2-5: 奇妙なご近所さん
一応は、無事に朝を迎えられたようです。
「……っ!!??!??!?!!?!?」
朝、目が覚めた瞬間、驚きのあまり声を上げそうになった。
私と反対側の洞窟の隅で、クーゲルベアーが横になっていた。
え、なんで?しかも、めっちゃこっち見てる。
ちょ、ちょっと待ってよ。クーゲルベアーって、自分の縄張りに入ってきた部外者はかぼちゃのように叩き潰す魔物のはず、だよね……?
もしかして、この洞窟、クーゲルベアーの縄張りの中だった?いや、そんなはずは、ない、よね?
だって、クーゲルベアーの縄張りは1時間で見回りできるほど狭い。2日も空けてるなんてありえない。
第一、私なんでまだ生きてるの?このクーゲルベアー。いつでも私を殺せたはずなのに、なんで私生かされてるの?
「……」
「……」
私とベル、クーゲルベアー、誰も何もしゃべらない。沈黙の時間が続いた。
そしてクーゲルベアーは寝返りをうち、私に背を向けた。
……あっ。
このクーゲルベアー、背中に大きな傷がある。誰かにひっかかれたかのような、大きな3本線の傷。……いや、だからと言って私を襲わない理由にはならないんだけどさ。
こんなクーゲルベアー初めて見た。そもそも野生のクーゲルベアーを見たのって、一昨日と今回だけなんだけど。
まさかここまで本で読んだ知識と違うことが起こるなんて思わないじゃない。どうなってるの?
……さて、どうしよう。
恐らくこのクーゲルベアーには、何もしないのが最良だろう。ただのご近所さんだと思えば、いや、ご近所さんは無理あるか。
となると、私は私の生活を送ればいい……?うん、とりあえずそうしよう。
それじゃ、とりあえず木の実を採りに行こう。
私が洞窟の外に出ると、クーゲルベアーも一緒に出てきた。いや、だからなんで?
たまたま出るタイミング一緒だった?そういう考えはすぐに消えてしまった。
なぜなら、またベルに頼んで木の実を採ってきてもらっている最中、クーゲルベアーは立ったままその様子を眺めてたから。
うん。明らかに私を監視してる。もしかして、太らせてから食べようって?でも、そんな性悪なことする種族じゃないはずなんだけど……。私が知らないだけ?
そんなことを考えていたら、木の実を持ったベルが落ちてきた。ベル、屋敷の3階よりも高い所にある木の幹から落ちてきてよく平気だね?
そしてベルが持ってきてくれた木の実を食べていると、クーゲルベアーが私に近づいてきた。
え、まさか、この木の実が目当て?そう思った矢先、クーゲルベアーが右腕を思いきり振りかぶって、
ズドォォォォオン!!
うわっ!?凄い威力。クーゲルベアーの拳は目の前の木に炸裂し、近くにいた私に振動がもろに伝わってくる。
こんなの食らったら即死だよ。……でも、これ何してるの?
すると上から木の実がボトボトと落ち始めた。クーゲルベアーの正拳を食らった木は、葉を落としながら幹を揺らしている。
そしてクーゲルベアーは木の実を拾い上げて、食べ始めた。
ああ、これが目的だったんだ。じゃあ、落ちてきた木の実はクーゲルベアーのものか。
……ん?クーゲルベアーが、チラチラこっちを見てきてる。勝手に食べないようにかな?
とか思ってたら、今度は木の実をチョイチョイって私の方に寄せてきてる。
待って、クーゲルベアーの意図が分からない。食べろってことなの?
とりあえず、寄せられた木の実を手に取ってみる。クーゲルベアーはそんな私の様子をじっと見ている。見ているけど、何もしてこない。
えーっと、次に私は、木の実を口の前に持ってきてみる。
「……」
「……」
クーゲルベアーが手の甲で私が持ってる木の実を私の口に押し付けてきた。あ、食べろってことなのね?
私は恐る恐る、木の実をかじった。
モグモグ……
「……」
「……」
クーゲルベアーは何も言わずに、また木の実を食べ始めた。
……これは、私の分の木の実も採ってくれたってことで良いの?でも、なんで?
ふとクーゲルベアーと目が合う。
何はともあれ、私はクーゲルベアーに手助けしてもらってしまった。
「……ありがとう」
私は笑みを浮かべながら言った。言葉、通じてるとは思えないけどね。
「……」
するとクーゲルベアーはそっぽを向いてしまった。
あ、あれ?なんか、頬染めてる?もしかして、照れてる?
クーゲルベアーは私を見ずに木の実をモシャモシャと食べ始めた。
クーゲルベアーくん……。
よく見たらこの木の実、地面にぶつかったところがつぶれてる。乱暴な取り方したからしょうがないか。
ていうか、クーゲルベアーくんが食べてる木の実もちょっとつぶれてる。でも気にせず食べてる。
ラドックの場合も仕留めたネズミを土が付いたまま火も通さずに食べてたし、野生の魔物ってその辺気にしないのかな?気にしないんだろうなぁ。
さて、腹ごしらえも終わったし、次は、そうだな……。
この周辺の地形を頭に叩き入れよう。
私の最終目標は屋敷に着くこと。ただ、そう簡単に見つかるとは思えない。かといって闇雲に探せばせっかくの隠れ家の場所すら忘れてしまう。
だから、隠れ家を中心に脳内の地図を広げて行って、行動範囲を広げるよう。そうしているうちに、自然と屋敷にもたどり着くでしょ。
今回は透明化魔法を使わないようにしよう。たまには魔物と戦っておかないと実戦で困ることになる。
クーゲルベアーくんのことも気になるけど、多分気にしないほうが良い。お互い付かず離れずって感じだし、そもそもクーゲルベアーくんの素性は分かってないし。
そうと決まれば、この付近の探索を開始しよう!
……えっと。クーゲルベアーくんも後ろから付いて来てる。だからなんで?
もりのくまさん。ストーカーする。




