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1章1話 「神様だって、こんなもん!」

第1話開始です。

よろしくお願いします!




 これを読んでいる人間の皆んなに最初に言っておこう。


 私は神様だ。


 それも、姫君のような立場である。



* * *



 今日は6月23日。



「ギャハハハハ!

そ〜らよっ!」


「はい、キャッ〜チ!」


「次、こっちよこせ!」



 キーン、コーン、カーン、コーン……。


「――それでは、今日の授業はここまで。

気をつけて帰ってね」


 絶賛無能を謳歌中の私――『アロン(333歳)』は、チャイムが鳴ったと同時に気怠(けだる)く言い放った。



「あ〜、今日もつまんなかったな〜」


「ほんと、偉そうで!

あんなのが、トップの娘なんて参っちゃうわ!」


「うだつが上がらないから、無理矢理こんな仕事させられてるんでしょ」


 途端に、キャッチボールが止んだ。

周りの()()の子供たちが(聞こえるように陰口を叩きつけながら)さっさと教室を出ていく。先程まで30人いた教室が、あっという間に私以外誰もいなくなった。




「…………めんど」


 静まり返った教室の中、ポツリともらした私は教卓に突っ伏した。無造作に伸ばした栗色のツインテールが振り子のように揺れ動き、両サイドから口の中に入り込んだ。舌に伝わってきたのは、この鬱屈とした気分と同じ味。



 ここは、神々が住まう空の上――【天界】の学校。

私は、ここで他の神の子たちにこの世界の(ことわり)や地上の【人間界】で暮らす【人間】や【魔物】について教える授業をしている。教える内容はそこまで需要のないことばかり。


 それが、私の仕事。役割。



 我々神々は、この世界――【フォンテ】を治めている。

つまり、人間よりも魔物よりも偉く、尊く、強い力を備えているのだ。



 ……にも、関わらず。


 神様の一人である私はというと、ここ3()0()0()()()()、尊敬の眼差しを受けたことがない。それどころか、先程のように思いっきり馬鹿にされて舐められている。


 私はこの世界(フォンテ)の最高神である大女神の長女だというのに。


 人間で例えるならば、女の子ならば誰もが憧れる(プリンセス)の立場だというのに。



 全ては私が無能だから。


 神々が備えているべき特別な能力も、【神力(フォース)】も、ろくにないから。


 司る理も、ろくなものじゃないから。


 家事もできないし、得意なこともろくにないから。



 だから、毎日、毎日。こうやって陰口を叩かれたり、授業中に居眠りや遊び始めたりされて、妨害を受けながら先生をしている。

 


「はぁ〜〜〜いつまで、こんな生活が続くのよ……」


 我々は【不老不死】。なので、アンサーは永遠に。


 私はノートPCを抱えて立ち上がった。辛気臭さで溢れかえった空気の教室を出る。



* * *



「おっ。

またあの屑被(くずかぶ)りがこっちに来たぜ」


「あんな落ちこぼれが、『メイリー様』と『ニッカ様』のお姉様なんて、ほんっと信じられない」


「こっち来んな、しっしっ。

臭い匂いと、無能菌がうつる!」


 白いクリスタルで作られた廊下を歩いていると、全方位から毎日こんなのが飛んでくる。……ここまで面と向かって陰口を言われる先生、もとい皇族がいるだろうか……? 普通は表向きは、もっと取り繕ってくれるだろうに……。



 ……ここまで酷くボロカスなのは、妹のメイリーのせいだ。無能な私は、圧倒的な神力(フォース)と【神器】を備えている、有能で天界最強である彼女に嫌われているのだ。


 そして、有能な彼女は、()()()()な両親の代わりに、天界どころかフォンテ全体を束ねてくれている。そんな多忙な彼女にとって、なんの能力も神器もない無能な私は邪魔でしかなく、大女神一家の恥晒し。彼女の指示で私はこうして公に多方面からいじめられている。



 ――だけど、私に向けられる悪意に構いはしない。



 だって、面倒だから。



 それに、メイリーはなんだかんだいって、かわいい妹だから。努力家だし、感情が豊かで、素直だし。私にはずっと冷たいけど、皆んなには優しいし。



 だから、私が歯向かう悪意は、()に向けられるものにだけ。




「おらっ!

よこせ、オラ!」


「抵抗すんじゃねぇ!」


 ……今度聞こえてきた声は、廊下の曲がり角を曲がった先の、突き当たりからだ。私に向けられた声ではない。


 しかし、私はその声をいつも聞いていた。



「…………めんど」


 無能な神様は私だけではない。


 もう一人の無能な男神(おがみ)――『ソリネス』が恐らくかつあげにあっているのだろう。



 ――人間ども、神様だってこんなもんだ。


 神様の社会だって、人間社会と変わらない。上下関係やいじめが普通にある。


 だから、人間ども。神様になんて憧れない方がいい。


 お前らは、人間を謳歌していろ。



「や、やめてください!

これは、僕の大切な――」


 情けない甲高い悲鳴。間違いなく、(ソリネス)だ。


 ――ゴン!!


「ブッ、!」


 鈍い靴音。口が切れる声。



 ――ブチッ!


 そして。


 私の血管も切れた。




「なにしてる」


 曲がり角をすぐさま飛び越えて、割って入った。


 青い波飛沫のように跳ねた髪の男神が、亀のようにうずくまっていた。そして、それを取り囲む3人のチンピラ神。



「げっ、もう一人の無能が来たぜ」


「ま〜た、王女様気取りかよ」


「なんで、いつもこんなゴミ糞悪魔を助けるんだよ。

【裸の王女様】!」


 チンピラの矛先がこちらに向いた。これも、いつものやり取り。慣れたもの。



「いい加減にしなよ。

そんなにやりたきゃ、私をやりなさいよ」


 睨みと凄みを利かせてこういう言い方をすると、相手の反応は決まっていた。



「……行こうぜ、こんな女、蹴り飛ばす価値もねぇ」


「ま〜た、命拾いしたなぁ、亀を司るソリネス」


「じゃ〜な〜!

