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1章5話 「神器、刑光刀」


 


 トイレを出た後も、私は他の人間たちに聞き込みと尋問を続けた。


 

 全員分が終わった時には、20時になっていた。



 会場にいた39人の内、【神器】が示した犯人有力候補は2()()


 ①山中(やまなか) 大佑(だいすけ)


 ②織賀(おりが) (ひとし)


 面白いことに、前半で聞き込みをしていた男性2人だ。



「…………」


 私は、懐から一本のペンライトのような棒を取り出して、繁々と見つめる。


 これが、出発前にメイリーからソリネスの後に渡されたお助け神器――【刑光刀(けいこうとう)】。

普段は何の力もないただの棒に過ぎないが、【自分が処罰するべき敵】と遭遇すると振動で教えてくれるのだ。敵があまりにも強大だと、刀身が特別な色に発光して殺傷能力が発動する。



 最初に反応したのは、大佑。故に、コイツが犯人かと思いもしたが、その後、仁にも反応を示した。エッジの死に際の言葉を間に受けるとすると、犯人は一人のはず。


 恐らく、私個人がその人物に感じた疑惑の感情も、刑光刀が読み取って【敵】と認識してしまったのだろうか?

だから、刑光刀の反応が正しいとは限らないし、本当にその2人の複数犯の可能性もある。


 ……とりあえず今は、有力候補の2人という段階に留めておくに限る。今の時点では決めつけるのは早計だ。誰を前にしても、刑光刀は発光しなかったし。証拠もないし、私も確信を得ていない。


 刑光刀はきっと、真犯人を追い詰めた時にその機能を正しく発揮するだろう。




「…………タイムリミットまで、後4時間か……」

 

 早い。すぐ次の行動を取らなければ。



「夕方も訪ねたけど……もう一回いくべきね」

 

 安道(あんどう) ヨネのところに。


 夕方は最低限の話しかしていないからだ。



「……行こう」



* * *



 ――コンコン。


 ノックと同時に私は扉を引いた。



「………………マロン様……でしたっけ……?

どうされました?」


 背中が曲がって、しわがれた老婆が出迎えてくる。


()()()ね。

孤独(アローン)のアロン。

夜中に悪いんだけど、夕方の続きとちょっとこの店調べさせてほしくてね、|安道 ヨネ」



 ここは、安道 ヨネが営む土産屋。現場である神殿からは200m程離れている。


 店は外観から内部まで、懐かしさを思わせる木製構造。壁や床、テレビや冷蔵庫等の家具には年季が入っている。居間には畳が敷かれ、小さな丸テーブルが中央に置かれている。老舗という表現が相応しい場所だった。



「……構いませんが……。

まだ、犯人は打ち首になっていないのですか……?」


「犯人はまだ分かっていないわ。

怪しいのは()()()いたけど。

とりあえず、皆は私が許可するまで屋敷の宴会場から出ないように言ってあるわ。

申し訳ないけどね」


「………………」



 ヨネはぷるぷると拳を震わせている。彼女もエッジを深く信仰していたのだろう。怒りが身体からこぼれて仕方ないといった感じだ。



「……許せません……」


「そうね。

犯人が誰であろうと、どんな人物であろうと、どんな過去があろうと……私は神に逆らった反逆者として殺すわ。

そのための協力を、もう一度お願いするわ」



 ヨネは何かを思い出したように手を打った。



「……そういえば……!

昼間言い忘れていたことがありました……」


「何?」


「いえね、事件が起こった時間って14時30分頃っておっしゃいましたよね?」


「ええ」


 ヨネがゆっくりと近づいてくる。そして、私に耳打ちした。



「あのくらいの時間帯だったと思うんですよ、神殿の方から、何か【小さい爆発音】のようなものが聞こえてきたんです」


「!」


 何故、そんな大事なことを言い忘れていたのか。昼間はそんなこと全く……。



 その時、私の(ふところ)がまたも疼き出した。

刑光刀が反応したのだ。今私は、ヨネに一瞬の大きな疑惑の感情を抱いた。そのせいだ。


 元々、彼女には唯一アリバイがなかった。一日中この店にいたんだ。それにこの店は現場から最も近い。

それだけでは犯人とはいえないとはいえ、神器が反応しているのだ。これで有力候補が3人になってしまった。



「申し訳ございません……。

物忘れが酷くて……」


「……まぁ、いいわ。

教えてくれてありがとう。

それで?」


「私は音を聞いただけです……。

外の様子を見に行こうかとも思ったんですけど……体を動かすのが億劫(おっくう)で億劫で……」


「どんな音だった?」


「ドーン! という感じが()()()()……。

今まで忘れていたのは、花火か何かを誰かが上げたのだと思ったのもあります……」


「パーティ会場から神殿まで1kmは離れている。

会場にいた誰も、そんな音が聞こえたとは言っていなかった。

それは、ここにいたあなたにしか聞こえないくらいの音量だったということね?」


「…………すみません、自身がありませんが……そうだと思います……」



 ふーむ。この距離にいた者にだけ聞こえる爆発音がした……か。



「あなた、耳は遠い方ってわけではないわよね?

私と普通に会話できているし」


「ええ、まぁ。

聞き間違いはたまにありますが」


「じゃあ、その音は聞き間違いではないの?」


「それは絶対にありません。

あれはきっと、エッジ様を殺した爆発だったんです」


 ヨネは自信を持って断言した。



 ……確かに、現場からそれが聞こえてきたということは、犯人が起こしたものの可能性が高い。


 …………エッジの死に際の通信の時には、そんな音は入っていなかったが、あれはエッジの声だけを受信するためのものだ。周りの環境音は聞こえないようになっている。



〈あの、人間…………!!

