2-12: 帰還
久しぶりの外です。
しばらく外に出ていない間、森の中はところどころ変わってた。
青いキノコが生えている地帯は、今度は黄色いキノコになってたり、誰かのデッカイ糞は土に還ってたり。
それもそうか、キノコだって、この森の誰かの食糧になるし、私が見つけていた目印は消えるか変わってしまう可能性がある。この森もずっと不変という訳じゃないんだなぁ。いや、当たり前か。
一方、2本並んだ双子のような木とか、妙に斜めに生えてきている木とかはそのまま残っていた。こっちは、そう簡単に変わることのない目印だ。
ある程度森の地形を思い出したところで、まだ行ったことのない場所に向かう。
……あっ。
ドクン、ドクン……
目の前の光景に、急に心拍数が上がり始めた。
無理もない。私が見つけたのは、見慣れた建物。私の森生活の最終目的地。
リセンダ貴族の屋敷だ。
やっと見つけた。今までいろいろ大変だったけど、やっと帰ってこれたんだ。
どうしよう、急のこと過ぎて次にどうするべきか分からない。……いやいや、まって、確か随分前に事前に考えていたはず。えーっと、何だったっけ?
ああ、そうだ。ベルの強さを見てもらえば、もしかしたら屋敷に戻れるかもしれないって考えてたんだ。
ベルにはドラゴンになってもらって……、いやいや、最初からそんなことしてたら私の魔力が持たない。そうだなぁ、キツネになってもらおう。
もし必要なら、他の動物にもなってもらう。ていうか、そうでもしないとスライムが強いだなんて認めてもらえない。
それでも帰してくれなかったら、屋敷の前に居座ってみる。屋敷の中に入れてもらえないだけで、屋敷の外で生活するのは禁止されてない。
大丈夫。もう何週間もこの森で過ごしてきたんだ。慣れっこさ。それに、ベルやクーくんもいるし──
……クーくん?
クーくんが悲しそうにこっちを見ていた。
そうだ、クーくんはどうなるの?
私がこのまま屋敷に帰れたら、多分クーくんは、また独りぼっちだ。
クーくん。私と一緒にいる間も、私以外のクーゲルベアーと関わる様子はなかった。いや、クーゲルベアーは元々群れで暮らさないけど、少なくとも家族くらいは作ってる。
クーくんには、そういう家族すらいなさそうだ。
でも、残念だけど、クーくんを屋敷に入れてもらうことは叶わないだろう。屋敷では使い魔以外のペットを持つことは禁止されている。理由は単純。普段屋敷の人は日夜魔法の修業漬けなので世話ができないし、毛の掃除やらがめんどくさいし、床に生き物の毛が落ちているのは見栄えが悪い、客が来た時に悪印象なんだとか。
……クーくんと洞窟内で過ごしてきて、抜け毛は気にならなかったけどなぁ。でも、なんだかんだ言ってきて多分拒否られる。
クーくんのこと、やるだけやってみる?いや、まずは私の屋敷生活の復帰が第一だ。あれもこれ持って欲張ってちゃ全部叶わなくなる。
「クーくん」
私はクーくんの目を見て、伝えた。
「実は私、元々あそこの中から来たんだ。ちょっと前に追放されたけど、ずっと戻りたかったんだ。でも、大丈夫。私がもっと強くなったら、屋敷の外にも自由に行けるようになる。その時は、また一緒に暮らしてくれる?」
言葉が通じてるとは思えない。今まで何回か意思疎通を試みたことはあるけど、どれも分かっているのか分かってないのか判断が付かない曖昧な反応の仕方だった。
「……」
するとクーくんは、その場に座り込んでしまった。そして、コクリとうなずいた。
見届ける、という意味なのだろうか?
……
それなら、私がすることは一つ。
「行ってくるね」
一言だけ言って、振り向かず、まっすぐ歩き始めた。
ピンポーン
「ヤッコです!もともとリセンダ貴族でお世話になっていた、ヤッコです!お話があって戻ってきました!」
門のインターホンを押した私は、大きな声で門に訴えかけた。
別に大きな声を出す必要はないのだけれど、真剣さを伝えるために敢えてやっている。
ちなみに、ベルはすでに私のひざ下くらいの大きさの子狐に変身してもらっている。この程度の変身なら、私の魔力でも10分はもつことが分かっている。
恐らく、私の様子は門の前に取り付けられたカメラから見えるだろう。そのカメラからよく見える場所に、ベルを立たせている。
「ここにいるキツネは、先日使い魔の儀で召喚されたスライムです。このスライムは、実は変幻自在な能力を持っていることが分かりました!必要であれば、他の能力もこの場でお見せすることができます!」
ここまで話したところで、屋敷から返事が来た。
「ヤッコ、しばらくそこで待ちなさい」
この声は、父上!父上が出て来てくれるのであれば、屋敷に戻れる可能性がかなり高い!私は言われるまま、この場で待つことにした。あ、ベルは一回元のスライムに戻ってもらった。
やがて門が開き、父上が私の前に現れた。父上は何やら鞄を持っているようだった。
その鞄は、見た目以上に物を入れることができる魔法の鞄だ。でも、父上がそれを持ち運んでいるのは珍しい。
「父上……!」
「ヤッコ、久しぶりだな。生きていると信じていたぞ」
ああ、懐かしい。会うのは1カ月、いや、もしかしたら2カ月ぶりかもしれない。
まさか最初に父上が出てきてくれるとは、予想外すぎた。だって家にいないことの方が多いし、そもそも最初に出てくる人といえば案内人なんだもん
久しぶりの再会、何を話そうか考えていた、その時、
「だが、すまない。ヤッコを屋敷に戻すことはできないんだ……」
……え。今、なんて?
「赦してくれ、ヤッコ。あの後屋敷で話し合い、如何なる理由があってもヤッコをリセンダ貴族として扱わないことが決定した。オーガの名の下でな」
矢張りオーガをどうにかしないと無理そうです。




