2-9: 招かれざる客獣
前振り通りに戦闘が始まります。
私たちの傍に、ロブロが現れた。
ロブロはゴリラみたいな体つきで首元にライオンのような毛をはやした、物理も魔法も使ってくる厄介な大型の魔物だ。
人間やムーナウルフ、クーゲルベアーのような中型、大型の魔物を仕留めて食料にしている。
個体数は少ないはずだけど、まさかこんなところで出くわすなんて。
大きさはクーゲルベアーよりは小さい、はずなんだけど、クーくんと比べたら同じくらい……?
「ゴアアアアア!!」
でまぁ、当然だけど友好的ではない。ロブロは突進してきて、私に拳を振りかざしてきた。
は、速いっ!来るだろうと思って一足先に避け始めてたけど、喰らうかも!?
ドゴォ!
ロブロの拳は地面を強打し、軽く地鳴りが響く。その威力にも驚いたけど、それ以上に驚くことがあった。
なんとクーくんが素早く動いて私をロブロから引き離したのだ。今私はクーくんに抱えられてる状態だ。
あっぶない。クーくんがそうしてくれなかったら本当にロブロの攻撃を喰らってたかもしれない。
あと、クーくんの毛並みが想像よりモフモフだ。あったかいし、って、そんなこと考えてる場合じゃない!
クーくんから降ろされた私は体勢を整えて、ロブロに向きなおる。逃げるのは、無理だろうな。ロブロ足速いし、しつこく追ってくるだろう。
するとロブロは、魔法で右手に火球を作り出し、私たちに向けて投げつけてきた!
ドカンッ!
私は右、クーくんは左に飛んで火球を避けた。その直後、クーくんの目の前にロブロが突進してきて、クーくんに拳を突き出した。
クーくんも腕でガードしようとしたけど、ロブロの拳が強すぎてクーくんは後ろに突き飛ばされてしまう。
「クーくん!?」
私は思わず声を上げる。クーゲルベアーとロブロ、比べたらクーゲルベアーのほうが強かった気がするけど、あんなに簡単に吹き飛ばされるなんて……。
多分、このロブロ、相当強いんだ!
クーくんは地面に倒れるが、すぐに起き上がろうとしている。しかし、その間にロブロは私の方を見てきた。
おっと、まずい。今はクーくんの助けを借りられない。ベルの変身能力も私の魔力を消費する以上そんな気軽に使うものではない。
じゃあどうするか。私は魔法で氷の刃を複数生成し、向かってくるロブロに向けて一斉に投げつけた。
ロブロの突進の勢いが若干遅くなったし、多少はダメージを与えているはずだ。ロブロの攻撃を避けられるギリギリまで引き付けて、私は回避する。
またロブロは私に接近してくるけど、私はすかさず距離を取る。とにかく近距離は危険だ。ロブロの遠距離魔法攻撃も厄介だけど、まだ避けられる範囲内だ。
そうこうしていると、クーくんが近くまで突進してきた。普段私に見せない厳つい表情は戦闘中のクーゲルベアーそのもの。
さらによく見たら、クーくんも身体強化の魔法を使ってる。クーくんの身体から発せられる魔力のオーラがその証拠。クーくんも本気だ!
ロブロもクーくんに気づいたようで、振り向いて応戦する。
ズガァアン!!
お互いの拳がぶつかり合い、衝撃音が鳴り響いた。
私は思わず身震いしてしまった。あれほど本気のクーくんを見たことないし、強大な力がぶつかり合う光景を見るのは初めてだった。
クーくんの拳や爪が容赦なくロブロに襲い掛かり、ロブロも負けじと物理や魔法で応じる。
一撃一撃が派手なその光景に見入っていたが、ふと我に返る。そうだ、のんきに眺めている場合じゃない。私も援護しなくちゃ!
私は得意の魔鉄砲でロブロを撃つ。外しても良いから、間違ってもクーくんを撃たないように気を付ける。射撃の自信はあるけど、念のためだ。
魔鉄砲は何発かロブロに命中するが、致命的なダメージは与えていない。単純にロブロの皮膚が固いのだ。だが、少しずつだがダメージを与えている。クーくんの奮戦もあって、ロブロはクーくんの相手で手いっぱいだ。
このままいけば勝てる!そう思った矢先、ロブロが急に身構え始めた。するとロブロの周囲に魔力が集結し始める様子が見えた。
何かする!?何か大きなことを……!?
「クーくん、離れて!!」
ドガァァアアア!!
私が叫んだ直後、ロブロを中心に巨大な爆発が巻き起こった。私はあまりのまぶしさと熱風の余り、顔を腕で覆い隠す。
まさか、自爆した!?そうでなくとも、爆発系の魔法を使ったらしい。しかしこの威力、半端じゃない!
クーくん、クーくんは大丈夫なの!?向かってくる熱風がある程度勢いを弱めた時、私は恐る恐る目を開き、腕をどけて前を見た。
ドンッ!!
……クーくん?
クーくんは今まさに、ロブロの拳を顔面に食らってしまっていた。
ドサァッ
クーくんが地面に倒れてしまった。そんな、クーくんが……。一気に血の気が引いていくのを感じた。
するとロブロが真っ直ぐ私に向かって突進してきた。
あ、しまった!クーくんに意識を持っていかれて気づくのが遅れた!
ロブロが私に拳を突き出してくる。ダメだ、避けられない!
私はとっさの判断で自分の前に魔法のバリアを張った。
ドスッ!!
んひぃ!!??
ロブロの拳はバリアを粉砕し、私の胸元を強打した。私は軽々吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。
「……ぁ」
まって、痛いってレベルじゃない。悲痛の叫びすら上がらない。なにこれ……。頭がグワングワンするし、胸のあたりがぽっかり空いたような、でも胸元には何か残ってるような、っていうか吐き気が──
「ゴポァ!」
……口から血を吐いてしまった。あ、ヤバいこれ。本当に死にそう。動こうと身体を持ち上げようとすると胸とか心臓だけが置き去りにされそうな感覚になって吐き気が湧いてくる。
ロブロがこっちを見ている。あ、終わったかも、……あ。
クーくんがロブロの背後から突進してくる。顔面を殴られたせいで鼻血が出ている。って、待って!クーくん身体強化の魔法解けてる!
ロブロは即座に振り向いて、クーくんの突進を受け止めると、腹に一発。
ゴスッ!
クーくんは痛みの余りその場で立ち尽くしてしまう。するとロブロはそんなクーくんを持ち上げて、私に向けてぶん投げてきた!
「え、ちょっ」
ドサァア!!
クーくんは私の目の前に落ちてきて、目と目が合った。
クーくん……。
「……」
クーくんが泣き始めた。クーくんの瞳から、大粒の涙が、ポロポロと。とても悔しそうな表情だ。
その奥には、最初からずっと無表情なロブロ。ロブロにとって私たちは、狩られる側のただの獲物だったんだね……。
するとクーくんがゆっくりと立ち上がり、私を背にして両腕を広げた。
ク、クーくん?もしかして、私を庇ってる?でも、どうして?今となっては親しい間柄かもしれないけど、私は人間だよ?
するとロブロは魔法を唱え始め、こちらに向けて火炎を放ってきた。
火炎魔法が丁度逆光となり、クーくんのシルエットがどことなく神秘的に見えた。
カッコいい、けど、悔しい。
結局私は、何もできなかった。私にもっと力があれば、ロブロにだって勝てたかもしれないのに……。
火炎が迫ってくる。もう少しでクーくんだけではなく、私をも飲み込んでしまうだろう。
私はゆっくりと、涙をこぼしながら、目をつぶった。
おわり……?