(ひと)…………ぃっ、

――ごふっ!!〉


 私はエッジの断末魔の言葉を一言一句思い返した。


 爆発が事実だとすると、恐らく【ごふっ!!】の激しい吐血の時に爆発が起きたものと考えることにしよう。


 爆発が起きた理由は、エッジにトドメを刺す目的のため……?

それとも、エッジにこれ以上通信をされて情報を喋らせるのを防ぐために……?



「…………とりあえず、ありがとう。

その爆発のことは重要な証言にさせてもらうわ。

で、私がここに来た本当の目的なんだけど」


「?」


「エッジ様に捧げるお供物って……この店から購入している客も多いんでしょう?」


「……は、はい……」


 ヨネの表情が強張った。


「直近のレシートとか、明細とかある?

この町の誰が、何を買ったかなんていう情報が分かればいいんだけど」


「それは……どういう……」


「念の為よ。

とにかく、見せてくれない?

出せる物は全部。

後、商品のパッケージもね」



* * *



山中(やまなか) 大佑(だいすけ)――ヨーグルトようかん。

華音(かのん) (あきら)――拾単(じゅうたん)(酒)。

夜舟(よふね) 散羅(さんら)――パイパイ(おっぱいの形をしたパイ)

無良尾(むらお) (りょう)――リスのいえ(クッキー)。

諸田(もろた) 孝哉(たかや)――(やなぎ)せんべえ。

織賀(おりが) (ひとし)――ヨモギまんじゅう。

…………etc.。」


 当たり前だが、ここに書かれている客は、全員先程パーティ会場にいた人間たちだ。その数29人。刑光刀が反応した2人がこの店でお供物を購入したのは分かっている。だから、この店を調べているわけだ。



「助かるわ。

購入された商品名だけでなく、本当に誰が購入したのかまで記録してくれてて」


「物忘れが酷いので、こうやって記録しているんです。

色々と」


「ついでに、証拠品として商品のパッケージの写真も撮らせてね」



 私は腰に下げていた大きな巾着袋を開ける。パーティ会場にいる皆が身につけていた所持品をこの中に集めていたのだ。無理矢理詰め込んでいるのでパンパンだ。


 その中から、ロックが設定されていないスマホを1台取り出す。そして、商品のパッケージやラベルの写真を(勝手に)撮っていく。



「あの、どうしてこんなことを?」



 …………………………。



 まぁ、言ってみるか。



「考えてみたんだけど、犯人は【毒】を使ったのかもしれないわ」


「ど、毒!?」


 ヨネがギョッと目を見張り、ズッコケそうな程身を引いた。


「エッジの血痕を解析してる時間はないから、断定はできないけどね。

……パーティ会場にいる39人にはアリバイがある。

けど、毒なら時間差で殺せる。

犯行時刻のアリバイの有無を覆せる。

この町の皆んなが、エッジにお供物を渡すというシステムを犯人は逆手に取った……って考えたわけ。

これなら、異能を使えない人間でも、神を殺せなくはないでしょ?」


「そ、それで……証拠の写真を?」


「そういうこと。

ま、神を殺せる毒なんて、そう簡単に作れるはずはないんだけどね」



 すると、ヨネは何を思ったのか、一つのお菓子をこちらに差し出してきた。



「…………おこしさま……というお菓子です。

私が、エッジ様に今朝捧げたものです」


「あ、ありがとう。

これも撮らせてもらうわね」


「しかし、私はやってません!

毒なんて仕込んだりなんて、してませんから!」



 ヨネは私の腕を力強く掴んできて、激しく揺らしてくる。


 そういうことか。彼女は自分が疑われていると思ったようだ。



「エッジ様を殺した犯人を暴くためなら、どんな協力でも致します!

……ですが、私は毒なんて知りません……!」


「………………そう」



 素っ気なくヨネの手を払い、写真を撮る。


 やがて、写真を一通り撮り終わった後、ヨネに言い放った。



「………………あなたが犯人だとは言ってないわ。

でも、最終的に判断するのは私よ。

それは忘れないで。

協力には感謝するわ」



 そして、土産屋を後にした。



* * *



 21時。


「あの子、収穫はあったのかしら?」


 私はソリネスがいる現場の神殿へと向かいながら、改めて巾着袋の中身を確認した。



 中に入っているのは、スマホ、腕時計、ハンカチ、ポケットティッシュ、ボディシート、名刺、財布、手帳、カメラ。複数あるものもあれば、一つしかないものもある(スマホは1台私が勝手に使っている)。

それぞれの所持品が誰のものか分かるように、名前付きのタグを引っ掛けておいた。


 改めて見ると、やはり特段珍しいものは入っていない。もし毒殺でなければ、この中に代わりの凶器になるものが……あるのか……? 


 それではさっきの毒殺推理はおじゃん。時間の無駄だったことになる。



 ……くそっ。


 疑惑だけはいくつか持っているのに。


 なかなか確信に至れない。


 時間もなくなっていく。


 刑光刀の反応もいい加減だ。メイリーめ。しょぼいお助けアイテム寄越しやがって。


 ……とりあえず、まずはソリネスと合流してから考えることに――



 ……………………………………?



 あれ?



 そういえば…………まさか…………。




 ――私の頭に一つ、大きな疑惑が浮かんだ。



 だが、まだ調べなければならないことがある。



 やはり神殿だ。神殿で何か見つかれば。


 私の疑惑を繋げるものがあれば。



 一気に、頭の中に光が差し込んできた。


 もう少しで犯人を追い詰められる……。





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