悪魔の子ッ!」



 …….蹴り飛ばす価値もないこんな女……?


 それが、大女神様の娘に向かっていうセリフ?


 どこまで腐っとるんじゃ、コイツらは?



 ……まぁ、何はともあれ、うざいチンピラはいなくなった。


 いつものこと。口ではボロカスなくせに、奴らは誰一人手を出してこない。ソリネスに対しては殴る蹴るのくせに。多分、変なとこでフェミニストでも気取っているのか。


 それとも、これもメイリーの指示か。

言葉はいいけど、手は出すなと。私の体が傷つけば、近くにいる妹である自分も(けが)れるからだと。


 彼女(あの子)はかわいいけど性根が少し捻じ曲がっているのだ。あり得る話だ。

私のパソコンも私がいない間に勝手に使って、よく人間界へアクセスしていたりする。後でそのことを問い詰めても彼女は首を縦に振ることはない。



 まぁ、今はそんなこと、どうでもいい。



「……大丈夫、ソリネス?」


 彼に声をかける。すると、情けなくうずくまっていた亀の甲羅のような丸い背中がむくりと起き上がった。


 そこには、人間で例えると、大学生くらいのスラっとした青年が立っていた。だが、これでも彼は200年は生きている。口元は先程蹴られたのだろう、少し赤くなっている。困り眉と垂れた涙のような青い瞳が何とも頼りなかった。


「……は、はい……。

あ、ありがとう……ございます……」


 彼は弱々しいお礼の言葉を返してきた。これも、いつものこと。



「しっかりしなさいよ、なんか取られそうになってたの?」


「は、はひぃ……。

僕の、お金が……。

あ、あの人たちに……」


 そう言って、ソリネスはバツが悪そうに歩き出した。


 彼の赤く腫れていた口元は、何事もなかったかのように綺麗になっていた。

――これが、不老不死である神の特権である。傷ついてもすぐに再生し、死んでも五体満足で蘇る。



「ま、私もいつも酷い扱い受けてるけどさ。

あなたはもっと酷いわ!

少しはやり返したら!?」


「ぼ、暴力は……いけない……」


 歯切れが悪い。さっきのいじめ野郎どもだけでなく、私に対しても怯えた反応をされたら面白くはない。


「でも、これで何回目よ!?

そんなんだから、()()()()()()騙されるのよ!」


「す、すいません。

で、でも……もう騙されませんから、人間嫌いだし」


 そう。100年くらい前に、ソリネスは人間の少女に一目惚れして、その果てに痛い目に遭ったことがあるのだ。それ以来、彼は人間嫌いを公言している。



「〜ったく、ほんっとしっかりしなさいよ」


 私はソリネスの背中を叩きながら、並んで歩き出す。



「い、いつも、すいません……。

こんな僕を、助けてくれて……」


「いいのよ、私が好きでやってるだけだから。

でも、あなたはほんっと、私がいないとダメなんだから」


「すみません……」


「ふふっ、これからもずっと守ってあげるわよ」



 ソリネスが何故、神々社会で冷遇されているかというと、一言で言えば――私と同じく無能だからだ。


 能力も神力(フォース)もない。

その上、彼が司る理は【孤独】。そのせいもあって、彼には味方がいないのだ。


 そんな彼に、私は親近感を覚えている。

だから、こうしていつも助けている。私がいなければ、彼は本当に孤独(ぼっち)になってしまう。それに、彼がいなければ、私も本当に孤独(ぼっち)になってしまうから。



 ――そうだ。せっかく彼に会えたんだし、たまには気分転換に!


「ねぇ、たまにはさ、久しぶりに今夜は一緒に食べない?

暇だし、人間界にでも行ってさ!

どーせ、私に与えられた仕事はもうないし!

()()しよっ」


「い、嫌ですよ、人間界なんて!

今、僕人間嫌いだって言ったばかりじゃないですか!」


「ふふっ、冗談!

でも、一緒に食べたいのはほんと。

久しぶりに、昔の秘密の場所で――」


「こんなとこにいたんですか」


 左右が白と黒で二分割されたジャケットを着た、色白の男が正面の角からぬるっとやって来た。もちろん、(コイツ)も神様だ。メイリーの使いである。


 使いはソリネスに気がつくと、


「あなたもいたんですか。

ちょうどいい。

2人とも、今すぐ玉座の間に。

メイリー様がお呼びです」



* * *



 ――思えば、この呼び出しが、全ての始まりだったんだ。



「どうしたのよ?」


 使いは声を潜めて答えた。


「『エッジ様』が――殺されました」


「………………えっ?」



 ………………嘘だろ。


 いきなり、何言ってるの……?


 神様は【不死】なんだぞ。


 ……簡単に殺されるなんて、そんなはずないのよ……。




「エッジ様って……人間界の――【恵洲蘭(えすらん)】を治めていた……?」


 ソリネスがおずおずと聞く。恵洲蘭とは、人間界にある小さな町のことだ。


 魔物の襲撃がない平和な町。【ある曰く付きの町】。



「そうです、そのエッジ様が――()()によって殺されました。

我々のような()()()使()()()()()()()()()()()の、人間の手によって」



* * *



 ――まさか、こんなことになるなんて……。


 寝耳に水だったこの時ですら、全く思ってもいなかった。


 そして、私は【あの時】何気なく口にした言葉を後悔していた……。







読んでいただき、ありがとうございました!

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