大丈夫」
でも、これからどうしよう?屋敷に帰るっていう目標は、もう達成できそうにない。でも、これからやることも見つからない。
「……クーくん、隠れ家までの道、分かる?」
私はクーくんの腕に寄り添って、言ってみた。すると、クーくんは私の背中をやさしくなでてくれた。
……本当に、やさしいなぁ、クーくんは。
そして、帰り道を知っているらしいクーくんの案内で、隠れ家に帰ってきた。
結局ダメだったね。




